「ノルマンディー」

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町ごと美術館のルーアン  一歩先のフランスの旅(その1)

町ごと美術館のルーアン  一歩先のフランスの旅(その1)

 観光ガイドがあふれるパリ。美術館からレストラン、流行りの店にいたるまで、パリジャンよりパリに詳しくなれるような情報が、日本では大量に、常にアップデートされている。リゾート地の南仏や、お城めぐりのロワール、ワイン好きが足を伸ばすボルドーやブルゴーニュなど、パリは行き尽くした、という人のためのフランス情報にも事欠かない。だが、パリから列車でほんの1時間であるにもかかわらず、あまり多くの日本人が立ち寄らない、フランスらしいとっておきの場所がある。 りんごやカマンベールで有名なフランス北西部、ノルマンディーのルーアンという町だ。クロード・モネが連作を描いた大聖堂と、ジャンヌ・ダルク終焉の地として知られ、第二次世界大戦時の爆撃で大きな被害を受けながら、長い時間をかけて中世の伝統的な姿に修復してきた類まれな町。フランス最古のオーベルジュもここにある。静かで落ち着いた夏の旅を計画したい、という旅行好きのために、「町ごと美術館」と呼ばれるルーアンをじっくりご紹介しよう。第1回目は、夏に見ておきたい大聖堂とメインストリート。 フランス第6の都市ルーアンには、パリのサン・ラザール駅から特急列車に乗って約1時間で着く。ヴィクトル・ユーゴーが「百の鐘が鳴る町」と書くほど教会が多く、中でもゴシック建築で有名なカテドラルは必見だ。12世紀から400年かけて16世紀に完成した大聖堂は、フランス・ゴシック建築の最高峰といわれ、150メートルの尖塔はフランス一の高さを誇る。レースのような繊細な浮彫装飾を見上げ、カメラを構える人は多い。ルーアン出身のフロベールの作品「ボヴァリー夫人」に描かれた大聖堂の描写を、今もそのまま見ることができるからだ。 毎年6月から9月まで、夜になると、この大聖堂の壁面を丸ごとプロジェクターにした壮大な映像ショー「光のカテドラル」を見に、多くの人が集まる。ここ3年ほど、夏になるとこのショーを観ているが、日本人観光客に出会ったのは数えるほど。パリを起点にもう一歩先へ向かうとなると、同じ方角を向いていても、一気に海辺のモン・サンミッシェルまで直行、という場合が多く、ルーアンはどうやら「途中駅」として通過してしまう人が多いらしい。町のメインストリートになっている「大時計通り」を歩いても、時折ツアーの一行とすれ違う程度で、ほとんど日本人は見かけない。 通りの中ほどに、文字通り、ルネッサンス様式の時計台がある。道をまたぐアーチの表裏に、二つの大時計。もともとゴシック様式の鐘楼として建築されたもので、時計台からはルーアンの旧市街が見下ろせる。さらに進むと、ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられた広場にたどり着く。中央には、ジャンヌ・ダルクの魂をなぐさめるために建てられた教会。周囲には、たくさんのビストロやレストランが並んでいる。その中の一軒が、フランス最古のオーベルジュ。次回は、当地のグルメを紹介しつつ、さらにルーアンの“奥”を歩いてみよう。

グルメなパリのエキナカ  三ツ星シェフの店で朝ごはん

グルメなパリのエキナカ  三ツ星シェフの店で朝ごはん

 芸術と美食の国フランス。美術館やお城をめぐった後は、やはりミシュランの星付きレストランでも行こうか、というグルメな旅行者も多いだろう。でも、観光で多少疲れた体、予約をとって、ちょっとドレスアップして改めてレストランに出かけるのも面倒だと思ったことがあるかもしれない。そんな時におすすめの方法がある。朝ごはんでもランチでも予約なしで行ける三ツ星シェフの店が、“エキナカ”にあるのだ。 パリ北西部にある、サン・ラザール駅。ノルマンディー地方に向かう特急列車が出る、パリのターミナル駅としては一番古い歴史を持つ駅だ。パリに来たことがなくても、モネなど印象派の画家が描いた駅舎を見たことがあるかもしれない。観光客から出張のビジネスマンまで、現在は1日約45万人の乗客が行き来している。 ターミナル駅だから、駅の構内には日本でいう“エキナカ”のように、さまざまな店が軒を並べている。その中に、駅の名前をそのままとった「ラザール」というレストランがある。バーカウンターにテーブル席が並ぶ、一見普通のレストランだが、何を隠そう、パリの三ツ星レストラン、エピキュールのシェフ、エリック・フレションの店なのだ。駅構内にこの店が開店した2013年には、三ツ星シェフが駅の構内にレストランを開くのは初めてのことだと、フランスメディアでも話題になった。しかも、週末は店を閉めてしまうことが多いフランスで、定休日なく、朝5時から深夜1時過ぎまで開いている。 出張に向かうビジネスマンが早朝この駅から出発する前に、“三ツ星シェフの店”で朝ごはんを食べる、もしくは、クロワッサンを持ち帰りで買って、列車の中で食べる、ということができるようになっている。筆者も、午後ノルマンディーに向かう前に、せっかくだから、ここでランチすることにした。 予約なしでももちろんOK。その日のランチは、春を惜しむホワイトアスパラガスに、初夏を思わせるガスパッチョ、鴨のグリルに、リンゴのタルトとフルーツのアイスクリーム盛り合わせのデザート。これに締めのコーヒーで、お一人様35ユーロだ。上記の三ツ星の店、エピキュールで食べれば、もちろんこの4倍の値段は覚悟しなければならない。  駅構内だけあって、仕事や旅の途中、列車に乗る前に立ち寄ることが前提になっているから、店の雰囲気はカジュアルだし、量も適度で軽く食べられる。それでもエリック・フレションの味だから、満足度は200%だ。通りすがりで有名シェフの味を楽しむなら、ここは選択肢の筆頭だ。