こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
鳥居をくぐり、趣のある赤い橋をこえて、神社の奥へと進んでいく。
境内の中に入ると、参拝所に続く長い階段があった。
だがしかし、約一駅分歩いた足の疲れが地味にきている。
(お参りは、いいか・・。結構階段あるし・・。)
遠足シーズンなのか、辺りは学生の団体が多く、観光地らしい活気がある。
俺がくるりと入口の方へ帰ろうとすると、近くで中学生の女子数人が楽しそうに話しているのが耳に届いた。
「ねえねえ、ここの神社って縁結びの神様らしいよ!」
きゃっきゃっと彼女達の甲高い声に、俺の足が止まる。
(縁結び・・?)
無意識に、さっき北鎌倉の駅で出会った少女の顔が浮かぶ。
胸の鼓動が、ほんの一瞬、大きくなった。
「・・・・。」
俺は踵を返して、神様のいる参拝所へと続く階段を上り始めた。
***
休憩所で水分補給し、ぶらぶらと境内で写真を撮ったりして過ごす。
手元の時計を見ると、14時をまわったところだった。
鶴岡八幡宮を出て信号を渡って右に進んでみる。更に目の前にある大きな干物屋を右手に進むと、小町通りと呼ばれる大きな商店街に着いた。
随所に食べ物屋や雑貨屋などの魅力的な出店がたくさんある。
たこやき。コロッケ。和菓子。ソフトクリーム。
辺りを見回すと、カップルだけでなく、俺のように一人でぶらぶら歩いている若者もちらほらいる。
ふと、鶴岡八幡宮での自分の願い事を思い出し、思わず自分に苦笑いをする。
-あの子に、もう一度会えますように。
(・・こんなことなら、連絡先くらい聞いておくべきだったなぁ。いや、チキンな俺にそんなことは無理か・・。)
そんなことをうだうだと考えていると、少し前を歩いていた後ろ姿の女の子が目に止まった。
(・・ん?)
深く被った白いキャップ帽に、鮮やかな柄物のTシャツ。かなり短いショートパンツからすらりと、細い足が見える。
てくてくと、小さなリュックを背負って。
服は少し派手だが、その鮮やかな黒髪とその柔らかな雰囲気に、俺は見覚えがあった。
(あれ・・?あの子もしかして・・!)
考える間もなく、俺は走って彼女の元へ向かっていた。
「あ、あのっ!すみません!」
俺の声に気が付き、女の子が振り返る。
ふりかえった彼女は、まぎれもなく先程別れたばかりの彼女だった。
「・・・・!」
俺は自分で呼び止めたにも関わらず、驚きのあまり声が出なかった。
こんな偶然があっていいのか。願ったそばから叶ってしまうなんて、奇跡だ。
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。