不動産の売却は消費税の課税対象!非課税になるケースを解説

本記事では、不動産の売却における消費税の課税対象と非課税になるケースをあわせて紹介します。具体的な消費税を計算するシミュレーションと納税方法も解説するため、不動産売却と消費税の関係が具体的にわかるでしょう。
記事の目次
消費税の課税対象となる要件

不動産の売却における消費税の課税対象を解説する前に、消費税の基本的な要件を紹介します。
- 国内取引である
- 事業者が事業でおこなう取引である
- 対価を得る取引である
- 資産の譲渡・貸付け・役務の提供である
上記の4つの要件を満たす取引のみに消費税が課される仕組みです。
国内取引である
消費税は、資産の所在地や役務提供の場所が、日本国内にある取引だけが課税対象になります。国外で完結する売買やサービスの提供は、不課税取引として除外されます。例えば、海外の不動産を現地法人に売却する場合は、譲渡する場所が国外にあるため、国内取引とはならず課税されません。
事業者が事業でおこなう取引である
事業者は、法人、個人事業主のことを指します。法人としておこなう取引は事業とみなされるため、消費税の課税対象です。一方で、個人事業主が事業をおこなう場合は、取引が事業性のあるものであるか、プライベートなものであるかによって異なります。そのため、個別具体的なケースで判断が必要です。取引をおこなう人が事業者であり、事業性のある取引であることが焦点になるでしょう。
対価を得る取引である
対価を得る取引とは、提供した財・サービスに対して、代金や権利などの経済的利益を受け取る取引のことです。つまり、物品を販売して金銭を得る取引のすべてが対価を得る取引になります。一方で、寄付を目的に無償の譲渡をおこなう場合は、対価を得る取引にはならないため、消費税の課税対象にはなりません。
資産の譲渡・貸付け・役務の提供である
資産の譲渡・貸付けは、不動産などのモノや、知的財産権を売却、または一定期間貸付けるために他人に渡すことを指します。役務は他人のためにおこなうサービスのことであり、工事や修繕などの他人に提供する労働も役務に含まれます。
以上の消費税の要件から、不動産売却は消費税の課税対象になります。
不動産の売却における消費税の課税対象

不動産の売却における消費税の課税対象は以下のとおりです。
- 事業用建物
- 仲介手数料
- 司法書士の報酬
- ローンの手数料
それぞれ詳しく見ていきましょう。
事業用建物
事業者が保有していたオフィスビルや、賃貸マンションなどの建物部分を売却する場合の対価は、国内で事業者が事業として対価を得ておこなう資産の譲渡に該当するため、消費税の課税対象になります。
そのため、建物部分の売却価格に消費税率10%をかけた税金が発生します。また、土地と建物を一括で売却する場合は、建物部分のみを課税対象として申告しなければなりません。
消費税の申告は、消費税の納付義務がある課税事業者がおこなうものです。消費税の納付義務のない免税事業者はこの限りではありません。
事業用建物にかかる消費税のシミュレーション
事業者が事業用建物を売却する際に発生する消費税を計算しましょう。例えば、不動産の売却価格が5,000万円で、建物部分と土地部分の価格は以下の場合を見てみましょう。
- 不動産の売却価格:5,000万円(税込)
- 建物部分の売却価格:3,000万円(税込)
- 土地部分の売却価格:2,000万円
土地部分は非課税であるため、建物部分の売却価格にかかる消費税を計算します。
消費税:3,000万円 ÷ 1.1 × 0.1 = 約272万円
土地部分は消費税が課税されないため、不動産全体の売却価格をもとに税金を計算しないようにしましょう。
仲介手数料
仲介手数料は、不動産会社が売主・買主間の契約成立を支援する役務の対価です。役務の提供地が日本国内であり、宅地建物取引業者という事業者が継続しておこなう事業行為に該当するため、消費税の課税対象となる要件を満たします。
仲介手数料は上限が決まっています。400万円を超える売買代金の場合の仲介手数料は、次の計算式となります。
売買代金 × 3% + 6万円
そのため、消費税額の上限は次の計算式の範囲内に収まります。
(売買代金 × 3% + 6万円) × 10%
また、個人間売買で仲介業者を介さずに不動産を売買した場合は、仲介手数料自体が発生しないため、消費税も支払う必要がないでしょう。
司法書士の報酬
不動産の売却では、抵当権抹消登記などの登記手続きが必要です。登記手続きはご自身でおこなうこともできますが、手続きの複雑さから司法書士に依頼することが一般的。その際、司法書士に対して報酬を支払いますが、その報酬にも消費税が発生します。また、不動産登記では消費税のほかに、登録免許税と呼ばれる税金も支払う必要があることも理解しておきましょう。
ローンの手数料
住宅ローン・不動産投資ローンには、事務手数料・繰り上げ返済手数料・保証料などの各種ローン手数料があります。金融機関が契約締結・債権管理などのサービスをおこなう見返りとして受け取る対価であるため、国内における役務提供となり課税対象です。
不動産の売却時点でローンを組んでいる状態にある場合は、売却のためにローンを一括返済する際に支払う繰り上げ返済の手数料にも消費税が発生します。
不動産売却で消費税が非課税になるケース

一方で、不動産の売却で消費税が非課税になるケースは以下のとおりです。
- 不動産の建物を含まない土地部分
- 事業者でない個人が所有する建物
- 免税事業者による売却
- 物件とあわせて売却する生活用動産
不動産の建物を含まない土地部分
土地の譲渡は消費税法において非課税取引とされています。土地は建物と異なり、人為的に生み出されたものではなく自然資源であるため、商品やサービス消費に税を課す消費税の概念に当てはまらないためです。
そのため、不動産の建物を含まない土地部分の売却では、事業者が事業で活用していた場合でも消費税がかかりません。よって、不動産の売却にかかる消費税を支払う場合は、建物部分と土地部分を分けて申告しなければ、土地部分も合算されるため、必要以上に税金を支払ってしまう可能性があります。
事業者でない個人が所有する建物
建物の所有者が事業者でない場合は、不動産を売却しても消費税を支払う必要はありません。不動産投資用の物件であっても、会社員など事業をおこなっていない個人の所有する物件も非課税です。消費税が課税されるかは、建物の性質だけでなく、誰が取引をおこなうかによって決まります。
免税事業者による売却
事業者であっても、前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下であれば、法人・個人事業主とも免税事業者となり、消費税の納税義務が免除されます。なぜなら、免税事業者が事業用建物を売却する場合、取引自体は課税取引に該当しますが、売主は消費税を預かり納付する義務がないからです。
ただし、国が定める課税事業者の基準を満たしていなくても、インボイス制度に登録している場合は、消費税を支払う必要があります。
物件とあわせて売却する生活用動産
物件とあわせて売却する家具・家電・自動車など、生活に必要な生活用動産の譲渡は、非課税取引となっています。ただし、30万円を超える貴金属・宝石、絵画などの美術品など、一定の資産性がある動産は例外です。しかし、基本的に生活用動産の売却に対しては消費税がかかりません。
不動産売却で発生した消費税の納税方法

事業者として不動産売却をおこない、発生した消費税の納税方法を解説します。基本的には指定された期間に確定申告をおこなって納付します。しかし、場合によっては、中間申告・中間納付が必要になる場合もあるため、あらかじめ確認しておきましょう。
確定申告をおこなう
課税事業者として不動産を売却して仮受消費税が発生した場合、翌年に税務署に消費税および地方消費税確定申告書を提出して清算します。提出・納付期限は個人事業者で翌年3月31日、法人は事業年度終了日の翌日から2カ月以内が原則です。
中間申告・中間納付が必要になる場合もある
個人は前年、法人は前事業年度の消費税年税額が48万円を超えると、当期途中で中間申告書を提出し、見込税額を納付しなければなりません。消費税年税額と中間申告の回数については以下のとおりです。
前事業年度の 消費税年税額 |
中間申告の回数 | 申告回数の合計 |
---|---|---|
48万円以下 | 原則不要 | 確定申告1回 |
48万円超~400万円以下 | 1回 | 確定申告1回、 中間申告1回 |
400万円超〜4,800万円以下 | 3回 | 確定申告1回、 中間申告3回 |
4,800万円超 | 11回 | 確定申告1回、 中間申告11回 |
出典:国税庁「中間申告の方法」
中間納付で多く消費税を支払い過ぎた場合は、期末の確定申告で精算して還付を受けることが可能です。消費税の申告は原則として確定申告、前事業年度の消費税年税額によっては中間申告により、複数回に分けて納税します。
不動産売却の消費税に関するポイント

最後に、不動産の売却における消費税に関して抑えておきたいポイントをまとめました。
居住用不動産に消費税はかからない
居住用に保有していた一戸建てやマンションを売却する場合は、事業としておこなう資産の譲渡には該当しません。売主が事業者であっても、売主個人が居住用として使用していた物件であれば、消費税はかからないことになっています。
そのため、売却した不動産が居住用であれば、消費税がかかる心配はないでしょう。事業で不動産を活用している場合はかかりますが、住み替えなどで住宅を売却しても、売却価格に対して消費税はかからないという認識で問題ありません。
土地と建物の区分を明確にする必要がある
不動産の売却において、建物は課税、土地は非課税となっているため、消費税の計算ではそれぞれの売却価格を明確に区別する必要があります。按分は、固定資産税評価額や不動産鑑定評価額を活用して、建物部分と土地部分の金額を分ける方法が実務的です。
土地は基本的に非課税ですが、例外的に1カ月に満たない土地のみの短期貸付けや、駐車場としての利用は非課税から外れます。よって、駐車場が併設された物件の場合は、土地部分にも課税が及ぶケースも。不動産の課税部分と非課税部分を把握し、消費税を正しく計算して納付することが重要です。
消費税を支払う可能性がある場合は専門家に相談する
事業者が不動産の売却で消費税を支払う可能性があり、税務でわからないことがある場合は、税務署、または税理士に相談するようにしましょう。不動産の売却で一時的に大型の仮受消費税が発生すれば、翌年以降に免税事業者から課税事業者になるケースや、中間申告の回数が増えることが考えられます。
不動産の売却でかかる消費税は申告したら終わりではなく、これまでの税務作業が変化する可能性も。申告の手間がさらに増える可能性もあるため、消費税を支払う可能性がある事業者の方は専門家への相談も検討しましょう。
まとめ
不動産売却における消費税は、国内取引かつ事業者が対価を得ておこなう資産の譲渡・役務提供にのみ課税されます。よって、事業者が事業として売却する不動産の売却価格、仲介手数料や司法書士報酬など関連して提供されるサービスでは消費税を支払うことになります。
一方で、消費税の適用要件を満たしていても、不動産の土地部分に関しては非課税です。また、事業者が免税事業者である場合など、条件によっては消費税の支払いが不要になるケースも。売却価格に対する消費税の納付方法も、事業者が納める前事業年度の消費税年税額によって異なるため、個別具体的に内容を把握することが重要です。
消費税を含む不動産の売却に関する税金で困ったことがある場合は、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
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執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
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