(ライター:村上 健)
まだあったんだ、こんな場所……。量販店が全国展開を始める1970年代以前、家電を買うなら秋葉原という時代がありました。アマチュア無線やラジオの自作に夢中になるマニアが集結したのもその頃です。時は移り、アニメの聖地〝AKIBA〟と化して、そんな昭和のマニア安息の地は失われたんだろうと思いきや、どっこい、JR総武線高架下の雑居ビルにしぶとく生き残っていました。
「ラジオセンター」。いい名前です。創業当時の昭和20年代はラジオが最先端。店名に「○○無線」が多いのも、ラジオと無線が同義語だったからです。
40軒近い店は、いずれも究極の部品専門店。変圧器、コンデンサー、CCDなど、店ごとに扱いが異なり、狭い通路を行き交う人の目つきは、国籍・世代を超えて全員マニアック、と思うのは先入観からでしょうか。
敗戦後、外地から引き揚げた電気無線技術者がラジオ部品を売り始めたビルに、今日も世界中からマニアがはせ参じます。
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』がある。

月刊不動産流通2016年12月号掲載