こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
(・・で、でも、なんでこんなところに・・?)
だが彼女は、俺の動揺をよそに、ためらいもせず、初めて会った時と同じテンションで笑いかける。
「あぁ。またお会いしましたね。こんにちは。」
しかし、その姿にさっきまでの古めかしい雰囲気はどこにもなかった。
濃い化粧が施された目元に、濃い赤の口紅。
さっきと同じ高校生とは思えないような大人びた少女が、そこにはいた。
「ど、どうも・・。あ、あれ?風邪大丈夫なの?」
俺は緊張と興奮を抑え、とりあえず会話を繋げようと、素朴な疑問を口にする。
「・・ああ、あれ、実は嘘です。早退する口実。」
俺は一瞬、耳を疑った。
「え・・。」
彼女の顔が、卑屈に歪む。
「・・すみません。騙すつもりはなかったんですけど。」
彼女はぺこりと頭を下げる。言葉とは裏腹にその振る舞いはとても丁寧だった。
「そ、そうだったんだ・・。」
俺は驚きのあまり、相槌を打つことしか出来なかった。
「・・わたし、家この近くなんです。まだ授業中だから先生も友達もいないし。親は働いているから夜まで帰ってこないし。」
再会したばかりの俺に、彼女は今、自分がここにいる理由を話してくれた。
だが、その表情は恐ろしく乾いているように見える。
「・・・・。」
俺は直感的に思ったことを、思わず彼女に問いかけていた。
「・・学校、いやなの・・?」
「・・・・。」
彼女は何も言わず、乾いた笑顔のままうつむく。帽子のせいで、その表情はわからない。
そのまま、数秒の沈黙が流れる。
(・・やべ、余計なお世話とか思われたかな。)
俺が内心で焦っていると、ややしばらくして彼女が口を開いた。
「・・クレープ食べません?」
「へ?クレープ?」
俺は突然の彼女の提案に、きょとんとする。
「はい。あそこにあるクレープ屋さん。よかったら一緒に食べませんか。」
彼女は向かい側にある、コクリコという名の緑色のお店を指差した。
俺は言われるがまま、彼女と一緒にレモンシュガーというメニューのクレープを注文し、食べながら席に着く。
「・・!?」
口に入れた瞬間、驚いた。
普通のクレープとは違い、しっかり焼かれた熱々の生地がパリパリと心地良い。
そして、溶けた砂糖とレモン汁が、甘酸っぱい。いや、うまいぞ。これ。
「やばい!うまっ!」
俺の素直な反応に、彼女も嬉しそうにしてくれた。
「でしょ?私もここのクレープ、大好きなんです。」
彼女は悪戯っ子のように笑った後、幸せそうにクレープを頬張る。その表情には高校生らしい健康的な幼さがあった。
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。