家のコト

日下部 知世子さん「日常空間を豊かにする、 香りのおもてなし」

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私たちは毎日たくさんの香りに囲まれて生活しています。そうした香りは、思いのほかその場所の印象に大きな影響を与えるものなのです。

私は香りの演出を手掛けており、数年前から東京・お台場にあるホテルでホテルオリジナルの香りを製作しています。
ホテルのおもてなしは、宿泊ゲストが予約をした時からすでに始まっているといえますが、心地よい滞在という意味では、ゲストがチェックインした時から始まります。施設の良さはもちろんのこと、ブランドの与える印象も大切です。そしてホテルのブランドイメージの一つとしてシーンや季節に合わせた香りは、とても大切なものなのです。
その空間に入った時、お客さまにリラックスやリフレッシュしていただけるようさりげなく香りの演出をする、どのようなおもてなしが喜んでいただけるだろうかと考えながら、製作しています。

都会の生活は、何かとストレスフルなものです。人間はストレス状態にさらされると、自律神経系である交感神経と副交感神経のバランスを崩したり、内分泌系の乱れや、免疫系に悪い影響を及ぼすことがあります。
香りは日常のストレスを緩和する作用があるので、最近では人が集まる空間での香りの演出が当たり前になってきました。かつては飲食店、レストランや特に日本料理店などでは香りがタブーとされていたこともありますが、最近ではほのかな香りの演出を行なっている店も増えています。

このようなリフレッシュやリラックスできる「癒し」を目的とした香りの提供はよいサービスになるでしょう。個人的には、商業施設では、あたかもそこに花畑や針葉樹の林があり、そこからかすかに風にのって、運ばれてくる香りが、何よりの癒しになるような気がします。

商業施設に限りません。家の中でもさまざまな香りがありますね。
日常生活における香り、リビングの香り、寝室の香り…。生活の中での香りの演出は、家の空間や時間に応じて、香りを使い分けるのがおすすめです。今ではさまざまなアロマテラピーの精油やグッズが市販されていますので、気軽に試すこともできます。
例えば、活動的な朝の玄関スペースには、元気にしてくれる柑橘系など爽やかな香りが似合います。夕方には、ラベンダーなど落ち着いたリラックスの香りはどうでしょう。リビングには季節の花のイメージの香りも素敵です。寝室には安眠効果のある香りを漂わせてみてもいいですね。心地よい空間が楽しめ、また空間もお洒落な雰囲気になります。香りには苛立ち、ストレス、落ち込みのサポート効果以外にも、幸福感、リラックス、高揚感のようなポジティブな感情を高める効果が期待できます。選ぶだけで気持ちも豊かになるでしょう。

また、香りの演出に使う精油には、呼吸している空気を浄化してくれる強力な殺菌作用を持つものもあります。良い香りだけではなく、室内の衛生面でも精油が持つ天然の殺菌効果や消臭効果を活かした芳香は欠かせません。(※精油は必ずオーガニックな物をお使いください)。

こうした用途にはサイプレスやジュニパー等がよく用いられますが、森林浴も楽しめます。空気の浄化ならスコッチパインあたりがおすすめです。
最後に空間の香り演出以外の精油の使い方もご紹介しておきましょう。
風邪を避け呼吸を整えたい場合などには、精油を吸入という方法で使うこともできます。ボール一杯の熱いお湯に精油を数滴たらしてその蒸気を吸い込みます。ユーカリは鼻腔上部の感染症を緩和します。また、花粉症のイライラはアレルギーを緩和するペパーミントなどもおすすめです。

そして、日本人ならぜひお風呂に使ってみたいものです。お湯の中に精油を希釈したものを数滴たらすだけのアロマバスは、家庭でも簡単に楽しめます。お湯の熱さで毛穴が開くことにより、有効成分が直接、体に沁み込みます。求める効果により数種類の精油を組み合わせることができます。安眠効果があるラベンダーなどの精油はとてもリラックス出来ます。なお、精油はお湯に溶けませんので、植物から出来た乳化剤で精油を希釈して使います。

このように上質な精油は美容や健康の向上にも一役買ってくれるものなのです。皆さまもぜひ香りの演出や香りのある生活を始めてみませんか?

アロマテラピースペシャリスト
日下部 知世子 くさかべ・ちよこ
1978年より香りと自然学を学び、81年フランスでアロマテラピーの父と呼ばれるジャン・ヴァルネ博士と出会う。以来、フランスやマダガスカル等で、植物療法やアロマテラピーを学ぶ。ヴァルネ博士のメディカルアロマテラピー哲学を継承している唯一の日本人。88年より内外のスパの開業プロデュースを手掛け、現在ホテル日航東京のアロマテラピーとスパメニューの開発にあたる。ホテル、旅館のほか商業施設や有名レストラン、日本料理店等でも香りのプロデュースを手掛ける。

月刊不動産流通2014年8月号掲載ƒ

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