(Jタウンネットより)

東急東横線渋谷駅から南東に約700メートル離れた場所に「都営バス渋谷自動車営業所」(渋谷車庫)がある。同駅が地下化されてから2年が経ったが、古くからの東横線を利用している人なら、次の光景を覚えているに違いない。
代官山を抜けて渋谷へ向かう電車は、跨線橋を渡ってすぐのところで大きく左にカーブする。ふわりとした感覚を味わうその瞬間、右前方に見える、都営バスの車庫を兼ねた高層住宅――そう、あれが渋谷車庫だったのだ。

14階建ての建物は1969年に建設され、上階は都営渋谷東二丁目第2アパートになっている。
東横線の地下化で見ることのなくなったあの景色。今でも残っているだろうか――Jタウンネットは渋谷車庫とその周辺を訪ねる旅に出た。
都営アパート最上階からの景色は抜群だった
同車庫は渋谷駅から徒歩15分くらいかかる。せっかくなので都バスで行くことにした。路線は都06系統の新橋駅行きで、広尾や麻布十番、東京タワー近くも通る。停留所「渋谷車庫前」は2つ目。



バスの車内はほぼ席が埋まっている。階段の乗り降りが不要な都営バスは、老人が好んで利用するイメージが強いが、若い女性も少なくなかった。目的地のバス停はあっという間。一緒に降りる人も3名ほどいた。

渋谷車庫は渋谷川を渡ってすぐのところにある。使わなくなった標識が置かれていて、少々シュールな雰囲気が漂う。


渋谷車庫の前に着いたが――立ち入り禁止の表示が目に入る。方向を転じて、都営アパートを勝手に見学させてもらうことにした。

1945年の国勢調査によると日本の人口は約7214万人だったが、1970年調査で1億人を突破する。住宅不足の解消は喫緊の課題で、広い敷地を有する都営バスの車庫は共同住宅を建てるのに格好の場所だった。
昭和40年代(1965〜1974年)、このような建物が各地で建設される。
昨年11月に板橋区西台の都営アパートを見学したときは、ガムテープの貼ってあるポストの多さに閉口した。
ところがこちらのアパートはガムテープが見当たらない。代官山と渋谷、恵比寿からそれぞれ徒歩圏内にあることから、入居希望者は後を絶たないようだ(参照:三田線車両基地の真上にそびえたつ「都営西台アパート」…昭和が生んだ巨大団地の現在)。
エレベーターで最上階へ。共用の廊下から渋谷駅や六本木、田町方面を一望できた。


天気のいいこともあって、すこぶる爽快な気分になった。しばらくぼんやりしていたかったが、住民もいらっしゃることなので早々に退散した。
せっかくなので車庫周辺を散策した。最近の高層マンションの小洒落た雰囲気はかけらもないが、重厚感がある。カメラの被写体としては申し分ない。味わいではむしろ上回っている。



東横線高架跡が何かに似ている…
車庫の横では、東横線高架の撤去工事が進められていたが、休日ということもあり作業はストップしていた。シャッターを切っていると、ある写真とよく似ていることに気づいた。



思い出した。アメリカのロックバンド・ドゥービー・ブラザーズの傑作アルバム「キャプテン・アンド・ミー」のジャケットだ! 収録曲の1つ「ロング・トレイン・ランニン」は、自動車のCMソングに使われるほどメジャーな曲だが、この景色に合っているような気がする。
鉄道工事の看板によると施工期間は6月30日までとなっている。

後編の記事「渋谷にラフレシアが咲いていた…100円で『春の小川』の昔をしのぶ」へ続く