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地域密着 愛されご当地パン

堅すぎて食べられない!? 福井県鯖江市の「軍隊堅パン」

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地元で愛されているパンを探して、全国各地をゆく「地域密着 愛されご当地パン」。今回は”堅いパン”といわれる「軍隊堅パン」を求めて、福井県鯖江市の「ヨーロッパン キムラヤ」にやってきました!

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ヨーロッパの街角にありそうなお洒落な店構えです。

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毎朝11時半には並びきれないほどのパンが焼き上がります。

ヨーロッパン キムラヤは1927年に「木村屋」として創業した老舗パン屋。木村屋と聞いてピンときた方も多いはず。実は、東京の木村屋總本店(当時の木村屋)で修行した初代・古谷伍一さんが木村屋からのれん分けを許されて開業したパン屋です。

この店の名物としてメディアにもよく取り上げられているのが「軍隊堅パン」。取材前、近くのお店の方や鯖江駅の駅員さんに軍隊堅パンについて尋ねたところ、みなさん口をそろえて「とにかく堅い!」と教えてくれました。どれほど堅いものなのか、興味がそそられます。その堅さを確かめるため、今回はトンカチを持参してやってきました! それでは早速、ご当地パンを拝見!

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昔ながらのデザインは発売当初から変わりません。

なんと箱入り! どこか懐かしいレトロなパッケージです。さっそく箱から出してみましょう。

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四角くて平べったく、いかにも堅そうな見た目です。

こんがりと香ばしい焼き色で、まるでビスケットかクッキーのようですが、これはパンなのでしょうか?触った感触もカチコチ。指で叩いてみると、コツコツと音がします。パンらしいふんわり感はまったくありません。何はともあれ、ひと口いただいてみましょう!

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厚さは5ミリほど。生地はぎゅっと詰まっています

か、……堅い! 堅くて歯では割れません。何度か位置を変えてかもうとするものの、割れる気配がありません。歯が立たないとはまさにこのこと。堅いとは聞いていましたが、まさかここまでとは……。そんな様子を見て、「食べたくても堅くて食べられないでしょう?」と声を掛けてくれたのが、3代目社長の古谷香住さんです。

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店を継いで25年以上になる3代目の古谷香住さん。

古谷さん「あんまり無理にかもうとしてもだめですよ。実際、歯を折ってしまった人もいるそうです。ある百貨店に商品を置いてもらおうと持って行ったところ、あまりに堅すぎるという理由で担当者に断られたことがあるくらいです。歯医者さんに持って行って堅さを調べてもらったら、間違いなく歯が折れる堅さだと言われました」

堅さゆえに逸話が絶えないようです。それならば、持ってきたトンカチを使って食べてみましょう。

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普段はトンカチを使って食べる人はいないようですが、今回は堅さを確かめるために使用します!

軽くたたくときれいに割れました! これでなんとか口に入れることができます。

古谷さん「かもうとすると堅いんですが、衝撃には弱いんです。口に入れて少しふやかして食べるといいですよ」

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割れてもほとんどくずが散らないほどの堅さです。

古谷さんの言葉通り、口に入れて少しの間、あめのように舐めていると表面が少しふやけてきました。奥歯でぐっと力を入れてかんでみると、パキッと心地よい音を立てて砕けます。その瞬間、口の中にごまの風味小麦の香ばしい味わいが一気に広がりました。思ったよりも生地は甘め。かむごとにパキッパキッと音を立てます。ごま味のビスケットのような感覚で、素朴な味わいです。ただ、ここまで堅いと食べるのにかなり時間がかかってしまいます。もっと食べやすい方法はないのでしょうか。

古谷さん「地元の常連の方には、コーヒーや紅茶に浸してから食べる人もいますし、クルトン替わりにスープに入れる人やみそ汁に入れるという人までいます。堅いので、工夫して食べているようですね。僕は逆にみなさんから食べ方を教えてもらっています」

今回は特別に地元の方ならではの紅茶に浸す食べ方を体験させていただきました!

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紅茶に完全にぷかりと浮かべて、柔らかくなるのを待ちます。

しばらく置いて、スプーンですくいあげて食べてみると、表面は柔らかくなっているものの、中の部分はまだしっかりとサクサクした食感。ごまと紅茶の風味がよく合っていて、洋菓子のような感覚でいただけました。それにしても、どうしてこんなに堅いのでしょうか?

古谷さん「材料は小麦、砂糖、黒ごま、天塩で、パン酵母を一切使っていないんです。また、菓子パンでは砂糖は小麦に対して25%ほどの量を配合しますが、軍隊堅パンにはその倍以上の砂糖が入っています。そのため、焼いた時に砂糖が一度は生地の中で溶けるのですが、冷えるとあめのように固まって、生地を堅くする要素の一つになっています」

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焼く前に水を吹き付けてこんがりと焼き上げます。

パン酵母を使わず、砂糖が多い、たったそれだけでここまで堅くなるとは驚きです!堅くなる秘密はわかりましたが、一体なぜこのような堅いパンが生まれたのでしょうか。

古谷さん「軍隊堅パンはその名の通り、第二次世界大戦の時代に軍隊に納めていた携帯食なんです。鯖江には陸軍歩兵第三十六連隊があり、軍の憲兵が暮らしていたエリアだったのですが、訓練中に食べるために持ち運びしやすくて長持ちするパンの製造を軍から依頼されて、この軍隊堅パンが生まれました。ただ、レシピは東京の木村屋の堅パンのものと聞いています。今となってはまったく同じものかはわかりませんが、初代が修行中にレシピを覚えたようです」

このような歴史的な背景から、軍隊堅パンは戦争が変わると注文もなくなり、製造されなくなったそう。

古谷さん「初代は軍隊堅パンを見ると、戦争を思い出すこともあり、作りたくなかったようです。復刻したのは、2代目、つまり私の父のときです」

復刻したのはなぜでしょうか。

古谷さん「父は美食家で、おいしい食べ物があると聞けば、日本全国、時には海外まで足を運ぶ人でした。戦時中に我慢していたことの反動なのか、戦争が終わると食に対して貪欲になったんです。あるとき、今まで食べた中で一番おいしかったものが何かを聞かれたそうです。そのとき思い出したのが、軍隊堅パン。ひもじい思いをする中で、軍隊堅パンの製造を見張りに来ていた兵隊さんからこっそり分けてもらった味が忘れられないと。記憶に残るおいしいものは、単に味がおいしいだけではなくて、どういう状況で誰と食べたかが大事だということに気づき、それを忘れないために、軍隊堅パンをもう一度作り始めたんです」

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180℃のオーブンで焼くこと30分。一度に420枚が焼きあがります。

なるほど、本当のおいしさとは何かに気づかせてくれたのが、軍隊堅パンだったのですね。軍隊堅パン、奥が深いです! 復刻した時の地元の方の反応はどのようなものだったのでしょうか? また今はどのような形で親しまれているのでしょう?

古谷さん「最初はやっぱり、懐かしいという声が多かったみたいですね。軍隊に入っていた方はいつも食べていたものなので。今では、山登りピクニックの携帯食として購入する方が多いですよ」

軍隊堅パンは、昔ながらの味わいをそのままに、時代に合った形で親しまれているようです。

■地域の人の心に残るパンを作り続ける、ヨーロッパン キムラヤ

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定番から季節限定商品までさまざまなパンが並びます。

今年で創業89年になるヨーロッパン キムラヤ。今日もキムラヤでは心に残るおいしいパンを焼き続けています。店内には、大正時代に流行した“玉子パン”や、柔らかいフランスパンに塩気の効いたバターと砂糖を混ぜたクリームを挟んだ“バタード”をはじめ、食パンやフランスパン、サンドイッチなどさまざまなパンがずらり。実はバタードは古谷さんにとって思い出のあるパンなのだとか。

古谷さん「学生の頃、店の余ったバタードをよく食べていたんですよ。あの頃食べた味は今でもよく覚えています。父にとっての軍隊堅パンが、僕にとってはこれですね。軍隊堅パンに負けず劣らず、鯖江ではたくさんの人になじみのあるご当地パンです」

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バタードは地元のスーパーにもよく並んでいる、鯖江のなじみの顔。

鯖江駅の駅員さんは、「国鉄時代は鯖江駅に軍隊堅パンがお土産として売っていたし、父が買ってきてくれてよく食べていたよ」と懐かしそうに話してくれました。軍隊堅パンやバタードをはじめ、地元の人にとっては、きっとそれぞれに思い出の詰まったパンがあるに違いありません。鯖江に来たら、ぜひ心に残るパンを見つけにヨーロッパン キムラヤへ訪れてみてください! 特に軍隊堅パンの堅さはきっと皆さんにとっても忘れられない思い出になるはずですよ。

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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