自営業を営むご実家で職住一体の生活をしていたKさんご夫妻は、「職場と自宅は別の方がくつろげる」と、以前から思いを募らせていた一戸建てを新築することに。通勤圏内で土地探しをはじめたが、そこには揺るぎないイメージがあった。「出張や旅先でふと目にする自然豊かな景色には、心なごむものがあります。自宅にいながらその気分を味わえたら、どんなにいいだろうと思っていました」(ご主人)
見つけた土地は、高台で視界が大きく開かれているのはもちろん、街並みや往来する電車、海まで望める叙情的な風景に、何より心を捉えられたという。「ただ景観をダイナミックに表すのではなく、段々と広がっていく奥行きのある住まいにしたいと思いました」と話すのは建築家の西久保毅人さん。外を一望する開放的なリビングにした一方で、1階から2階へ貫く円筒の小部屋を設置。キッチンの壁は大きく湾曲させ、〝こもれる〞場所をつくった。曲線を多用したユニークなつくりは、もう一つの意図がある。
玄関土間の横にワークスペースを配置。ふとしたときに景色を眺められるように窓を設けた |
「親子は一緒にいたいときと、離れていたいときの両方があると思うんです。完全に空間を隔てると触合いの機会を逃してしまうし、オープン過ぎてもストレスになります。目的が定まらず、工夫する余地がある方が、家族が心地よくつながれると考えて、あえて一見無駄で用途が不明確な場所もつくりました」(西久保さん)当初はモダンな住まいを望んでいたご主人だが、これに深く共感。奥さまの意向もあり、家族のあり方を最優先するプランで進めてもらったという。「お正月に親戚が集まってちゃぶ台を囲むような、気楽に過ごせるところが気に入っています」(奥さま)
掘座卓にしたダイニングでお子さんと料理をしたり、リビングにテントを張って寝転がったり、のびのびと家族の時間を楽しんでいる。「この家に住んでから親子の距離が近くなった」というご主人は、続けてこう話す。「起抜けの朝日も仕事終わりの薄暮も、晴天も雨天も見飽きることがありません。毎日、居心地の良い旅館を訪れたように『いいなあ』と思います」至極の眺望を今日も心ゆくまで楽しんでいる。
円筒の小部屋(こもり部屋)は吹抜けで、上部からほんのりと明かりが届く。「リビングだと音が広がるので、ここでギターを弾いています」(ご主人) |