住まいと暮らしの短編小説 『at home AWARD』応募作品の中からノミネートされた優秀作品をご覧いただけます。

at home AWARD Winner

「お隣さん」
「文鳥」
大前粟生
同じ場面を複数の視点で反復して描くという構成は、クセになるような独特の味があり、前半に漂う不穏な空気と、結末にいたるまでにお互いの心情が明らかになっていく疾走感は、読み手を物語の世界に強く引き込んでいきました。
この物語の家族は、ペットとしてもらわれてきた文鳥が沈黙を貫いたように、大切なことを口に出し(せ)ません。だから、一緒に暮らしているにもかかわらず、すれ違いが生まれてしまいます。同じ空間を共有しながらも、お互いにわかり合えていない。だけど、言葉になっていないからといって、家族のことを大切に思っていないわけでは決してないのです。そんな家族の微妙な関係を、お隣さんとの交流を絡めながら多角的に表現していました。
ストーリーの軸となる家族同士の会話や心情にもとてもリアリティがあり、加えて文章構成力も非常に高かったので、この度の大賞とさせていただきました。
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「一人暮らし」部門
「五時のチャイムの終わりと共に現れた女の子、のこと。」
永妻優一
現在と過去の記憶が交差しながら進むストーリーは、とても情緒的で、母親の温かさが伝わってきます。「気がつくと、自分の街になってくるものなのよねぇ」と語る場面がありますが、新しい街で暮らす勇気や希望が湧いてくるようで、主人公だけでなく、これから一人暮らしを始める人達の背中もそっと押してくれるような、素敵なセリフでした。
主人公は、あることをきっかけに一歩前に踏み出すことができます。読者の皆様もこの主人公のように、前に進む勇気やきっかけを掴んでいただけたらと思います。
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「お隣さん」部門
「In My Life」
池田葵
お隣さんとの静かで心温まるコミュニケーションは、とてもセンチメンタルで、ロマンチックでした。内気な二人が最後のシーンでは少し勇気を出します。彼らのように、うまく周りに溶け込めないまま過ごしている人も、なにかのタイミングでその世界から抜け出せるときがくる。彼女の場合、そのきっかけがお隣さんでした。
出会いはその人の運命を変えてくれます。そんな「人との出会い」の大切さを実感させてくれる作品でした。
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「ご当地物語」部門
「花が咲く街」
山吹摩耶
かつて潜った海の青と、地元を彩る花々がとても綺麗で、読み進めるほどに、長野県の美しい風景が伝わってきます。自然と自分の故郷と重ねて読んでしまう情景描写で、読者それぞれの生まれ育った地を思い出させてくれるようでした。
主人公は、自分が親になり故郷に戻ることで、苦手だった母に対する気持ちが変わり、幸せに暮らしています。そんな彼女のように、故郷の素晴らしさ、家族の温かさを改めて感じることができる作品でした。
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「二次創作」部門
「ラビリンス」
木江恭
主人公がある選択を迫られる場面がありますが、皆さんは同じ立場になったとき、どんな決断をするのでしょうか。今いる家に住んでいることがあまりにも日常過ぎて、普段生活しているとなかなか気づきませんが、家族と住んでいる「家」は、単なる「建物」ではありません。「家」は、共に暮らす家族やその歴史が詰まった大切な「空間」です。
この主人公は、奇妙なゲームに参加することでこのことに気がつきます。そんな日常の幸せを改めて気づかせてくれた物語でした。
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「ご当地物語」
「すぐりの卵」
久保葉月
善明は義理の家族と共に箱根の観光名所、大涌谷を目指す。旅行の目的は流産を経験した妻すぐりの心の傷を癒すこと。大涌谷の売店で見知らぬ少女に手を握られたすぐりは、その少女こそが自分たちの子どもではないかと言う。真偽は確かではないけれども、若い夫婦は空の下で失った子どもに別れを告げる。
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