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メンタルヘルス対策に職場でBGM どんな曲が有効?

メンタルヘルス対策に職場でBGM どんな曲が有効?

 労働安全衛生法の改正で、今年12月から社員のストレスチェックが企業に義務付けられるなど、職場でのメンタルヘルスに対する関心が高まっている。企業もメンタルヘルス対策にさまざまな動きを見せているが、オフィスでバックグラウンド・ミュージック(BGM)をかける企業も増えているという。そこでポピュラー音楽を研究する川本聡胤フェリス女学院大学音楽学部准教授と、フェリス女学院大学音楽学部非常勤講師で音楽療法士の堀川千絵氏に、職場で有効なBGMについて話を聞いた。堀川 オフィスでのBGMには、効果的な面と注意点があると思います。音楽は使い方や場所によって、リラックスする効果が期待できる一方、雑音にもなりうる。音楽を聞きたいときと静かになりたいとき、みんな違いますよね。オフィスの中で流すのは基本的に良いことだと思いますが、使い方や場所が重要です。例えば会議のような場で曲がかかっていたら、集中できません。また一つの曲でも、人によって思い入れは違います。アメリカの精神科医アルトシュラーは本来、音楽は人間の情動と同質のものが受け入れやすい「同質の原理」ということを提唱しています。また、音楽は感情と結びついていることが多いため、例えば、ある人にとっては失恋したときによく聞いた曲でも、別の人にとってはハッピーな思い出の曲だったということがあります。川本 BGMとして機能しない音楽とは何かと考えると、BGMの本質が浮かびあがってきます。私は大学の授業で、BGMの反対語としてフォアグラウンド・ミュージックという概念について話をしています。最近ではリンキン・パークというバンドの楽曲は、フォアグラウンド・ミュージックですね。最初はきれいな歌声で歌っていたのに突然デスボイス(がなり声)が始まったりと、インパクトが強くて、聞き流せない。曲の中に静かなセクションと激しいセクションの極端な対比があったり、急な転調が盛り込まれていたら、聞き手の意識がどんどん音楽に引き込まれてしまい、BGMにならないですね。堀川 オフィスという環境では、仕事に集中するのがメーンでありつつ、リラックス効果もある曲が良いのではないでしょうか。テンポがゆっくりだったり、自然音が入ってきたり。川本 音楽史でいえば、その昔イージーリスニングというジャンルが出てきたとき、例えばパーシー・フェイスという人が作曲した「夏の日の恋」は、ストリングスで一つの音を延ばして、メロディーが大きくは変わらない。ドラムなどが刻むリズムもシンプルな感じで、あまり変化を作らない。そういう音でイージーリスニングというジャンルを確立したんですね。今のヒーリング音楽には、そういう流れも入ってきています。堀川 BGMを気分に応じて選べるとすごくいいと思うんですね。勢いをつけてスピーディーに仕事をしたい人にはアップテンポな曲とか、今日は疲れているという人にはヒーリング的な曲とか。BGMによって、いつでも音楽がある環境を作るのは効果があると思いますが、やっぱり人によって、疲れ方もストレスの度合いも違う。だとするとチョイスがある方がいいですね。職場でも自分のニーズに合った曲を聞けるのが、本当をいえば一番だと思います。でもその方だけのために曲をかけるわけにはいきませんよね。川本 営業職の方だと、ヘッドホンをするのは難しいかもしれませんね。堀川 BGMで仕事をする部屋が選べたら面白いですね。パリのカフェにいる感じのBGMが流れる部屋とか、タイピングに集中したいときは持続性のあるシンプルな曲調が流れる部屋とか。そこまではできなくても、ランチルームとか喫煙所のような場所で音楽をかけるだけでも、良いと思います。通常オフィスは共有スペースが多いので、職種や業務内容、部署のニーズを意識した上で選曲できたら共有する空間が気分転換となり、日々のオフィスワークが快適になり、新たなアイデアやオフィス内コミュニケーションが生まれる効果にも期待できるのではないでしょうか。  そういえば以前、飲食店を経営する方に話を聞いたとき、BGMがお客さんの気持ちを盛り上げるだけでなく、従業員のモチベーションアップにも効果を発揮しているという話を聞いた。同店ではFaRao PRO(ファラオ  プロ)という業務用のBGMサービスを利用していたが、これはまさしく、飲食店でのメンタルヘルスケアの事例といえるのだろう。 川本聡胤(かわもと・あきつぐ)ポピュラー音楽研究、音楽理論、音楽学を専攻。ノース・キャロライナ大学チャペル・ヒル校で博士号。フェリス女学院大学音楽学部准教授。主な著作に「ポピュラー音楽:様式史」「キース・エマーソン自伝」「J−POPをつくる! まねる、学ぶ、生み出す」堀川千絵(ほりかわ・ちえ)フェリス女学院大学音楽学部非常勤講師、日本音楽療法学会認定音楽療法士。ニューヨーク大学大学院音楽療法コース修士課程修了。障害児、成人および高齢者、がん患者の方を対象とした音楽療法の臨床経験を積む。一般社団法人オーシャンサウンド音楽療法スタジオ&アートスペースを東京都世田谷区に開業。