こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
無事に横須賀線に乗り、空いた席に座りほっと一息つく。天気の良さも相まって、電車の窓から差し込む日光が心地よい。
と、昨日からの疲れがどっと出たのか、俺は猛烈な眠気に教われた。
(横浜から鎌倉までは20分前後か・・。少しは眠れるな。)
僅かな貴重品が入った小さなリュックを胸に抱え、俺は少しの間、睡魔に身を委ねた。
***
夢を見た。
目を背けたくなるような過去が、脳裏でぐるぐる回っている。
父がいる。
(・・まぁ、第一志望の大学には合格できなかったが、そう落ち込むな。お前はよく頑張ったよ。)
-オレガ、シッパイ?ソンナノアリエナイ。
ぐるぐる。
今度は、大学の教室。
(なぁ、合コンの人数一人足りねーんだよな。しゃーないから、たかしでも誘う?)
(やめとけよ。あんな暗い奴いたら、俺らまで株下がるっしょ。)
乾いた笑いが、耳に響く。
(何か気持ち悪いよな、あいつ。俺が女子なら絶対ゴメンだわ。)
-ウケイレラレナイ、イマノ、ミジメナ、ジブン。
俺が大学に行ったのは、それが最後だった。
ぐるぐる。
また景色が変わる。
俺は一人で俯いて歩いている。誰にも目を合わせないように。
(あれ?お前、たかしじゃん!久しぶり。高校以来だな。)
(た、田代・・。)
(お前、随分雰囲気変わったな。そんなオタクみたいな格好して。誰かと思ったよ。)
(・・・。)
(あれ?そういやたかし、確か俺と同じ大学受けてなかったっけ?)
(・・・・落ちた。)
(うわ、そうか、俺だけ受かっちまって悪いな。まぁでもお前、高校の頃からあんまり実力ないくせに態度だけはでかかったよなぁ。)
(・・・・。)
(落ちこぼれのくせに、生意気だってみんな言っていたぜ。ま、やる気があれば、もう一回受験して、せいぜい俺の後輩目指して頑張れや。じゃあな。)
視界がぐにゃり、と歪む。
-ヤメロ。ヤメテクレ。ヤメテクレ。ヤメテクレ。
何かが、何もかもが、崩れる。
俺の心は、あまりにも、脆い。
***
「・・まくら。・・・かまくらです。お出口は左側・・・。」
「はっ!!!」
車内アナウンスの声で、俺は悪夢から現実に引き戻された。
わけもわからず飛び起きたせいで大きな声を出してしまい、周りにいた乗客が俺に注目する。
視線が、痛い。
やめろ、そんな目で俺を見るな・・・。
俺は現実でも逃げるように急いで電車から降りた。
「・・・あれ・・?」
駅に降り立ち、ようやく辺りを見渡す余裕が出来て、俺は妙な違和感を覚えた。
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。