家のコト

榊原 るみさん「ロスで思い出深い とびきり明るいメキシコ人」

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50才での再婚をきっかけに、第二の人生は海外で送りたいと、張り切って移り住んだのがロサンゼルスでした。そこで11年間、アメリカでの生活を体験し、2年前に帰国しました。

「じゃあ、さぞかし英語も上達したでしょう?」とよく言われますが、とんでもない。語学というものは、どれだけ外国語の渦の中に巻き込まれたかによるもので、いかに額に汗して懸命に学ばなければ習得できないものかを思い知らされました。
というのも アメリカは移民の国。ロスには特にたくさんのメキシコ人達がいます。彼らも最初は英語が苦手なのですが、あっという間に上手くなります。英語が話せなければ仕事にありつけず、それだけ必死に覚えるのです。

そんなメキシコ人の大工さんに、私達が引っ越しをした際にお世話になりました。彼らの性格はとても明るく、人懐っこく、 あまり細かいことにはこだわりません。だから、新しく床を張り替えようと細かく打ち合わせをしたのにも関らず、工事当日に行ってみると、違う色の床板を張り始めている、なんてことも起きるのです。
「えっ、この色ではなかったでしょ?」と尋ねると、「うん、良く考えたらやっぱりこっちの色の方がいいと思ったんだ」とサッパリした顔で言われ、唖然としました。その床板の張り替えが終わると、以前の床板よりも厚みが増したようで、その分、トイレのタンク上部が備え付けの棚につかえて、再び設置することができなくなってしまったのです。日本だったら、「そんなこと初めに言ってよ」となりますが、ここはアメリカです。彼は呑気に「トイレを取り替えればいいから」と言うのです。

気を取り直して、別の職人(?)さんに頼めば「ホームセンターに行って好きなの買って来て」と言われ、またまた唖然。アメリカではトイレだろうが、バスタブの蛇口だろうが、玄関ドアだろうが、その手の物は自分達で買いに行くのです。職人さんは、取り付けるだけ。でも、その取り付け方だって、じーっと見ていると「自分でやった方が良いかも…」と思うこともままあります。例えば、各部屋にあるコンセントなんて、たいてい曲がってついています(笑)。わが家でもお風呂の混合水栓を直してもらったときは、お湯とお水のサインが逆に付いていました。文句を言ったら「やっぱり直す?」だって…。彼らにしてみれば、使用できれば問題ない、細かいことは気にするなということなのでしょう。

でも、どうしてそんなにアバウトなのか? あるとき、何となくわかりました。その日の朝、スーパーの駐車場に行くと、20人位のメキシコ人がたむろしており、そこへ複数台のトラックがやって来ては一人一人と交渉していました。そのうち、ほとんどの人がいなくなりましたが、思うに道路工事や建築作業で人手が足りないので、ピックアップに来たのでしょう。今日はペンキ塗りをしていた人が、明日は排水工事の手伝いをするといった具合です。ですから、日本のようにきちんとした職人さんがあまりいないのです。もっとも、ビバリーヒルズのセレブが住むような豪邸にはそれなりの職人さんがいらっしゃるのかも知れませんが…。

といっても、そこそこ高級なお宅でも、どうやら似たようなことが起こるようです。知り合いがあるお宅にお邪魔したときのことです。たまにですが、ロスでもテレビのニュースになるくらいの大雨が降ることがあり、そのときがまさにその状況。そして、ふと、そこの御主人がぼんやり庭のプールの水面を眺めてつぶやいたのだとか。「この雨では、そろそろ溢れてくるぞ 」と。その言葉に、自分の立っているリビングの床を見てみると大変なことが発覚。なんとプールよりもリビングの方が低かったのです。 それからは大騒ぎだったとのこと…。
砂漠気候のロスでは、誰も雨による被害なんか考えて家をつくらないのです。雨が降ると大抵の家は雨漏りするという冗談のような本当の話もあります。それでも誰も文句を言わず、「いいじゃない?どうせ乾くんだから!」といった具合。

おそらくこれもノーテンキなメキシコ人大工さん達によるものかもしれません。でも、彼らは、早ければ午後3時には仕事が終わり、みんな、帰るときは本当に嬉しそうなのです。仲間と冗談を言いながら「帰ったら家族と美味しい夕食を食べるんだ!」とばかりに幸せな表情。そんなとびきりの笑顔を見てると、今までの出来事もすっかり忘れて、なんだか羨ましくなります。そして大切な家族のために一生懸命に働いている彼等に、思わず頑張ってね!と逆にエールを送りたくなってしまうのでした。

 

女優
榊原 るみ  さかきばら・るみ
東京都出身。3歳から雑誌のモデルを始める。1971年の「気になる嫁さん」(NTV)で「お嫁さんにしたいナンバーワン」となり、以後、映画・ドラマの他、司会業などでも活躍。その後、映画監督すずきじゅんいちとの結婚を機に渡米。プロデューサー的な立場で夫を支えてきたが、2012年に11年のアメリカ滞在を終え帰国し、日本での仕事に復帰。掃除が趣味で『榊原るみのおそうじしましょ!』、『榊原るみのお片づけしましょ!』(講談社)など、掃除本の先駆けなる本を出版。

月刊不動産流通2014年12月号掲載ƒ

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