同じ場面を複数の視点で反復して描くという構成は、クセになるような独特の味があり、前半に漂う不穏な空気と、結末にいたるまでにお互いの心情が明らかになっていく疾走感は、読み手を物語の世界に強く引き込んでいきました。
この物語の家族は、ペットとしてもらわれてきた文鳥が沈黙を貫いたように、大切なことを口に出し(せ)ません。だから、一緒に暮らしているにもかかわらず、すれ違いが生まれてしまいます。同じ空間を共有しながらも、お互いにわかり合えていない。だけど、言葉になっていないからといって、家族のことを大切に思っていないわけでは決してないのです。そんな家族の微妙な関係を、お隣さんとの交流を絡めながら多角的に表現していました。
ストーリーの軸となる家族同士の会話や心情にもとてもリアリティがあり、加えて文章構成力も非常に高かったので、この度の大賞とさせていただきました。