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不動産に譲渡所得の特別控除50万円は使える?税金を抑えられる特別控除について解説

譲渡所得の特別控除にはどういったものがあるのでしょうか
資産を売却して譲渡益が出ると、譲渡所得税を支払う義務が生じます。多くの方は、自分の資産を売却する際にかかる税金を、最小限に抑える方法を知りたいと考えるでしょう。資産を売却した場合、特別控除が受けられる条件や手続きがわかれば、譲渡所得税の節税効果が期待できます。
結論をいうと、譲渡所得における特別控除の50万円は不動産には適用できません。

本記事では、譲渡所得の概要や計算に必要な取得費の考え方、譲渡所得税の計算方法を説明します。また、不動産の譲渡所得税にはどのような特別控除があるのかを解説します。経済的負担を減らすためにも、利用できる控除を知っておきましょう。

譲渡所得とは?

譲渡所得の計算式と取得費の考え方を解説します
譲渡所得の計算式と取得費の考え方を解説します

譲渡所得とは、特定の資産や権利を譲り渡すことによって生じる所得を指します。具体的には、不動産、株式、債券、知的財産権などの資産や、これらに関する権利を譲り渡して得られる所得が対象です。本章では、譲渡所得の計算式と取得費の考え方を解説します。

譲渡所得の計算方法と取得費の考え方

譲渡所得は以下の計算式で算出します。

譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

取得費とは、不動産を購入した際にかかった費用のことで、購入代金や登録免許税などがこれにあたります。譲渡費用は、資産を譲り渡すためにかかる費用や支出を指し、不動産の売却時にかかる仲介手数料や印紙税などが該当します。

ちなみに、賃貸用の不動産を売却した場合も、所得が発生した場合には譲渡所得とみなされるでしょう。

取得費が不明の場合

原則として、取得費は購入代金に加え、購入手数料など関連して発生する付属費用も入れて計算します。相続や贈与によってお金やその他の資産を取得したら、先代の取得価額を引き継ぎます。ただし、限定承認による相続の場合は、取得時の時価を基準に取得価額の計算をします。

もし、何十年も前に先祖から引き継いだ土地など、取得費が不明な資産は、売却額の5%相当を取得費として扱えることを覚えておきましょう。例えば、取得費が不明の土地を2,000万円で売却した場合は、5%に相当する100万円を取得費とします。

ただし、この場合、本来の取得費よりも低い価格になってしまう場合もあります。購入価額が不明なのは、譲渡所得の計算上、不利になってしまうため、購入時の売買契約書などの書類が残っていないか、できるかぎり探すようにしましょう。

譲渡所得税とは

先述した譲渡所得にかかる税金が譲渡所得税です。不動産の所有期間によって税率が異なり、先ほどの計算式に下表の税率をかけた金額を納めます。

所有期間 5年以下 5年超
所得税 30% 15%
住民税 9% 5%

※2037年までは復興特別所得税として2.1%を合わせて申告・納付します

不動産を売却した際に活用できる譲渡所得の特別控除は?

譲渡したものが不動産の場合はどのような特別控除があるのでしょうか
譲渡したものが不動産の場合はどのような特別控除があるのでしょうか

土地や建物などの不動産を売却した時に認められている特別控除は6つあります。

控除の金額 適用条件の概要
5,000万円 公共事業のために売却した時
3,000万円 マイホームを売却した時
(相続で得た時、以前住んでいたマイホームの場合と現在住んでいるマイホームの場合で条件は異なります。)
2,000万円 特定土地区画整理事業などのために売却した時
1,500万円 特定住宅地造成事業などのために売却した時
1,000万円 平成21年・平成22年に取得した国内の土地を譲渡した時
800万円 農地の保有化などのために売却した時

なお、それぞれの特別控除の金額は不動産を売却(譲渡)したときに得られる譲渡益が限度です。また、該当年の譲渡益が複数の控除を組み合わせられる場合は、全体で5,000万円までが控除の限度となります。

参考:国税庁ホームページ No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)

マイホームを売却したときの特別控除

不動産を売却して利益を得ると、高額の譲渡所得税が発生する可能性があります。ただし、マイホームの売却であれば、多くの場合、税金が軽減されるでしょう。理由は、前項で紹介したマイホーム売却の3,000万円の特別控除があるためです。適用には条件があるので、以下にまとめます。

相続で得た家屋や敷地を売却する場合

相続または、遺贈で得た家屋や敷地を売却する場合に3,000万円までの控除が認められます。この特別控除は「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」、通称「空き家特例」といわれ、相続で受け継ぐ家の半数が空き家になってしまっていることから2016年度の税制改正で作られた特例です。なお、投資用の家屋は適用外となるので、気をつけましょう。
特別控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 建築が1981年3月31日以前であること
  • 区分所有建物登記がされていないこと
  • 相続される前に、被相続人以外が住んでいないこと

また、これ以外にも売却代金や売却日に関する要件があるため、詳細は国税庁のホームページで確認しましょう。

マイホームを売却する場合

今住んでいるマイホームを売却する場合にも、3,000万円の特別控除が利用できます。要件は下記のとおりです。

  • 自分が住んでいる住宅を売るか、住宅とともに敷地や借地権を売ること
  • 売った年の前年と前々年に、同じ特例または「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと
  • 売主と買主の関係が、親子や夫婦など特別でないこと

なお、以前住んでいた住宅や敷地の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日が属する12月31日までに売却することが要件となります。また、敷地を貸し駐車場など、他の用途に使用していないことも要件です。

さらに、以下の目的で保有していた不動産は控除の対象外となります。

  • 自宅を新築するため、建て替え中の仮住まいとしていた不動産
  • 特例を適用するために一時的に住んでいた不動産
  • 趣味や娯楽、保養が目的で所有した別荘
  • その他、断続的に住むのでなく一時的に入居した不動産

なお、店舗や事務所を兼ねる併用住宅の場合、基本的には居住スペースの部分のみが適用。しかし、居住スペースが不動産全体の9割以上の場合は、建物すべてが適用対象です。また、所有期間が10年超の家屋なら、税率が軽減される特例と併用できます。

不動産以外の譲渡所得の特別控除は?

譲渡したものが不動産以外の場合はどのような特別控除があるのでしょうか
譲渡したものが不動産以外の場合はどのような特別控除があるのでしょうか

不動産以外の譲渡所得の特別控除は不動産の時と異なり1種類で、控除の金額は50万円です。本章では、不動産以外で譲渡所得税の対象になるのはどのような資産なのか、計算方法も紹介します。

譲渡所得の対象になる不動産以外の資産

不動産以外で、譲渡所得税の対象になる資産は、株式、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、配偶者居住権、配偶者敷地利用権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などがあります。

参考:No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法 [令和5年4月1日現在法令等]

なお、貸付金や売掛金などの金銭債権は、譲渡所得には含まれません。また生活用動産(家具、衣類、什器、通勤用の自動車)の売却で得た利益は所得税が課税されません。

譲渡所得税の計算

不動産以外の譲渡所得の計算は、資産の取得の日以後、何年所有されたかによって計算方法が異なります。

所有期間が5年以内の計算式(A):
課税譲渡所得金額=売却価額ー(取得価額+売却費用)ー特別控除50万円

所有期間が5年超の計算式(B):
課税譲渡所得金額=売却価額ー(取得価額+売却費用)ー特別控除50万円×1/2

もし、両方の譲渡所得がある場合でも、特別控除額は両方をあわせて50万円まで。控除は(A)のほうを先にします。

不動産の譲渡所得に特別控除を適用するには確定申告が必要

特別控除の適用を受けるには確定申告が必要です
特別控除の適用を受けるには確定申告が必要です

譲渡所得が発生した際には、確定申告をしなければなりません。しかし、特別控除を適用して譲渡所得が0円となる場合にも、確定申告が必要となります。本章では、確定申告について解説します。

確定申告の手順

確定申告をするための手順は次のとおりです。

  • STEP 1適用を受ける特別控除を確認する
  • STEP 2必要書類を準備する
  • STEP 3書類に記入する
  • STEP 4書類を税務署に提出し、納税する

まずは自分が受けられる特別控除があるのか、あるとしたらどれなのかを確認します。わからない場合は、税理士や司法書士などの専門家に確認しましょう。適用可能な控除がわかったら、必要となる書類を準備します。適用を受けたい特別控除によって、必要となる書類は異なるので注意が必要です。国税庁のホームページにはチェックシートが用意されているため、確認しましょう。

書類を記入したら、税務署に提出します。確定申告の期間は売却した年の翌年2月16日〜3月15日です。譲渡所得が発生していた場合は、申告だけでなく、納税も同期間に済ませなければなりません。期日終了間際は混み合うため、なるべく早めに済ませるようにしましょう。

また、国税庁のホームページからe-Taxを利用し、電子申告も可能です。マイナンバーカードを所有しており、カードリーダーなどがあれば、利用できます。2023年分の確定申告書等作成コーナーは2024年1月初旬に公開される予定です。

住民税単体での申告は不要

譲渡所得税は所得税だけでなく、住民税も発生します。そのため、住民税の申告も必要なのではないかと思われるかもしれません。しかし、確定申告をすると所得税だけでなく、住民税の申告も同時にしたことになります。そのため、住民税単体での申告は不要です。

なお、住民税は地方自治体から納付書が送られてくる納付書を使用して納付する「普通徴収」と勤務先で給与から天引きされる「特別徴収」の2種類あります。確定申告書にどのように支払うか選択する欄があるため、希望する納付方法を選びましょう。

この記事のQ&A

Q:譲渡所得とは?

A:譲渡所得とは、特定の資産や権利を譲り渡すことによって生じる所得です。不動産のみでなく、株式、債券、知的財産権などの資産に関する権利を譲り渡して得られる所得が含まれます。譲渡所得の計算は、【収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額】で算出します。

譲渡所得を計算する際の取得費は、当該の資産や権利を取得するために支払った代金や費用、手数料などを指します。もし、取得費が不明な資産は、売却額の5%相当が取得費になりますが、実際の価値と乖離していると損をするケースが多いので、保証書などは大切に保管しておきましょう。

Q:不動産の譲渡所得の特別控除は?

A:土地や建物などの不動産を売却した時に認められている特別控除は6つあります。公共事業のために売却すると5,000万円の控除があったり、農地の保有化などのために売却すると800万円の控除があったりします。
そのなかでも、マイホームを売却した時の3,000万円の控除は利用する可能性が高いので、知識を深めておくと役立つでしょう。適用するには、相続で得たのか、現在住んでいるのか、住んでいなかった期間があるのかなど細かい条件が決められています。この控除を適用すれば、多くの場合、税金が抑えられます。条件などの詳細をよく確認し、利用できるようにしましょう。なお、控除を利用する場合には自分で確定申告をしなければなりません。

Q:不動産の譲渡所得の特別控除を受けるには?

A:不動産の譲渡所得の特別控除を受けるには、確定申告をおこなう必要があります。また、特別控除を受けて譲渡所得が0円となる場合でも、確定申告は必要です。特別控除の要件は複雑なので、 わからない場合は税理士などの専門家に相談しましょう。
各控除によって、必要となる書類は異なるため、注意が必要です。確定申告の時期には、税務署の職員に相談できるコーナーなども設けられるため、うまく活用しながら申告しましょう。

まとめ

本記事では、譲渡所得の概要や計算に必要な取得費の考え方、譲渡所得税の計算方法を説明しました。また、不動産の譲渡所得税を抑えられる特別控除にはどのようなものがあるのかを解説しました。特に、自宅を売却する場合、数千万円の控除を活用するか否かでは、納める税金の金額は大きく違います。どの特別控除を適用できるかわからない場合には、税理士や司法書士などの専門家に相談してみましょう。

長谷川賢努

執筆者

長谷川賢努

AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士

大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ

ライフマネー研究所
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