「大時計通り」

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築百年!住んでみたルーアン  一歩先のフランスの旅(最終回)

築百年!住んでみたルーアン  一歩先のフランスの旅(最終回)

 カテドラルと大時計通りからスタートして、じっくり歩いてきたノルマンディーのルーアン。最終回は、この中世の旧市街に住んでみた、ルーアンの日常生活をご紹介しよう。 コロンバージュの建物群は、古いものは14世紀ごろまで遡る。観光客にとっては、この連載でも書いてきたように、どこに立っても絵になる美しい町だ。だが、「住人」にとってはもちろん、美しい、だけではすまないこともある。ルーアンの市役所そばにアパルトマンを見つけ、家屋の保険契約書に必要な築年数を大家さんにたずねた時の回答は、この町の歴史の長さを端的に物語る。「そうねえ、たぶん100数十年かしら、比較的新しいのよ。まあ100年超と書いとけば間違いないわ」 パリで不動産契約をした時は、「戦後建築」という時の「戦争」は、第一次大戦を指している、と言われたことがある。それでも歴史の重みを感じたが、ルーアンは、明らかにそれより古い。だがもちろん、部屋の内部はきれいに改装されていて、住むのに問題はない。借りた部屋は2階部分で、外からカギを開けて建物内部に入ると、スーツケースを持って上がるのも大変なほど細いらせん階段があり、部屋に入ると、小ぶりなリビングルームにさらに階段があって、上階がメゾネットのベッドルームになっている。 築100年超だし、木骨組みの家だから、道路を走る大型車両の振動がよく伝わる。6月21日はフランス全土が音楽祭の日で、ルーアンも町のあちこちで若者がバンド演奏をしていたが、そのリズムも深夜までよく壁に響く。床もきれいに張り直されてはいるが、かなり斜め。ミネラルウォーターのボトルを横にしておくと、コロコロとよく転がる。だが、窓からの眺めはコロンバージュの家並み、歴史的“絶景”だ。 子供たちが通う学校も、歴史的学校が多い。たとえば、この市役所のすぐそばにあるピエール・コルネイユ高校は、1593年創立。作家のフロベールやモーパッサンが卒業生だ。学校付属の教会は歴史的建造物に指定され、校舎正面中庭には、やはり劇作家コルネイユの銅像が建っている。この手の由緒ある学校には遠方から生徒たちが集まるから、付属の大きな寄宿舎もあり、フランス各地をはじめ、ノルウェーやモロッコ、ペルー、日本からの学生も寄宿生活を送っている。 子どもたちの授業が始まる毎朝8時に、市役所横のサン・トゥーアン教会の鐘が鳴り響く。その頃には朝市がすでに開いていて、食材を買いに出かける市民も多い。コンビニも24時間営業の店もないから、夜や日曜はいたって静かだ。(土曜に買い忘れをすると、日曜は一日“籠城”になるのはパリも同じだが)観光に来たら、お土産はウィークデーに買っておく必要がある。 そこで最後に、ルーアン土産のおすすめスポットを。まず筆頭は、Les Larmes de Jeanne d’Arc(ジャンヌ・ダルクの涙)という名前のアーモンドチョコレートを作るAUZOU(オズー)。ジャンヌ・ダルクが火刑に処された約30年後、15世紀後半に立てられた大時計通り沿いの木組みの家で、ショコラティエ・ジャン=マリー・オズーが作るショコラだ。プラリネとショコラという定番、相性抜群のスイーツが、ルーアンらしい素朴な外見に詰まっている。 もう一つのおすすめは、やはり地元ノルマンディー名産のチーズ、カマンベールだ。町中のチーズ専門店でももちろんよし、広場の朝市なら観光客も多く、他の人が聞いている説明を横で聞きながらゆっくり迷って買える。パリでも見つからない小さな農家が作るカマンベールなど、案外貴重な“掘り出し物”がある。合わせてアルコールもほしい、という人は、300平米のカーヴを持つ、「カーヴ・ジャンヌ・ダルク」へ。ワイン好きはもちろん、地元産のリンゴのお酒、カルバドスなどもおすすめだ。

町ごと美術館のルーアン  一歩先のフランスの旅(その1)

町ごと美術館のルーアン  一歩先のフランスの旅(その1)

 観光ガイドがあふれるパリ。美術館からレストラン、流行りの店にいたるまで、パリジャンよりパリに詳しくなれるような情報が、日本では大量に、常にアップデートされている。リゾート地の南仏や、お城めぐりのロワール、ワイン好きが足を伸ばすボルドーやブルゴーニュなど、パリは行き尽くした、という人のためのフランス情報にも事欠かない。だが、パリから列車でほんの1時間であるにもかかわらず、あまり多くの日本人が立ち寄らない、フランスらしいとっておきの場所がある。 りんごやカマンベールで有名なフランス北西部、ノルマンディーのルーアンという町だ。クロード・モネが連作を描いた大聖堂と、ジャンヌ・ダルク終焉の地として知られ、第二次世界大戦時の爆撃で大きな被害を受けながら、長い時間をかけて中世の伝統的な姿に修復してきた類まれな町。フランス最古のオーベルジュもここにある。静かで落ち着いた夏の旅を計画したい、という旅行好きのために、「町ごと美術館」と呼ばれるルーアンをじっくりご紹介しよう。第1回目は、夏に見ておきたい大聖堂とメインストリート。 フランス第6の都市ルーアンには、パリのサン・ラザール駅から特急列車に乗って約1時間で着く。ヴィクトル・ユーゴーが「百の鐘が鳴る町」と書くほど教会が多く、中でもゴシック建築で有名なカテドラルは必見だ。12世紀から400年かけて16世紀に完成した大聖堂は、フランス・ゴシック建築の最高峰といわれ、150メートルの尖塔はフランス一の高さを誇る。レースのような繊細な浮彫装飾を見上げ、カメラを構える人は多い。ルーアン出身のフロベールの作品「ボヴァリー夫人」に描かれた大聖堂の描写を、今もそのまま見ることができるからだ。 毎年6月から9月まで、夜になると、この大聖堂の壁面を丸ごとプロジェクターにした壮大な映像ショー「光のカテドラル」を見に、多くの人が集まる。ここ3年ほど、夏になるとこのショーを観ているが、日本人観光客に出会ったのは数えるほど。パリを起点にもう一歩先へ向かうとなると、同じ方角を向いていても、一気に海辺のモン・サンミッシェルまで直行、という場合が多く、ルーアンはどうやら「途中駅」として通過してしまう人が多いらしい。町のメインストリートになっている「大時計通り」を歩いても、時折ツアーの一行とすれ違う程度で、ほとんど日本人は見かけない。 通りの中ほどに、文字通り、ルネッサンス様式の時計台がある。道をまたぐアーチの表裏に、二つの大時計。もともとゴシック様式の鐘楼として建築されたもので、時計台からはルーアンの旧市街が見下ろせる。さらに進むと、ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられた広場にたどり着く。中央には、ジャンヌ・ダルクの魂をなぐさめるために建てられた教会。周囲には、たくさんのビストロやレストランが並んでいる。その中の一軒が、フランス最古のオーベルジュ。次回は、当地のグルメを紹介しつつ、さらにルーアンの“奥”を歩いてみよう。