(Jタウンネットより)
では、実際の比較に移ろう。
快適に乗れるのはどちら?
大江戸線の列車本数は多い。朝は3・4分、日中は6分おきにやってくる。時刻表とにらめっこする必要は始発・終電を除きほとんどない。
裏返せば利用者が年々増えていることの証しでもある。朝夕のラッシュはひどくなる一方。一部に積み残しも見られる。
それに輪をかけるように、光が丘から先に延伸することがほぼ決まっている。開通は当分先とはいえ、阿鼻叫喚の光景が展開されるのは間違いない。
対する名城線も区間によっては混雑するところがある。そえでも大江戸線ほど深刻な事態にはなっていない。朝はだいたい6分おきで、日中は10分おき。目の前の電車を逃したときのショックは大きいけれど、輸送力にはまだ余力がありそうだし、利用者の乗車時間もそれほど長くない。
列車の本数では大江戸線の方が上回る。しかし苦痛が少ないのは名城線だ。
他の地下鉄と乗り換え便利なのは?
大江戸線の利用者が多い理由の一つは、世界一のターミナル新宿に接続していることだ。
1970年頃の初期計画ルートで新宿は外されていた。「一極集中は好ましくない」と考えた国と都が交通局に指導したからで、現在の京王プラザホテル付近に駅が設けられる予定だった。
その後オイルショックが起き、計画は凍結される。1980年代に入って計画が再開されたとき「新宿を通らないと採算は取れない」という主張が通り、現在のルートに決まる。
千代田線以外の東京メトロと都営地下鉄の各線とは交差部で接続駅がある。もっと客が増えてもよさそうなものだが、以下の理由から都営の利用を避ける都民は結構いる。
(1)環状部の駅のほとんどが深すぎて乗り換えが不便
(2)都営とメトロは別の事業者で、乗り継ぐと料金が高くなる
(1)で最もひどいのは蔵前だろう。都営浅草線に乗り換えるにはいったん地上に出て、信号を渡るなどして300メートル近く歩かなければならない。交通局も連絡通路をつくれないか検討を重ねたが、予算の都合上無理だった。
一方の名城線。エリア最大のターミナル名古屋駅こそ通らないものの、繁華街の栄と交通の要所、金山をしっかり押さえている。他の地下鉄線と交差する箇所にはすべて接続駅があり、乗り換えも上前津が少々面倒なくらい。
乗り換えが便利なのは名城線の方だ。
アートすぎる大江戸線の駅たち
大江戸線の駅は内装デザインの凝ったところが多い。JR総武線・東京メトロ東西線・有楽町線・南北線の乗換駅である飯田橋の階段上部は、緑色のウェブフレームになっている。
赤羽橋駅のホーム側面は多数の四角いガラスが埋め込まれており、利用者の目を引く。イタリアのガラス工芸会社が制作したものだ。
東京が運営する路線として、世界に誇れるデザインにしよう――。そんな意気込みは伝わるし、実際絵になっている。
ただし手放しでは称賛できない。大江戸線は1メートル当たり180万円の建設費がかかっていて、総額は1兆3000億円を超える。減価償却が完了するのは何十年も先の話だが、滞りなく返済は続けられるだろうか。シルバーパスの乗客だらけになりそうな予感もするけど。
一方、名城線の駅施設はいたって普通の設備だ。建設費の返済問題は名城線も他人事ではないが、「借金まみれのクセにこんな豪華なもの作りやがって」みたいな雰囲気はない。
バブル的な雰囲気は否めないものの、大門で羽田空港行きの東京モノレールまたは都営浅草線につながっていることもあり、外国人旅行者の大江戸線利用者は年々増えている印象だ。
納税者として多少の腹は立つものの、世界に通ずるデザインと知名度は大江戸線の方が上だろう。
世界標準に近いのはどちらだ?
名城線や山手線のように環状運転をしている路線はソウルや北京、ロンドン、モスクワにも存在する。山手線の場合、方向を「内回り」「外回り」という言い方をするが、国際標準では「右回り」「左周り」が普通だ。
名城線はこのルールに従っていて、外国人にも分かりやすい表示になっている。
一方の大江戸線は「大門・六本木方面」または「両国・春日方面」という言い方をする。地名が頭に入っている人には便利だが、東京に慣れていない人には少々つらいだろう。国際標準に近いのは名城線だ。
以上、4つの観点から大江戸線と名城線を比較した。
道路整備が不十分で、しかも地下構造物の多い東京。その隙間を縫うように作られた大江戸線は、日本の土木建築技術の精華ともいえなくもない。工事関係者の苦労がしのばれるが、利用者目線からすれば窮屈なところも残る。
戦後復興計画を名古屋のように徹底していれば、地下鉄を含め全く違った東京になっていたことだろう。
Jタウンネット編集部としては、3対1で名城線に軍配を挙げたい。