「ゴシック建築」

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究極の中世散歩@ルーアン  一歩先のフランスの旅(その3)

究極の中世散歩@ルーアン  一歩先のフランスの旅(その3)

 さまざまな都市計画が入り乱れ、どんどん新しくなる日本。仕方ないとは思っても、町並みごと中世のまま残っている欧州の旧市街を旅すると、其処ここにカメラを向けたくなる。フランスも、東西南北それぞれ町並みに特徴があるが、北部特有の木骨組みのコロンバージュがアルザスと並んで美しいのがルーアンだ。目的地を作らなくても、ただ歩いているだけで十分楽しめる。教会でも美術館でもない普通の民家の並びが、そのまま記念写真の背景になる。 第二次大戦時に壊滅的な打撃を受けたにもかかわらず、ルーアンの市内には約2千もの木骨組みの家に227もの歴史的建造物が残る。14世紀頃からの家並みが、補修を繰り返しつつ残っているのだ。いわゆる観光名所ではなく、ルーアンに来たら1日は目的を持たない散策をお勧めしたい。ふらりと立ち寄りたくなる店も実に多い。 例えば、大聖堂のすぐ横にあるサン・ロマン通り。前回紹介したスイーツ店「ダム・ケーク」がある通りだが、そのままさらに進むと、ルーアン特有の陶器を売る店「ファイアンス・サン・ロマン」がある。お皿やバター入れ、カフェオレボウルやピッチャーなど、花やうさぎなど色とりどりの模様が描かれた愛らしい陶器が所狭しと並んでいる。店内で職人が陶器の絵付けをしているところも見ることができる。 そのまま進んでレピュブリック通りを渡ると、正面にまた教会がある。15世紀のゴシック建築、サン・マクルー教会だ。教会前の広場にはたくさんのカフェがあり、テラス席に座れば、教会を正面に、広場を囲むように建つコロンバージュの家並みを楽しめる。そのまま広場左手に走るダミエット通りへ。ヴァイオリンを修理する店や骨とう品店、クスクス専門のレストランなどもあり、中世の街並みの中で生活する人々の息遣いが聞こえる。どの通りも、風情ある石畳に、両側はコロンバージュの家並みだ。 両側の店々に目を奪われているうちに、あっという間にダミエット通りを抜けて小さな広場に出る。そこを右に折れると、今度は小川が流れるオー・ド・ロベック通り。小川の上には季節の花が咲き乱れる鉢が飾られ、小川沿いにカフェやビストロ、書店や洋品店が並ぶ。どれも小さな店だが、手作りの看板やウィンドーの飾りが魅力的だ。大聖堂からここまで、ゆっくり歩いても20分はかからない。  朝市を散策したいなら、前回紹介したヴューマルシェ広場へ。野菜、果物、魚、肉、チーズからハーブまで、当たり前だが、“おうちフレンチ”の材料は何でもそろう。観光客向けでない、地元っ子“ルーアネ”が多いブティックで買い物をしたいなら、ガンテリー通りだ。その角にはまた“見た目”だけで買いたくなるような、18世紀のコロンバージュの建物で営むパンの店、Maugard Christopheが。ルーアン市長から、「おもてなし」賞を受賞するほどの丁寧な応対だ。歩き疲れておやつを買うなら、サン・ニコラ通りのCyrille Levouinのシューケットが絶品。カリカリの皮にポップシュガーの食感は手をとめるのが困難だから、控えめに買わないと危険な代物だ。次回は、歴史好きのためのディープなルーアン歩きを。

町ごと美術館のルーアン  一歩先のフランスの旅(その1)

町ごと美術館のルーアン  一歩先のフランスの旅(その1)

 観光ガイドがあふれるパリ。美術館からレストラン、流行りの店にいたるまで、パリジャンよりパリに詳しくなれるような情報が、日本では大量に、常にアップデートされている。リゾート地の南仏や、お城めぐりのロワール、ワイン好きが足を伸ばすボルドーやブルゴーニュなど、パリは行き尽くした、という人のためのフランス情報にも事欠かない。だが、パリから列車でほんの1時間であるにもかかわらず、あまり多くの日本人が立ち寄らない、フランスらしいとっておきの場所がある。 りんごやカマンベールで有名なフランス北西部、ノルマンディーのルーアンという町だ。クロード・モネが連作を描いた大聖堂と、ジャンヌ・ダルク終焉の地として知られ、第二次世界大戦時の爆撃で大きな被害を受けながら、長い時間をかけて中世の伝統的な姿に修復してきた類まれな町。フランス最古のオーベルジュもここにある。静かで落ち着いた夏の旅を計画したい、という旅行好きのために、「町ごと美術館」と呼ばれるルーアンをじっくりご紹介しよう。第1回目は、夏に見ておきたい大聖堂とメインストリート。 フランス第6の都市ルーアンには、パリのサン・ラザール駅から特急列車に乗って約1時間で着く。ヴィクトル・ユーゴーが「百の鐘が鳴る町」と書くほど教会が多く、中でもゴシック建築で有名なカテドラルは必見だ。12世紀から400年かけて16世紀に完成した大聖堂は、フランス・ゴシック建築の最高峰といわれ、150メートルの尖塔はフランス一の高さを誇る。レースのような繊細な浮彫装飾を見上げ、カメラを構える人は多い。ルーアン出身のフロベールの作品「ボヴァリー夫人」に描かれた大聖堂の描写を、今もそのまま見ることができるからだ。 毎年6月から9月まで、夜になると、この大聖堂の壁面を丸ごとプロジェクターにした壮大な映像ショー「光のカテドラル」を見に、多くの人が集まる。ここ3年ほど、夏になるとこのショーを観ているが、日本人観光客に出会ったのは数えるほど。パリを起点にもう一歩先へ向かうとなると、同じ方角を向いていても、一気に海辺のモン・サンミッシェルまで直行、という場合が多く、ルーアンはどうやら「途中駅」として通過してしまう人が多いらしい。町のメインストリートになっている「大時計通り」を歩いても、時折ツアーの一行とすれ違う程度で、ほとんど日本人は見かけない。 通りの中ほどに、文字通り、ルネッサンス様式の時計台がある。道をまたぐアーチの表裏に、二つの大時計。もともとゴシック様式の鐘楼として建築されたもので、時計台からはルーアンの旧市街が見下ろせる。さらに進むと、ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられた広場にたどり着く。中央には、ジャンヌ・ダルクの魂をなぐさめるために建てられた教会。周囲には、たくさんのビストロやレストランが並んでいる。その中の一軒が、フランス最古のオーベルジュ。次回は、当地のグルメを紹介しつつ、さらにルーアンの“奥”を歩いてみよう。