地域一帯でエネルギーをコントロール。 人と環境にやさしいスマートシティ&ライフ
2008年に「環境モデル都市」、2011年に「環境未来都市」に政府から選定された北九州市かつて深刻な環境汚染が問題であったこの都市の低炭素社会実現に向けたまちづくりと住まいのかたち
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日本の近代産業発祥の地である北九州市八幡東区東田地区は、1986年、「環境共生」をスローガンに工場とまちが共生する新しいまちづくりをスタート。行政、企業、住民が一体となり、地区全体に電力を供給するコジェネレーション発電、環境共生型マンション、カーシェアリングやレンタサイクルなど、数多くの施策を実施し、一般街区と比べて現在30%のCO2削減を実現している。2010年に開始した「北九州スマートコミュニティ創造事業」では、消費者が参加するエネルギーマネジメントにより、さらに20%のCO2削減が目標だ。
その中で住民の関心を集めているのが「ダイナミックプライシング」という電力の料金体系。これは、同地区の電力を管理している地域節電所が、気象情報や過去の消費電力量などのデータに基づいて翌日の電力需要、発電量を予測し、受給調整を実施するシステムだ。 「電力が多く使われると予想される日は、地区全体の電力使用を抑える目的で、時間帯によって電気代を高く設定し、各家庭には住居内に設置された表示器で通知しています」(北九州市環境局・田原温さん)
218世帯が住む環境共生型分譲マンション「リビオ東田ヴィルコート」では、195世帯がこのシステムを導入している。住人の一人は、「早朝など、電気料金が安い時間にIHで料理したり、洗濯機をまわしたりして家事を済ませるようにしています。日中は電気料金が高いので、外出することが多いです。以前大阪に住んでいたころと比べると、電気代は約半分になりました」という。住宅のほか、ショッピングセンターや病院などでも地域節電所と連携して館内の電力のピークカットを実施している。
また、工場で発生した副生水素を使用した燃料電池の実証を行っている。現在、6世帯が入居する水素実証住宅があり、co2を排出しない水素エネルギーで家庭内の電力がまかなえる。 「公害がひどい時代、家族の健康を心配した母親たちが立ち上がり、行政や企業と共にこの問題を解決しました。この地域のまちづくりには、今でもそのルーツが脈々と受け継がれています」と話すのは、NPO法人里山を考える会の職員。行政だけでなく、住民も積極的に環境向上を目指してまちづくりを進めている。