テーマ:お隣さん

あんがちょクリスタル

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「へぇ。きれいなイヤリングだね。ガラスの中でたくさんの色が泳いでいる。メグルがつくったの?」
 巡は頷いて「これはチャームというんだけど、一見ガラスにみえるよね。でも違うんだ。レジンなのさ」
「レジン?」
「液体樹脂を固めたもの。ホンモノのクリスタルガラスじゃない」
「ホンモノのガラスの方がいいのかな」
「クリスタルレジンでもいいものはいい。でも、あたしはヴェネチアンガラスやスワロフスキーを思う存分使ってみたいんだ。ガラスだけじゃない。ホンモノの宝石だって使いたい。とくにクリスタル。タクゾー、知ってか?」
「なにが?」
「クリスタルだよ。水晶」
 水晶は知ってるので頷く。
「きれいな石だよ。あの石にはパワーがある。悪いもの、汚いものをきれいにして心をいやしてくれる力があるんだぞ。知ってたか?」
 拓三は首を横に振ってから、「へぇ。すごいね」と言った。
「そうさ。すごいんだ。そういうものの加工にはおっきな機械や道具がいる。だから引っ越す」
「メグルのアトリエ」
「そう」
 キラキラした瞳で自分の夢を語る巡そのものがクリスタルだ。巡はそのクリスタルパワーで半年間、自分を癒してくれた。と拓三は思った。
「そんじゃ」
 巡は腰を上げた。
「そのチャームあげるよ」といってベランダに向かう。
「メグル、アンガチョ」
 素敵な時間と貴重な経験を与えてくれた隣人への感謝。
「メシ食えよ。オナニーしすぎるなよ」と言い残して巡は消えた。

 ホンモノになるメドが立ったらメグルに会いにいく。
 メグル、それまで待っていてくれ。
 自分と巡を繋いでいたベランダに向かって、拓三はこう宣言した。心の中で。

 拓三が新宿でポケットティッシュを配っている時、巡は引っ越していった。

あんがちょクリスタル

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