【2015年5月】〜毎月更新〜厳選!ハイレゾ10本勝負 ◎文・麻倉怜士 

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(OVO オーヴォより)

特薦?
ザ・ピーナッツ ハイレゾ・コレクション シングルス2
ザ・ピーナッツ

キングレコード

e-onkyo music(WAV/FLAC 96kHz/24bit 3,240円 DSF 5.6MHz/1bit 3,500円)
VICTOR STUDIO HD-Music.(WAV/FLAC 96kHz/24bit 3,240円  DSF 5.6MHz/1bit 3,500円)

2004年11月にアルバムリリースした『ザ・ピーナッツ・メモリーズBOX』DISC2に収録された26曲をアナログマスターテープからDSDでマスタリングしている。「スク・スク」「ヘロー・メリー・ルー」「コーヒー・ルンバ」「シンデレラ」……などの翻訳ものが懐かしい。
ハイレゾのザ・ピーナッツは、本欄でも以前に採り上げたが、ユニゾン、そしてハーモニーの美しさが圧倒的だ。双子ならではの“同質性、”つまり同種の声質の二人が同時に歌う声の質感の微妙な違いをハイレゾだから感じることができる。ユニゾンで歌っても、やはり二人の声色にはほんのわずかな違いが出る。このちょっとだけという部分、9割同じだけど1割だけ違うというのが、DSD5.6MHzでよく分かるのである。
そうしたニュアンスに加えて、弱音のやさしさと強音の張り感の対照も愉しい。テクスチャーは鮮烈で新鮮、それでいてナチュラルなのである。まさにアナログの精雅。ワイドレンジで天井が高く、声とバックのオーケストラの対比感もいい。

なお、この音源については、アスキーネット(ASCII.jp)でキングレコードのリマスタリング現場を取材、リポートしているので参照して欲しい(来週にもアップ予定)が、当時録音したTelefunkenやSTUDER製のデッキでアナログマスターテープを再生し、リマスタリング(イコライジング)し、その場でDSD5.6MHz化していた。
かつてのアナログアーカイブものはフラットトランスファーするか、イコライジングをかけるかという2種類の選択があるが、この作品の場合、当時の歌声、そして作品に込められた芸術性を現代に甦らせるためには、イコライジングが必要だと考えているという。それもアナログ領域で掛ける。イコライザーはAVALONDESIGN AD2077、コンブレッションはNeve33609を使用、録音はMERGING TechnologiesのA/Dコンバーター+Pyramix。

完成したDSDのマスターとSTUDER A820で再生したオリジナルの2トラック/38センチのアナログマスターを比較する機会があったが、オリジナルのよさを保ちつつ、さらに現代的な風味が加わったのが印象的であった。ヴォーカルはよりブライトになり、音の力感がくっきりしていた。とはいえデジタルっぽさ(つまり強調感や冷たさ)はなく、明晰化しても、アナログ的なヒューマンな響きを維持していた。
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特薦?
Tchaikovsky: Symphonies Nos.4, 5 & 6 “Pathetique”
Leningrad Philharmonic Orchestra,
Evgeny Mravinsky

Deutsche Grammophon

e-onkyo music(FLAC 96kHz/24bit 3,703円)
mora(FLAC 96kHz/24bit 3,703円)
HQM STORE(FLAC 96kHz/24bit 3,703円)

「チャイコフスキー交響曲第4番へ短調」を聴く。アナログ時代からの天下の名盤だ。1960年9月、ヨーロッパのツアーの際に、ロンドンのウェンブリー・タウン・ホールで録音された。チャイコフスキーのロマン的側面を誇大に表現するのではなく、ザッハリヒ(直截的)に、スコアを透徹し作曲者の意図を峻厳に読み取り、それを音に再現している。レニングラードフィルの性能の高さ、サウンドの豪放振りが、本ハイレゾで堪能できる。

さすがに録音年代からして、トゥッティの強奏はやや粗い(金管など)が、残響の少ない中での直接音主体の録音からは、このオーケストラの凄さを痛感させられる。弦の低域力は、比肩するものがない。同時にリリースされた第5と第6交響曲はウィーンのムジークフェライン・ザール録音なので、ドライなウェンブリー・タウン・ホールの録音とは異なり、ひじょうにソノリティが豊潤だ。
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特薦?
SHARED ZONE
Monjeu

VIVID Productions

e-onkyo music(WAV/FLAC 96kHz/24bit 2,000円)

懐かしいミュゼット音楽が帰ってきた。ギター、アコーディオン、コントラバスのトリオの愉しい調べは、パリ下町の大衆的なカフェで、ワインを飲みながら、聴き流して(?)いるような、むかしどこかできいたようなデジャヴ感覚にとらわれる。「Night In Tunisia チュニジアの夜」「Manha De Carnaval 黒いオルフェ」「Norwegian Wood ノルウェイの森」など、懐かしい曲ばかり。

しかし、懐かしい気分に浸っている暇もないほど、音が良い。各楽器の質感が見事に捉えられ、左のギター、中音のコントラバス、右のアコーディオンと見事なほどに分離を見せる、まさに眼前感の演奏だ。泰西の小品が、おしゃれジャズに編曲されている。Monjeu、モンジューとはフランス語で私の遊びという意味。
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特薦?
Now This
Gary Peacock Trio

ECM

e-onkyo music(FLAC 96kHz/24bit 3,086円)

第1曲、GAIA。鮮明だ。冒頭、ピアノのオブリガードが静かな空気を引き裂くように、鮮烈に始まる。音場内の空気が澄んでいる。ピアノ、ウッドベース、ドラムスはいずれもファントムセンターを中心に音像を形成しているが、ピアノは音域によって左右に拡がる。アンビエントは少なめで、ある距離を隔てて聴くのではなく、まさに眼前の直接音中心な臨場感だ。トリオの醸し出す精妙な音模様が、ECMならではの清涼で透明感の高い描写力にて、余すところなく捉えられている。Gary Peacockのコントラバス、Joey Baronのドラムス、Marc Coplandのピアノ。2014年7月12-14日。ノルウェーはオスロのRainbow Studioで録音。
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推薦?
The End Of The Innocence
Don Henley

Geffen

e-onkyo music(FLAC 96kHz/24bit 3,086円)

ドンヘンリーはイーグルス解散後の1982年からソロ活動を開始。本作品はグラミー賞ベスト・ロック・ボーカル部門を受賞した、1989年のアルバム。重いリズムとねっとりとしたカントリー調の歌唱だが、ひじょうに切れがシャープで、音の剛性感が高い。音場内部にバンドサウンドが緻密に、そして剛直に配置され、大きなヴォーカル音像を支える。ベースが安定して音階を奏し、ソプラノサックスの音色も艶っぽく、チャーミング。音像の造形が強靭だ。

推薦?
Dvorak: Requiem, Op. 89, B. 165
Philippe Herreweghe
Royal Flemish Philharmonic

PHI

e-onkyo music(WAV/FLAC 96kHz/24bit 2,500円)

冒頭の弦楽のユニゾン。スピーカーから物理的に音が出ているという感覚ではなく、空気そのものから音が湧きいずる。コーラスが加わっても同じ音場テクスチャーで、音の軽々とした浮遊感が印象的。音が高く舞い上がり、垂直方向にも豊かに拡がる。活発な音の飛翔がホール全体をきれいに埋めている。音像は2つのスピーカーの間で緻密に、安定的にポジションを持つ。音質は清らかで、音の粒子が細かい。空気感の透明さには驚くほど。
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推薦?
LOVE
中島 美嘉

Sony Music Labels Inc.

mora(FLAC 96kHz/24bit 3,200円)

「雪の華」を聴く。ポップスや歌謡曲のハイレゾによくありがちの、小さなシステムで聴くのがよいのだか、本格的システムでは逆効果という現象は比較的少ない。特に前半の音数が少ない部分は、ハイレゾ的な質感が堪能できる。ベースの存在感が過剰に大きく、もっと切れ味が欲しいところだが、中島の鮮鋭であると同時に歌詞を大切にした情感溢れるヴォーカルはハイレゾではおおいなる魅力。説得力のあるニュアンス表現が耳の快感だ。後半のクレッシェンド部分は、オーケストラが少し硬くなる。

推薦?
Prokofiev: Piano Concerto No.3 / Ravel: Piano Concerto In G Major
Martha Argerich,
Berliner Philharmoniker,
Claudio Abbado

Deutsche Grammophon、

e-onkyo music(FLAC 96kHz/24bit 3,086円)
mora(FLAC 96kHz/24bit 3,086円)

「プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番」を聴く。まさに鮮烈を絵に描いたような演奏であり、録音だ。アナログマスターなのだが、音が良い意味でデジタル的である。細部まで透徹して描写し、クールな音色にて、ピアノとオーケストラの絡みの密度感が高い演奏芸術を素直にそのまま捉えている。若きアバドは、オーケストラにとっても難曲を見事にコントロールしている。高域のきらめき感、中域の豊かな感情感、低域の剛性感……のすべてがアルヘリッチの素晴らしさ!シャープで鮮烈な音楽性が本ハイレゾで堪能できる。1967年、ベルリンはイエス・キリスト教会で録音。
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推薦?
伊東ゆかり ハイレゾ・ベストコレクション
伊東ゆかり

キングレコード

e-onkyo music(WAV/FLAC 96kHz/24bit 3,240円 DSF 5.6MHz/1bit 3,500円)
VICTOR STUDIO HD-Music.(WAV/FLAC 96kHz/24bit 3,240円  DSF 5.6MHz/1bit 3,500円)

2011年11月にリリースされた『決定版 伊東ゆかり』収録の20曲をアナログマスターテープからハイレゾ化。ピラミッドスタイルのF特だ。オーケストラはベース、トランペット、ギター、ストリングス、打楽器……と、楽器の数が多いが、個々の音像が際立つわけではなく、塊的なまとまりで描かれる。ピーナッツはハイファイ調だが、伊藤ゆかりは、あまり音の表面の粒子を立たせず、マイルドタッチなアナログ的な解像感だ。その意味では昔懐かしい歌謡曲音調が、そのままハイレゾで伝えられるという感覚。ハイレゾだから、精細にカラフルに、輪郭が立つというより、ハイレゾが過去のアナログ音源の特徴をそのままリニアに伝えるという風だ。

推薦?
ワルツの夢 〜幸田浩子・イン・ウィーン(24bit/96kHz)
幸田浩子

DENON

e-onkyo music(WAV /FLAC 96kHz/24bit 3,000円)

幸田浩子の声は透明感が高く、優しい。しなやかで柔軟性に富む。耳触りが美しい声は、ウィンナオペレッタにぴったりだ。本アルバムは本場のグィド・マンクージ指揮ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団をバックに2012年にCDで発売されたもの。懐かしく、親しみやすいオペレッタの名作を、しっとりとした情感とコロラトゥーラテクニックで朗唱。ナチュラルな音調で、オーケストラと声のバランスも良い。アンビエンスが豊かで、生々しさと麗しさが同居する。録音は2012年7月2-4日、ウィーン、カジノ・バウムガルテン。

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