テーマ:ご当地物語 / 鎌倉

こじらせ男子、鎌倉で恋をする。

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「へ、へぇ!それはすごい。リスなんて生で見た事ないなぁ。」

彼女は人懐っこく顔を綻ばせた。親しみやすい彼女の雰囲気に、俺の心は少しずつほぐれていく。

「鎌倉は初めてですか?」

「あ、いえ、昔に一度だけ来たことがあります。実は鎌倉駅で降りるはずが、一駅間違えちゃって、ははは・・。」

俺はぎくしゃくとした仕草で頭をかく。くそう。あいかわらずぎこちない、情けない。

「あ、それなら、せっかくですし、ここから鎌倉まで歩いたらいかがですか。」

「へ?」

「ここから鎌倉駅でしたら、だいたい一時間もかからないで行けますよ。この近くにはお寺もたくさんあるし、おススメです。」

柔らかい笑顔がふわり、と俺を包む。やばい。どうしよう可愛いぞ。

「そ、そ、そうなんですね。じゃあ、そ、そうしようかなぁ・・。」

胸の動悸が、喜びで大きくなる。こんな感情は久しぶりだった。
人と話をするだけで、こんなに嬉しい気持ちになるなんて。

可愛い女の子と普通に話が出来た、という邪な心だけではなく、彼女のまっすぐな善意に心が温かくなる。

俺は、彼女の提案通りに歩いて鎌倉に向かうことに決めた。
話を聞くと、どうやら彼女は体調不良で早退し、家に帰る途中だったらしい。

俺は、去り際に「お大事に」と言った。
彼女は「ありがとうございます」と、また笑ってくれた。

その笑顔は、春の日差しのようにいつまでも俺の心に暖かさを残していった。



***



「・・・さて、いくか。」

俺は可愛らしい女学生が教えてくれた少し長い散歩道を、ゆっくりと散策することに決めた。
ホームから西口改札を通過し、いよいよ鎌倉駅方面へと足を進める。

平日のためか人も思ったよりおらず、のんびりとした空気が心地よい。

北鎌倉から、鎌倉までの道程は、車道沿いにほぼ一本道だった。
道沿いのいくつかのお寺を横目に、ゆっくりと歩く。
途中、腹が減った俺は、途中の道沿いの蕎麦屋で軽く食事を済ませ、更に先を進んだ。

(しかし、暑いな・・・。)

季節は5月末。今日は特に日差しが眩しく、歩いているだけで汗がじんわりと出てくる。

さらに歩き続けていると、巨福呂(こぶくろ)坂という大きな洞門トンネルがあり、半円状の細長い屋根が、太陽を和らげて涼しい空間を作り上げていた。

そしてそこからさらに5分程歩くと、信号の前に大きな鳥居があり、俺はふと足を止める。

そこは鶴岡八幡宮と呼ばれる有名な神社だった。

(・・そう言えば、朝見た駅のポスターにも書いてあったな。折角だし寄ってみるか。)

こじらせ男子、鎌倉で恋をする。

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