(ライター:村上 健)
鉄とラグビーのまちとして知られる釜石に、かつてノスタルジックな横丁がありました。製鉄所そばの排水溝に板を渡して建てられた小さな店が軒を寄せ合う「呑ん兵衛横丁」です。
昭和30年代初頭、戦争で働き手を失った女性たちが生計を立てるために始めたという小料理店やスナックは、いずれも気軽に飲める店として、製鉄所の従業員や出張のサラリーマンに愛されていましたが、東日本大震災の津波で跡形もなくのみこまれてしまいました。

仮設の飲食店街にある寿司店の海鮮丼
その名物横丁が、地元の常連客や全国からの支援を力に、仮設店舗「はまゆり飲食店街」の一画へ場所を移して営業中です。
横丁入口に輝く看板は、同名のよしみで東京・渋谷駅近くの飲食店街が贈ったもの。一軒の小料理店ののれんをくぐると、「何より地元の人が一息つける場所として店を続けなくちゃと思ってるんですよ」と、三陸の海の幸、ホヤを小鉢に盛り付けながら「おかあさん」が話してくれます。しかし、いずれ仮設は出なければならず、移転資金が悩みの種だとか。
震災からもうすぐ丸4年。津波で破壊的な被害を受けた三陸沿岸部では、地元の人たちが以前のまちの姿を取り戻そうと、遠い復興への道のりを懸命に歩み続けています。
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』がある。

月刊不動産流通2015年3月号掲載