(OVO オーヴォより)

特薦?
Cantate Domino
Oscar’s Motet Choir
Alf Linder, Torsten Nilsson,
Marianne Mellnas
2xHD-Naxos
e-onkyo music(WAV/FLAC・192kHz/24bit DSF2.8MHz ¥3,000 DSF5.6MHz 3,500)
「カンターテドミノ」ほど、オーディオファイルに愛されているリファレンス音源もないだろう。1976年のアナログ録音だが、合唱の混変調歪みが最小で、音の体積がひじょうに大きく、ストックホルムのオスカル教会(Oscarskyrkan)の豊潤な音場が実にリニアリティ高く収録されている。アナログ、CD、SACD、そしてハイレゾとメディアと方式は変われども、永遠のハイクオリティ・ベストセラーである。
今回のハイレゾ・カンターテドミノは、カナダFidelio Musiqueレーベルのグループレーベル2xHDがアナログマスターからDSD制作したもの。その5.6MHzDSDを聴く。オルガン和音の偉容、ソプラノの深さと神々しさと、音場に漂うオルガンアルペジオのぶ厚い空気感、コーラスの厚みと透明感とヌケのシャープさ……と、まさに5.6MHzならではの成果だ。アナログマスターとDSDとの相性の良さが、わかる。中央より少し左にオルガン、少し右にソプラノが、比較的奥に位置し、そこから、手前と高さ方向に向かい、音が放射している軌跡が見えるようだ。コーラスの重層感と濁りのなさ、そして音の粒子の緻密な詰まり方はさすがの名録音だ。
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特薦?
Schumann: The Symphonies
Robin Ticciati,
Scottish Chamber Orchestra
LinnRecords(WAV/ALAC・192kHz/24bit 96kHz/24bit $24.00)
ロビン・ティチアーティは1983年生まれ。イギリスの期待の若手指揮者だ。すでにコンセルトヘボウ管、ロンドン響、スカラ座、メトロポリタン歌劇場……などに客演。首席客員指揮者を務めるハンベルグ交響楽団とのドボルザーク「新世界」がCDでの最新盤だ。本演奏は09年から首席指揮者を務めるスコットランド室内管弦楽団だ。
「フレージング、サウンド、アーティキュレーションなどの音楽的側面を熟慮して音楽を作る」をモットーとするティッチアッティの本ハイレゾは素晴らしい。スコットランド室内管弦楽団は彼が率いるようにり、見違えるほどヴィヴットなオーケストラになった。その最新の躍動と、シューマンの精神性の発露が巧みにミックスされた、若々しい名演だ。LINN RECORDSの音も、緻密でバランスが好適。エネルギーに溢れた叙情的で前向きな演奏の魅力を余すところなく伝えている。
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特薦?
Mozart & Chopin ? Dialogues
Josep Colom
Eudora Records
e-onkyo music(FLAC・96kHz/24bit 2,500 FLAC・192kHz/24bit DSF2.8MHz ¥3,000 DSF5.6MHz 3,500 DSF11.2MHz4,000 5.0cbFLAC96kHz/24bit 3,000)
いよいよ、11.2MHzDSDの時代がやってきた。e-onkyo musicでも15タイトルの配信を始めた。私のUSB・DACはexaSound Audio Designのe22なので、11.2MHzDSDに対応している。来月から、インプレッションを述べることにしよう。本コンテンツは5.6MHzで試聴した。
スペインのハイレゾ音源会社EudoraRecordsによる、バルセロナ出身のピアニスト、Josep Colomのモーツァルトとショパンの作品集だ。ブリリアントで、一音一音が輝きのエネルギーを発している。音の表面のすべらかさと表面の微小な凸凹が、音に異様なリアリティを与えている。打鍵して、瞬時に反応するメカニズムの俊敏な動きがまるで手に取るように見えるほどだ。響きが厚く、しかも透明度も異様に高い。その中に直接音を発するピアノが位置するというレイアウト的な実体感が凄い。ピアノの音が会場の空気を震わせている情景が目の前にある。ピアニストの感情もDSDの多彩で細密、重層的な表現力にて、届けられる。冒頭の短調からうって変わってラブリーな長調に移行する部分の劇的な感情変化は、まさにDSDならでは表現だ。
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推薦?
ベートーヴェン:交響曲第5番『運命』、シューベルト:交響曲第7番『未完成』
佐渡裕
ベルリン・ドイツ交響楽団
avex-CLASSICS
e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 1,944)
冒頭。ドイツオーケストラとしては意外なほど重苦しくない。リズムのキレをシャープに、引きずらずに前向きに前向きに、積極的な勢いで進行していくしっかりと安定した。低音の土台の上に、各パートの中高域が乗るピラミッド的な帯域構造は、ハイレゾだからより明らかだ。マルチマイクで録ったのだろう、ホルンやオーボエなどのソロ楽器が、コンサートホールでは聴けないほどの明瞭さと、音像の確かさを持つ。響きの滞空時間は長いが、次に来る直接音を阻害するほどのディープさではない。第4楽章の華やかさ、多彩な色合い、輝度の高さはまさにハイレゾ向き。2014年2月にカラヤン/ベルリン・フィルゆかりのイエス・キリスト教会で録音。
推薦?
マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》
ウィーン楽友協会合唱団
ウィーン国立歌劇場合唱団
シカゴ交響楽団
サー・ゲオルグ・ショルティ
Decca
e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,086)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
冒頭、地を這う雄大、偉容なオルガンの強奏和音に乗って、大合唱が「来たれ、創造主たる聖霊よ」と発する部分からして、たいへん感動的だ。最新録音なら、もっと細密に解像するところだが、1971年のアナログ録音は、微視的な再現ではなく、巨視を基調にして、スコアを構成する各部分が、有機的にひとつの「響きの共同体」となるべくマーラーの狙いを、そのまま聴かせてくれるようだ。音像定位は確実だが、音の出方が、その楽器から直接に出てくるという感覚ではなく、まずは空気を震わせ、その伝播にて耳に伝えられるという現場的な音場感が、この作品の偉大さを物語っている。1971年8月と9月、ショルティ&シカゴ響のヨーロッパ公演の際にウィーン・ゾフィエンザールで録音
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推薦?
RACHMANINOV, S.: Symphony No. 2
London Symphony Orchestra
Valery Gergiev
LSO Live
e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 2,500)
エリック・カルメンのオマージュでも知られる超ロマンティックな第3楽章は濃い感情が透明な音色を帯びて、滔々と語られるが、熱さや、重さに耽溺するだけでなく、論理的で合理的なテクスチャーも横溢しているのが、ゲルギエフバージョンの特徴だ。有名なメロディが盛りあがる部分も、感情過多には陥らずに、抑制感を持って雄弁に語られる。複数の旋律線の交差で語られるボキャブラリーは多い。第4楽章の近代的で複雑にテクスチャーの手綱捌きはさすがの名技だ。音質はハイレゾならではヌケの良さと細やかな解像感を持つが、いつものLSO盤のようにDSDでも聴きたかった。さらに情感が濃密になるに違いない。
特薦?
Mozart: Piano Concerto No..18, K.456 & No.19, K.459
Mitsuko Uchida
The Cleveland Orchestra
Decca
e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,086)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
活発で、ヴィヴット、そして優しげなモーツァルトならではのテクスチャーが、耳を心地良く撫でる。クールなまで情報量を多く再現するというより、直接音と間接音が巧みにブレンドされたなかで、清涼に音場が語られる。直接音がホールで間接音を生み出し、手前から奥行きにまで深い響きに変化していく様子は耳の快感だ。速いパッセージでの燦めきも、そしてたっぷりと表情を付けた一音一音から発する内田光子ならではの音の神々しさも、素晴らしく上質に再現される。内田のピアノは眼前にて微視的な虫メガネで覗くようなものではなく、会場の響きも加わり、少し離れた位置で聴ける。オーケストラとの好適なバランスの中で、密度の高いソノリティが語られる。バランスとは音量や音像だけでなく、表現意欲において、ピアノもオーケストラも対等に語られるという意味も含む。
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推薦?
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番/ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲第4番
ヒラリー・ハーン,
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン,
パーヴォ・ヤルヴィ
Deutsche Grammophon
e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,086)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
ヒラリー・ハーンが「友なる協奏曲」と語る親密な2曲。素晴らしいソノリティだ。モーツァルト冒頭の弦のスタッカートの旋律。左の高域、右の低域弦楽器が平面に並ぶのではなく手前、奥行きと音場的な一体感を持って配置。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンの音は、バックのオーケストラのビリオド的な弦とはまったく異次元のまろやかさ。それも甘いだけでなく、音の内部の密度感がひじょうに高い。“強靭なる潤い”なのだ。高域方向への突き上げ感もシャープ。彼女はこれまで鮮烈さ、切れ味、俊敏さが持ち味だったが、本アルバムでは、それに加え、潤いも手にしたようだ。新生といっていいほどの変容ぶりだ。モーツァルトは2012年12月4、5日にドイツ・カンマーフィルハーモニーの本拠地、ブレーメンで、ヴュータンは2013年8月7、8日にその近くのシュトゥーアで録音。
推薦?
The French Collection
Opera Arias By Bizet
Massenet, Gounod, Verdi
Piotr Beczala
Deutsche Grammophon
e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,086)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086)
ポーランド出身のリリック・テノール歌手、ピョートル・ベチャワ(Piotr Beczala)はメトロポリタン歌劇場で「リゴレット」を聴いた。男の色気満々のオーラを発していたのが印象的だったが、彼の表現は、フランスオペラに最適だ。イタリアオペラがベルカントの突きぬけ感、ドイツオペラが精神性だとしたら、フランスオペラは何と言っても艶と色気だ。ベチャワはここでも男の色気を色濃く表現している。ハイレゾだから、その魅力も倍増。ソノリティ豊かで、グロッシーに感覚が溢れる。
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推薦?
Songs For Young Lovers
Frank Sinatra
Capitol
e-onkyo music(WAV/FLAC・192kHz/24bit 2,520)
mora(WAV/FLAC・192kHz/24bit 2,520)
フランク・シナトラのスタンダード集だ。声が太く、粒が立ち、表面がシルキーでビロード的なシナトラの声が、アナログのような生々しさで聴ける。デジタル的にウォッシュアウトされるのではなく、アナログ的な皮膚感覚を保っているのが嬉しい。まさにデジタルで伝えられるアナログの精髄である。一曲目、あっさりと、ワルツでも歌われるマイファニー・バレンタインの情感と、軽快な質感の素敵なこと。5曲目「I GOT KICK OUT OF YOU」の軽い朗唱も素敵。スウィング感と軽快さが愉しい。
推薦?
ランデヴー・イン・トーキョー
伊藤ゴロー
ジャキス・モレレンバウム
Verve
e-onkyo music(WAV/FLAC・192kHz/24bit 4,804)
mora(WAV/FLAC・192kHz/24bit 4,803)
目が醒めるような鮮烈な高解像度。ギター、パーカッション、チェロがひじょうにクリアなだけでなく、女性ヴォーカルも凄くヌケがいい。ライブ録音とは信じられないほどの透明感だ。それも強調感がなく、音の情報量はとても多いのに質感はナチュラルなのである。切れ味鋭くシャープに奏されるギターやパーカッションなどの縦系の楽器を背景に、横乗りのギターが長いフレーズをまったり流すという立体的なアーティキュレーションが心地良い。
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