(ライター:村上 健)
グローバル化が加速するにつれて、多くのまちから固有の風景が失われています。しかし、実際に各地を訪れると、時代と折り合いを付けながら独特のまちなみを保つ風景に出合うこともあります。今号からは、そんなまちを順次紹介しましょう。

まずは温泉街。古代から湯治の習慣はありましたが、保養や観光目的での温泉人気が高まったのは、明治時代も後半になってから。鉄道網が全国に広がって旅が容易になるとともに、国策として観光旅行が促されたためです。

温泉といえば「温泉まんじゅう」が付き物
箱根の温泉街が賑やかになったのもそのころで、スケッチしたのは箱根十七湯の一つ、塔ノ沢温泉。木造4階建ての「環翠楼」や数寄屋造りの「福住楼」は、共に築後100年超の由緒ある建物です。渓谷を眺めつつ、露天風呂で湯煙に包まれれば、ノスタルジックな気分になってきます。また、宮ノ下温泉には、和洋折衷建築が印象的な日本初のリゾートホテル「富士屋ホテル」が健在。周辺には昔ながらの土産物店などもあり、塔ノ沢と並んで、懐かしいまちなみを保ち続ける温泉街です。

村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』 がある。

月刊不動産流通2018年1月号掲載