あのころを追い越すまで
出来ないことは、すぐにやめた。これ以上は不毛だと感じたことには、ほどほどのところで手を打った。
そうして、色んなことに見切りをつけていくうちに、私は、本当は手放してはいけなかったものまで、捨ててしまったのでは無いのだろうか。
……振り返る時間が、欲しかった。
立ち止まって、見つめ直す時間が、今の私には必要だった。
でも。来年には私は三十歳。仕事にしろ、恋愛にしろ、のんびり立ち止まっている時間は残されていない。
この道を、たとえ土砂降りになったとしても、ただひたすら、歩き続けるしかないのか……私がそんなことを思っていると、隣に座る男の子が、ぽつりと口を開く。
「よかったですね。この街に来て」
男の子の思わぬ言葉に、私は伏せていた顔を上げた。そして、男の子は私の肩を軽く叩くと、川岸の向こうでぞろぞろと歩いている一団を指さした。法被を着た彼らの手には、鮮やかな朱色がまぶしい鈴のついた傘が握られている。
「しゃんしゃん祭りの踊りって、元々は確か、昔の人が雨を降らせるために傘を差して踊ったものだって。そういうの、雨乞いって言うんでしたっけ。とにかく、そんな踊りを誰でも踊れるように簡単にしたのが始まりだって聞いたことがあります。しかも、一斉に傘踊りをした人数で、ギネス記録だってあるんです。だから、そのうちきっと、雨も降りますよ」
男の子はそう言ってラムネの入ったビンを呷ったあと、カランと中のビー玉を鳴らしながら自分の隣に置く。ふう、と息を吐くと、暗くなり始めた空を見上げた。私も釣られるように視線を上にすると、視界の端に、僅かに光る点を見つけた。一番星か、人工衛星か、天文知識の乏しい私にはわからない。
だけど、良い天気だった。雨は当然、降りそうにない。天気予報では、明日も青空広がる暑い日になると言っていた。
そのとき。私は昔のことを思い出していた。高校生の頃だ。
高校生になってからは、私は一年でバスケットボール部を退部した。この低い身長と見え始めた自分の天井に、私は早々に一生懸命から目を背けた。以降、バイトをしたり友達と遊んだりしながら、とくに何のドラマもない学生時代を過ごしていた……のだが、たったひとつだけ、後悔したことがあった。
あれは、高校三年の夏。別の学校に進学した中学の部活仲間の、高校最後の試合を見に行ったとき。私は一人の男の子に声を掛けられた。最初はその人物が誰なのかわからなかったが、名前を聞いたあと、彼は同じ中学の男子バスケ部の子だったことがわかった。
あのころを追い越すまで