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耐震基準適合証明書は必要?取得方法とメリット、注意点について解説

耐震基準適合証明書は、住宅の耐震基準を満たす証明をする書類です。さまざまなメリットをもたらす証明書ですが、必ず取得できるものではありません。耐震基準適合証明書を取得することで、災害に対する建物の安全が担保されたり、住宅ローンの控除、不動産取得税・登録免許税などの各種税金の減税、地震保険の割引に至るまで税制上も優遇措置を受けられたりします。

本記事では耐震基準適合証明書について解説するとともに、取得することによるメリットや取得方法、注意点についてご紹介します。これから住宅を購入する予定の方や、耐震基準適合証明書を取得予定の方はぜひ参考にしてください。

耐震基準適合証明書とは?

「耐震基準適合証明書」とは、建物の登記簿上の建築日付が1982年(昭和57年)1月1日以前(旧耐震基準)に新築された中古住宅を取得した場合に、建物が新耐震基準に適合していることを証明できる資料のひとつです。耐震基準適合証明書を発行してもらうためには、現行の構造基準(新耐震基準)で耐震性の有無を確認する耐震診断を受けなければなりません。耐震診断では、外回りや壁・床、基礎、屋根裏などを目視や調査器具によって調査し、建物の上部構造評点が4段階評価のうち「一応倒壊しない」に該当する1.0以上と診断されれば、耐震基準適合証明書が発行されます。なお、耐震基準に関する詳細は、以下の関連記事でご確認ください。

なぜ耐震基準適合証明書が必要なのか?

耐震基準適合証明書は、主に住宅ローン控除や登録免許税の軽減など、税金の優遇措置を受けるために必要な書類です。築年数がある程度経過した中古住宅を購入する場合、耐震上の安全性を確認した証明書を取得することが、各税金の優遇措置を受けられる条件のひとつとなっています。また、耐震基準適合証明書を取得することで、売買取引の際にも役立つでしょう。詳しくは後述します。

売主と買主どちらが申請する?

以前まで、申請者は不動産の所有者である「売主」とされており、買主が取得を希望する場合は売主に発行申請を依頼しなければなりませんでした。しかし、現在は「売主」「買主」どちらでも申請可能となっています。発行申請はメリットの多い「買主」がおこなうケースが多く、手続きもスムーズに進められるでしょう。

どこで取得できる?

耐震基準適合証明書は、以下で発行してもらえます。

  • 建築士事務所に所属する建築士
  • 指定確認検査機関
  • 登録住宅性能評価機関
  • 住宅瑕疵担保責任保険法人

国土交通省が指定した一般財団法人などの指定性能評価機関や、建築士事務所に所属する建築士であれば、証明書の発行が可能です。ただし、設計や工事監理を一級建築士のみでしかおこなえない建物の場合は、一級建築士による発行が必要です。

取得のための期間と費用は?

耐震基準適合証明書の取得に要する期間は、約1カ月から3カ月といわれています。耐震診断を依頼してから現地調査を実施するまでにかかる期間は1週間ほどですが、現地調査から耐震診断の結果報告書を提出するまでの期間は1カ月ほどかかります。また、診断の結果、追加工事をおこなう必要があれば約2カ月かかることもあるので、取得まで一定の期間かかることを考慮して依頼するようにしましょう。

費用は耐震診断で10万円前後、証明書の取得で3万円から5万円程度が相場です。売主と買主のどちらが費用負担しても問題ありませんが、住宅購入者である買主が負担するのが一般的です。中古住宅の規模や検査機関ごとに費用が異なるため、取得を依頼する機関に直接問い合わせるようにしましょう。

耐震基準適合証明書を取得するメリット

耐震基準適合証明書を取得すると、さまざまな税金の優遇を受けられるなど、特に買主にとって多くのメリットを得られます。主に挙げられるメリットは、以下の6つです。

住宅ローン控除が受けられる

耐震基準適合証明書を取得することで、旧耐震基準の物件も住宅ローンの控除を受けられるのは大きな魅力のひとつといえるでしょう。住宅ローン控除は最長13年間、控除率0.7%を受けられます。以前は耐火住宅であれば築25年以内、非耐火住宅であれば築20年以内の物件以外は耐震基準適合証明書が求められていました。しかし、2022年税制改正後の制度では、1982年以後に建築された物件は証明書が不要です。

不動産取得税の軽減を受けられる

耐震基準適合証明書を取得すると、不動産取得税の軽減も受けられます。不動産取得税とは、土地や建物の不動産を購入した方が一度だけ各都道府県に納めなければならない地方税のことです。不動産を取得した時に、有償・無償に関わらず課税されます。ただし、相続など一定の取得方法の場合には課税されません。

建物については、評価額から一定額が控除されます。ただし、控除額は不動産の新築日に応じて100万円から1,200万円と決まっているほか、自治体によっても異なるためあらかじめ確認しておきましょう。土地に関しては、決められた計算式で算出した金額と45,000円を比較し、多いほうの金額が控除できます。土地と建物はそれぞれ分けて計算しますが、計算式は以下のとおり共通です。

不動産取得税の計算式
  不動産取得税額=固定資産税評価額×税率

登録免許税の軽減を受けられる

登録免許税の軽減を受けられるのも、証明書を取得するメリットのひとつです。不動産の売買取引がおこなわれて不動産を取得する際に、旧所有者から新所有者へ移転登記が必要となります。登録免許税とは、その移転登記をおこなう際に法務局へ納める税金のことです。建物の所有権移転登記の税率が2.0%から0.3%になるほか、抵当権設定登記の税率が0.4%から0.1%に軽減されます。計算式は以下のとおりです。

登録免許税の計算式
  登録免許税額=課税標準額×税率

住宅取得資金に関する贈与税の非課税措置を受けられる

父母や祖父母など、直系尊属から住宅を取得するための資金を贈与として受け取った場合、要件を満たしていれば一定額まで贈与税の非課税措置を受けられます。非課税限度額は質の高い住宅で1,000万円、一般住宅で500万円までです。主な要件として、2022年1月1日から2023年12月31日までに贈与されたことや、受贈者が贈与を受けた年の合計所得金額が原則2,000万円以下であること、質の高い住宅の要件に該当していることなどが挙げられます。

地震保険料の割引が受けられる

地震保険には、住宅の免震・耐震性能に応じた「免震建築物割引」「耐震等級割引」「耐震診断割引」「建築年割引」の4つの割引制度があります。いずれかの要件に該当し、所定の確認資料を提出することによって、地震保険料の10%から50%の割引が適用されます。耐震基準適合証明書を取得していれば、「耐震診断割引」の名目で10%の割引の適用が可能です。

売却の際に安心材料となる

不動産取得時にメリットが多いように感じる耐震基準適合証明書の取得ですが、不動産を売却する際にメリットがある点も大きな魅力といえるでしょう。「耐震基準適合証明書を取得している物件」であることで物件の安全性を担保でき、実際に証明書があることが購入の検討材料になっているケースも多数あります。新耐震基準で施工された建物でも、1995年の阪神淡路大震災において多くの木造住宅が倒壊・大破損したことから、新耐震基準の弱点を強化した「新・新耐震基準(2000年基準とも呼ばれる)」が2000年に制定されました。

耐震基準適合証明書があることが買主にとって大きな安心につながっているほか、売主・買主どちらでも証明書の発行を申請できることは、公平な取引ができるという観点でひとつの安心材料です。

耐震基準適合証明書の取得方法

ここからは、耐震基準適合証明書の取得方法について詳しく解説します。証明書が発行されるまで長ければ3カ月ほどかかるため、不備による時間や費用をかけずに済むよう、事前に必要書類や発行されるまでの流れを把握しておきましょう。

必要な書類

耐震基準適合証明書を申請する際に必要な書類は以下のとおりです。事前に書類を準備して、依頼先に伺うようにしましょう。

  • 耐震基準適合証明申請書 仮申込書
  • 登記事項説明書の写し
  • 台帳記載事項証明書もしくは検査済証の写し
  • 物件状況等報告書
  • 販売図面(間取り図)

耐震基準適合証明申請書仮申込書は、国土交通省のホームページにひな型があるので事前に取得・記入が可能です。また、必要書類のひとつである検査済証は、2000年以降に発行が義務付けられたため、築年数が経過している物件の場合は見つからないこともあるでしょう。各書類の取得方法がわからない場合には、不動産会社が取引に必要な書類として取得しているケースが多いため、確認して写しをもらうのもひとつの方法です。

参考:国土交通省

耐震適合証明書が発行される流れ

耐震基準適合証明書を発行するための必要書類を揃えたら、以下のような手順で発行まで進みます。

  • STEP 1建築士・専門機関へ依頼をする
  • STEP 2現地調査・耐震診断実施
  • STEP 3代金支払い・耐震基準適合証明書発行

1から2までのステップは1週間ほどですが、2から3へ進むまで通常1カ月、追加工事が必要な場合は2カ月以上かかることも想定されます。時間がかかるうえに費用もかかってくることから、工事にかかる費用と税金の優遇措置を受けて節税できる金額を比較しつつ、必要な費用か見極めるようにしましょう。

建築士・専門機関へ依頼をする

まずは建築士事務所に所属する建築士や、指定性能評価機関などの専門機関へ依頼します。建築士に依頼するのが一般的ですが、どの建築士に依頼すればいいかわからない方は、不動産購入の相談をしている不動産会社に相談することでスムーズに進められるでしょう。

現地調査・耐震診断の実施

次に、物件の現地調査および耐震診断を実施します。買主側の依頼の場合は売主所有の物件のため、売主と日程調整をおこなう必要があります。現地調査・耐震診断に立ち会う場合、トラブルを避けるためにも不動産会社に同行してもらうよう手配しましょう。売主と買主が直接やり取りするケースは少ないため、対象物件の仲介をおこなっている不動産会社が売主と買主の都合を聞いてスケジュール調整するのが無難です。

代金支払い・耐震基準適合証明書の発行

耐震診断の結果、新耐震基準に適合している場合は費用を支払い、証明書が発行されます。先述したとおり、耐震診断の実施に10万円前後、証明書の発行に3万円から5万円程度の費用がかかります。

また、耐震診断の結果、新耐震基準に適合していない場合は精密検査や耐震補強工事が必要です。費用は150万円前後が相場で、築年数や床面積、補強箇所によっても異なります。助成金制度を利用できることもあるため、工事を依頼する会社や自治体に相談してみましょう。

耐震基準適合証明書に関する注意点

耐震基準適合証明書の取得にあたって、いくつか注意しておきたいポイントがあります。購入にあたって証明書の取得が必要なかったり、そもそも物件の変更を検討する必要があったりと、余計な費用や時間が発生してしまう能性もあるでしょう。そのため、取得手続きを進める前に以下の注意点を把握しておいてください。

補強工事が必要になる場合がある

耐震基準適合証明書の取得が必要な物件は旧耐震基準であることが多く、新耐震基準と同等の耐震性能を持っている物件は多くありません。耐震基準を満たすために補強工事が必要になることも考えられ、長ければ半年以上の工事期間を要するケースもあります。住宅ローン控除や減税のために取得する証明書ですが、節約できる金額よりも補強工事にかかる費用のほうが大きくなる可能性もあるため、工事を実施する前に金額を比較して決めるようにしましょう。

旧耐震基準の物件以外には基本的に必要ない

耐震基準適合証明書は、旧耐震基準の物件以外は取得する必要がありません。令和4年の税制改正によって、新耐震基準であることが明確な物件については証明書の取得が不要となりました。昭和57年以降新築の場合は取得が不要なため、物件を購入する際は築年数をあらかじめ確認しておきましょう。

有効期限は2年間

耐震基準適合証明書には有効期限があります。期間は2年間とされていますが、注意すべきは起算日です。証明書の発行日から2年間ではなく、現地調査の実施日から2年間なので、一度取得したものを再度売却時などで活用する際には注意しましょう。

物件の購入前に発行手続きが必要

耐震基準適合証明書を取得する時期には制限があるため、物件購入前に発行手続きが必要です。所有権移転後に証明書を取得しても、控除や軽減は受けられません。住宅ローン控除や登録免許税の軽減を受けるには、物件の引渡し日前までに証明書を取得する必要があります。引渡し日から逆算して依頼先に相談しておきましょう。

入居の翌年に確定申告が必要

入居した年の翌年に確定申告しなければ、住宅ローン控除などの税金の優遇措置が受けられない点にも注意しましょう。耐震基準適合証明書を取得すれば自動的に適用されるわけではなく、確定申告時に証明書を含めた必要書類の提出が必要です。会社員の場合は入居した翌年の一度のみ確定申告が必要で、次の年からは会社の年末調整にて控除されるため、毎年手間がかかることはないでしょう。

まとめ

耐震基準適合証明書を取得することで、金額面でさまざまなメリットを得られるほか、物件の安全が担保されるため売買取引にも役立ちます。ただし、証明書を活用する方の状況や物件によっては、税金の優遇措置を受けられなかったり費用が多くかかってしまったりと、必ずしもメリットばかりではないケースも考えられます。取得する際にはあらかじめ注意点を押さえ、適切な判断を心がけましょう。

阿孫 沙綾

執筆者

阿孫 沙綾

不動産エージェントおよびWebディレクター兼ライターのフリーランス。8年間で不動産売買・賃貸の仲介業、実需や収益不動産の仕入れ・販売業務を経験し、現在は個人エージェントとして活動中。また、幅広いジャンルの不動産業務に携わった経験を活かし、不動産・宅建ジャンルを中心に執筆や編集も行う。

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