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耐震基準とは?新耐震と旧耐震はどう違う?2000年基準についても紹介

耐震補強のため、外壁に鉄骨ブレースを設けている様子
地震大国である日本では、住宅を建築する際に建物の耐震性の高さが求められます。耐震基準は複数回見直されており、現行の耐震基準で建築することによって予期せぬ災害にも備えられるでしょう。そのためには、耐震基準を深く理解して住宅を選ぶことが重要です。

本記事では、耐震基準の基礎知識や旧耐震基準からの改正点、耐震基準を満たす住宅の確認方法などについて解説します。購入を検討している住宅がある方や、自宅の耐震性が心配な方はぜひ参考にしてください。

耐震基準とは?

耐震基準とは、建築する建物に対して、建築基準法や建築基準法施行令などの法令によって国が定めた「最低限満たすべき地震の耐性基準」のことをいいます。日本では建築に関する最初の法律「市街地建築物法」が1920年に施行されたものの、防火と衛生の規定が主な目的で、耐震に関する規定はほとんどありませんでした。その後、1923年に関東大震災が起こったことにより、翌年に市街地建築物法が改正され、耐震基準が追加されたのがはじまりです。

耐震基準は大きな震災が起こるたびに改正されており、新たに住宅を建てる際は、現行の耐震基準を満たすことが必要です。建物が倒壊しないような基準、人命を守ることに重きを置いた基準などとアップデートされています。大地震が起こった際の人命の安全確保はもちろんのこと、二次災害の防止や建物も大きな補修をせず設備機能が維持できることなどを目標としています。

耐震基準はどう変わった?旧耐震と新耐震の違い

耐震基準は1981年以前・以降、2000年以降と、大きく3つの時期に分けられるのが特徴です。1981年の建築基準法施行令の改正により、後述する大地震によって耐震基準が大幅に見直され、一次設計と二次設計の概念を導入したことで大きく基準が変わりました。それによって、1981年5月以前に建築された建物を「旧耐震基準」、1981年6月以降の基準で建築された建物のことを「新耐震基準」という表現で区別されるようになっています。その後、1995年に発生した阪神淡路大震災の甚大な被害を目の当たりにし、さらに耐震基準を見直すこととなり、2000年にも基準が見直されました。

耐震基準の時代 年代 できごと
戦前~戦後 1920年
1923年
1924年
1948年
市街地建築物法施行
(関東大震災)
市街地建築物法の大改正
(福井地震)
旧耐震基準 1950年


1959年
1978年
建築基準法制定
⇒震度5程度までの地震で修復可能、倒壊なし
建築基準法施行令改正
(宮城県沖地震)
新耐震基準 1981年



1995年
建築基準法施行令大改正
⇒震度6強~7の大規模地震で倒壊なし、震度5強程度までの中規模地震で軽度なひび割れ程度
(阪神・淡路大震災)
2000年基準
(新・新耐震基準)
2000年



2011年
2016年
建築基準法改正
⇒新耐震基準に加え、地盤調査の実施・接合部の金物使用・耐力壁バランス
(東日本大震災)
(熊本地震)

1981年に「新耐震」へ改正された理由は?

1981年に「新耐震基準」に改正されたのは、1978年に発生した宮城県沖地震による被害がきっかけです。震度5の地震によって、現在の仙台市域だけでも住宅の全半壊が約4,400戸、一部損壊が約86,000戸、死者十数名と重軽傷者数は10,000人以上にも及ぶ多大な被害が生じました。
主にブロック塀の倒壊や落下物による負傷、火災発生、ライフラインの被害などさまざまな被害がありましたが、震度6以上の地震だった場合、建築物や住宅の倒壊はさらに大きな数字を生み出し、多くの人命も失われていた危険性があったと考えられます。そのため、震度6~7程度の地震でも倒壊しないような耐震性を家屋に求められるようになり、「新耐震基準」が設けられました。

「新・新耐震基準」「2000年基準」とは?

2000年の改正によって設けられた基準は、「2000年基準」や「新・新耐震基準」と呼ばれています。2000年基準は、新耐震基準で建築された多くの木造住宅が1995年の阪神淡路大震災によって倒壊・半壊したことをきっかけに、新耐震基準の弱点を強化し、木造住宅をメインターゲットとして制定された基準です。

地盤調査の規定が充実されたほか、地盤の耐力に応じた基礎構造とすることや、筋交い(すじかい)金物や柱頭柱脚(ちゅうとうちゅうきゃく)接合金物の使用の規定、耐震壁の配置バランス、偏心率などの規定を示しました。被害が断層沿いや盛土の造成地など、地盤が弱いところで際立っていることから、地盤の調査やその地盤に合わせて基礎をしっかりつくることは必須事項といえるでしょう。また、外壁材を取り付ける引っ掛け金物は、地震の揺れが集中しやすくなり外壁の落下の危険性があるため、金物の使用にも規定を示しました。その他、建物の重心や剛心のズレの大きさを表す偏心率は、できるだけ小さくして建物のバランスを保つことが地震への備えにつなげられます。のちの2016年に起こる熊本地震にて、2000年基準で示した規定の重要性が明らかになるのです。

旧耐震のままだとどうなる?耐震工事したほうがいい?

2023年現在、旧耐震基準の建物はまだ多く存在しています。旧耐震の自宅を相続したり両親が住み続けていたりする、または空き家のまま放置されている場合など、さまざまなケースにより身近にあることが多いでしょう。
旧耐震基準の建物をそのままにしておくと、次に起こるかもしれない震災の際に自身だけでなく、周囲の住人にも迷惑をかけてしまう可能性があります。解体や売却の予定がなく住み続けるのであれば、耐震工事は必ずおこなうようにしましょう。以下では、実際に震災によって旧耐震基準の建物が受けた被害や、震度別に受ける影響をご紹介します。

2016年の熊本地震で旧耐震の建物が受けた被害

上にも述べたように、2016年には熊本地震が発生し、建物も多くの被害を受けました。そのなかでも、旧耐震基準の建物が受けた被害は大きなものとなっています。

熊本地震で、木造住宅の建築時期別に見た被害状況のようす(編集部で作成)
   ※参照:国土交通省 住宅局「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」より

国土交通省の報告書によると、木造住宅における旧耐震基準の建物は28.2%、新耐震基準の建物の倒壊率が8.7%、2000年基準の建物の倒壊率は2.2%と、数字にするとその差は明らかです。なお、構造別にみても、鉄筋コンクリート造の建物で倒壊したのは旧耐震基準の建物のみで、新耐震基準の建物はありませんでした。旧耐震基準の建物が受けた被害は非常に大きく、新耐震基準の耐震性の高さを証明しています。

旧耐震の建物が受ける、震度別の影響

旧耐震基準は、震度5程度の地震が発生した場合に「倒壊しない」ことを目的として基準が定められています。あくまで基準のため、倒壊しない程度の損傷が残る可能性は大いにあり、住めない状態になってしまうことも考えられます。また、旧耐震には震度6以上の地震に対する基準が設けられていないため、震度6~7程度の大規模な地震が発生すると、人命を奪ってしまうような倒壊が起こる可能性が十分に考えられるでしょう。

耐震補強工事の種類とは?

耐震補強工事には、主に以下4つの種類があります。

  • 基礎の補強工事
  • 壁の補強工事
  • 屋根の軽量化工事
  • 結合部の補強工事

既存の基礎上部に新たな基礎を増設する基礎の補強や、新しい壁をつくること、必要な箇所に筋交い・耐震金物の設置、構造用合板の設置などをおこなう耐力壁の増設工事、瓦などの重い屋根から金属葺(ぶき)などの軽い屋根材に替えることで建物にかかる水平力を減らす屋根の軽量化工事、地震力に弱い結合部に金物を効果的に設置する結合部の補強工事などです。
耐震補強工事にかかる費用は自治体によって補助金が出ることもあるため、上手に活用しましょう。

耐震基準を満たしているかの確認方法・調べ方は?

耐震基準を満たしているかを確認するには、新築時に作成される「住宅性能評価書」と呼ばれる書類を確認しましょう。住宅性能評価書は耐震性を含む10項目の評価書となっており、耐震性においては建築基準法の基準をクリアすることはもちろん、基準よりも高い強度かも確認できます。また、旧耐震基準の建物の耐震性を確認するためには、現行の耐震基準で耐震性を判定する耐震診断をおこなうとよいでしょう。

そもそも、旧耐震基準か新耐震基準かを確認したい場合は新築年月日ではなく、建築確認申請が受理された日を確認すれば、どちらの基準で建てられた建物かがわかります。書類は役所で誰でも取得できるほか、対象物件を管理する不動産会社が持っていることがほとんどなので、手軽に取得が可能です。

重要事項説明で耐震診断記録がないといわれたら?

物件を購入する際、契約締結前にある重要事項説明の読み合わせですが、説明のなかには「耐震診断記録の有無」の項目があります。耐震診断記録が「無」の場合もありますが、法律上問題はありません。実際に東京都の「マンション実態調査」 のアンケートでもわかるとおり、旧耐震で耐震診断を実施していないマンションは82.9%と非常に多く、実施済みのマンションはわずか17.1%です。未実施の大きな要因は「改修工事の費用がない」ことであり、耐震診断にかかる100万円~300万円程度の費用をかけたところで改修工事ができないことから、実施に踏み込めないところが多いことがわかります。

耐震診断をおこなっていないことを不安に感じる場合は、1981年以前に建築確認が下りた物件は避けるようにしたほうが無難です。なお、先述のとおり確認すべき日付は「竣工日」ではなく、「建築確認申請が通った日」のため注意が必要です。

実際に耐震診断をするには?

実際に耐震診断を発注するには、リフォーム会社等ではなく建築士事務所に依頼しましょう。専門性の高い作業のため、建築士であれば誰でも実施できるわけではありません。依頼先が耐震診断の実施を対応しているか、実績は豊富かなど、慎重に選ぶことをおすすめします。

金額は木造住宅が10万円~50万円程度、鉄骨造が1,000円/平方メートル~3,000円/平方メートル程度、鉄筋コンクリート造が1,000円/平方メートル~2,500円/平方メートル程度。また、期間は木造住宅が数日程度、鉄骨造・鉄筋コンクリート造で2カ月~4カ月程度かかるのが一般的です。

一戸建ては建物の所有権が自身にあるため、耐震診断を実施する判断が容易です。しかし、複数の区分所有者が集まるマンションでは、自身が「耐震診断を実施したい」と考えても管理組合で決議を取る必要があり、実施できるかはわかりません。マンションの規模が大きいほど改修費用も膨大にかかることから、耐震診断の実施に至るにはハードルが高いといえるでしょう。

また、賃貸住宅の場合は1981年6月1日以前に建築確認された建物で、3階以上かつ1000平方メートル以上の面積を持つ建物であれば耐震診断を実施する義務があります。旧耐震基準の建物であれば、契約前の重要事項説明にて実施の有無や診断結果について説明があるので、確認してみましょう。

耐震等級とは?

耐震等級は「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて制定された、地震に対する建物の強度を表す指標です。等級は1~3の3段階に分かれ、等級の数字が大きいほど建物の耐震性能が高くなっています。地震があった際に耐えられる建物かを判断し、地震に対する構造躯体(くたい)の倒壊などのしにくさを表示しています。

マンションだと耐震等級1が多い理由

マンションなどの共同住宅は、耐震等級1が比較的多い傾向にあります。マンションは木造住宅などと比較して、耐震等級をクリアするハードルが高く設けられています。このほか、間取りの自由が制限されていることから、一定の居住性を保てるように、あえて耐震等級を上げずに建築されているものが多いのです。

主な理由として、建築工法や建築コストの問題が挙げられます。耐震等級を重視した設計の場合、柱を太くしたり梁(はり)を大きくしたりする必要があるうえに、壁量を増やすために窓を少なくすることで採光や通風を確保しづらくなるなど、快適な居住空間をつくるのが難しくなってしまいます。また、柱や梁、壁量などの材料にかかるコストが増えるほか、施工にかかる時間も増えるため人件費などのコストも上乗せされ、結果的に販売価格が高騰してしまうことにつながります。居住スペースをより魅力あるものに仕上げられるよう、耐震等級を1に抑えているのです。

長期優良住宅の耐震性は?

長期優良住宅と認定されるためには、さまざまな基準を満たすことが必要です。耐震性においては、「耐震等級2以上」の強度が求められます。耐震等級2または3の耐震性が確保できるため、大規模な地震が起こった場合にもそのまま住み続けられる可能性が高くなるでしょう。

耐震性以外には、省エネルギー性・劣化対策・維持保全管理・住戸面積・居住環境など複数の性能項目基準が定められています。

新耐震基準を満たしていれば安全?

新耐震基準を満たしている住宅だとしても、適切な維持管理が必要です。また、地震によるほかの災害にも要注意。例えば液状化は、水分を多く含んだ地盤で地震の揺れが加わると地中の水分が地表に吹き出し、建物が沈下したり傾いたりする現象です。新耐震基準の建物でも地面が大きく傾くことでダメージは免れないため、倒壊の危険性は高いといえます。また、震度6強以上で発生する揺れの周期が長い長周期地震動については、現行の建築基準法では想定されていません。タワーマンションのような超高層建築物ほど危険が大きく、想定外の被害が出やすくなっています。

新耐震基準の建物でも「絶対に安全」とは言い切れないため、事前にハザードマップを確認したり、耐震・免震・制振構造が耐震対策されているものを選んだりするなど、できる対策をおこなうようにしましょう。

そもそも建物に寿命はあるの?

建物には、寿命を指す「法定耐用年数」が設けられています。構造や用途によって変わりますが、一般的に木造が22年、鉄骨造が34年、鉄筋コンクリート造が47年です。しかし、耐用年数は建物の環境や維持管理の影響を受けやすく、適切な維持管理ができている建物は寿命が長くなる傾向にあります。古い木造建築で知られる法隆寺は築1,300年以上、100年を超える京都の長屋など、築後数百年という建物も少なくありません。逆にいえば、適切な維持管理ができていないと老朽化を早めてしまうことにもつながります。

雨漏りやシロアリなど老朽化で耐震性に影響することも

耐震性に影響を及ぼす建物の老朽化は、雨漏りやシロアリなどの被害によるものもみられます。鉄筋コンクリート造の建物は、ほかの構造と比べても強度があり寿命が長めですが、鉄筋の錆びを防ぐことが長く維持するための重要なポイントです。アルカリ性のコンクリートが鉄筋を覆って保護していますが、酸性である雨が降り雨漏りを起こせば、次第に鉄筋が錆びていってしまいます。そのため、適宜防水工事の実施が必要になります。

マンションでは、経年劣化や予期せぬ災害に備えてはじめから修繕計画があります。マンションを買うと毎月支払うことになる修繕積立金は、将来的にかかる修繕工事のためです。戸建て住宅の場合は、マンションとは異なり積み立てが決められていたり修繕工事も必須でおこなったりするわけではありませんが、各個人が計画的に保守管理をおこなうよう心がけましょう。

旧耐震でもコンクリートであれば安全?低強度コンクリートとは

旧耐震基準の建物のなかでも、コンクリート構造であれば安全なのではないかと考えることも少なくないでしょう。しかし、そもそも1981年以前は現在よりも技術が古いうえに鉄筋の強度も次第に落ち、安全性も損なわれてきてしまいます。

また、施工時の加水や経年劣化によって期待するほど強度が出ていない、低強度コンクリートと呼ばれる鉄筋コンクリート造の建物も多くみられます。低強度コンクリートは、耐震診断の診断採用強度が13.5N/mm²を下回るコンクリートのことをいいます。低強度コンクリート建築物も、耐震診断でコア抜きして調べることが可能です。適切な耐震補強工事をおこなえれば安心できるでしょう。

まとめ

耐震基準は、1981年を境とする「旧耐震基準」「新耐震基準」「2000年基準(新・新耐震基準)」の3つの基準があります。中古住宅を購入する際は、耐震基準についてしっかり調べておくとよいでしょう。築年数がある程度経過した古い住宅の場合でも、耐震基準適合証明書を取得できば住宅ローン減税などの制度を利用して購入できます。うまく活用することをおすすめするとともに、新築住宅の場合でも耐震等級の高い住居を選ぶことで、より長く住み続けられるでしょう。

阿孫 沙綾

執筆者

阿孫 沙綾

不動産エージェントおよびWebディレクター兼ライターのフリーランス。8年間で不動産売買・賃貸の仲介業、実需や収益不動産の仕入れ・販売業務を経験し、現在は個人エージェントとして活動中。また、幅広いジャンルの不動産業務に携わった経験を活かし、不動産・宅建ジャンルを中心に執筆や編集もおこなう。

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