6月期
あなたのいる町
ドクン――。
心が大きく跳ねた。ただの同じ名前に違いない。そう思いながらも浮き上がってくるもしかしてとの期待を必死に押しとどめる。
ドクン、ドクン――。
視線をわずかに滑らせる。隣に並ぶ名は「樹」。偶然の一致……ではない。その証として、樹の名前の下には「(ダイキ)」と書かれていた。
両手で口元を覆う。熱い息が漏れる。肩で息をしながらも絵馬から目が離せない。涙が溢れる。絵馬が滲む。
葉擦れの音が遠くから押し寄せ、近づいてくる。背後の木々がザワリと揺れると、涼やかな青みを帯びた強い風が髪を乱す。
カラン、カラン、カラン――。
絵馬が揺れる。風の過ぎた後には静けさ。
私は置かれているペンを手に取った。「鈴音」の下に書き足す。「(鈴花)」と。
手を合わせ、祈る。
物語が続きますように。
この街のどこかにいるあなたとの物語が続きますように。
そしていつか――共に紡いでいけますように。
木立の上空でトンビが一声高く鳴いた。
あなたのいる町