7月期
あのころを追い越すまで
「うん。じゃあ、今度こそ、またね。次も、女の子の格好で来てくれると嬉しいかな」
「それなら、日夏さんは、仕事するときの格好でお願いしますね」
そう言って、夏樹君は私に手を振ると、カランカランと下駄の音を立てながら走りだした。小走で可愛く駆けるその姿は、やはり女の子にしか見えない。
私は大きく息を吐き、鳥取の空を見上げた。既に日は沈み、先ほどまでは一つしか見えなかった星も、いくつもいくつも、輝きを見せ始めていた。
この様子では、やはり雨は降らないだろう。でも、実際に降る必要はない。
私は、この街で、しばらく雨宿りを続けよう。止まない雨は無いというのだから、次の晴れ間に、また歩き出せばいい。
思い出さなくてはいけない過去が、振り返らなくてはいけないこれまでが、私の中には、まだまだ眠っていそうだった。
商店街のスピーカーから、夏祭りらしい踊り歌が響き渡る。その音頭の隙間を縫うように、しゃん、しゃん、という鈴の音が聞こえてきた。
……後日。しゃんしゃん祭りとその翌日の花火大会も滞りなく終わったあと、鳥取の街には、見事に雨が降った。そして、私は夏樹君とまた会った。お盆休みも明けて仕事が始まっており、かつ待ち合わせの時間に遅れそうだったため、私は作業着で彼の前に参上してしまった。図らずも、彼の要望に答える形になってしまった。
そして、夏樹君といえば、中学生の男の子らしく、大きめの制服を着て私の前に現れた。部活帰りだったのだろう、その傍には、エナメルバッグとバスケットボールケースが置いてあり、私は少し驚きつつも、その光景に思わず笑みがこぼれてしまう。
今度こそは、見逃すまい。次に私が歩き出すときは、きっと、この子の身長が伸びきった時だと、不思議に確信したのだった。
あのころを追い越すまで