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2023年(令和5年度)の税制改正大綱を解説!住まいに関わるポイントは?

2022年12月に税制改正の原本となる「税制改正大綱」が発表。自分の生活に関連するものは?
2022年12月16日に「2023年度(令和5年度)税制改正大綱」が公表され、12月23日に閣議決定されました。これをもとに、2023年以降に実施する税制改正の具体的な内容の審議がおこなわれます。今回の改正内容として取り上げられているものは、住宅取得をはじめ私たちの生活にどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では税制改正大綱の中から、私たちの生活に関わるものをピックアップし、わかりやすく解説します。

税制改正大綱とは?

税制改正大綱とは、各省庁や各種団体からの税制改正の要望を集め、税制調査会が内容を審議して翌年以降の税制改正方針として取りまとめたものです。毎年12月に閣議決定して、財務省のホームページにて公開されます。

いつから適用?税制改正までのスケジュール

毎年、税制改正はどのように進められているのでしょうか。税制改正の要望提出から施行までのスケジュールを見てみましょう。

<税制改正までのスケジュール>

  • STEP 1 8月頃 「税制改正の要望」 各省庁が税制改正の要望書を財務省へ提出します。
  • STEP 2 10月~12月頃 「税制調査会の議論」 政府税制調査会が税制のあり方を検討し、与党税制調査会が税制改正の項目を決めるため議論します。
  • STEP 3 12月頃 「税制改正大綱の閣議決定」 与党税制調査会が大綱をまとめ、財務省・総務省が改正法案を作成。閣議決定したあとに与党が大綱を発表します。
  • STEP 4 2月頃 「税制改正法案を国会に提出し審議」 税制改正法案が国会に提出され、財務金融委員会(衆議院)、財政金融委員会(参議院)、総務委員会で審議がおこなわれます。
  • STEP 5 3月頃 「国会で可決・成立」 本会議で審議をおこなったあと、可決し、税制改正法案が成立します。
  • STEP 6 4月頃 「税制改正の施行」 成立した税制改正法案が改正法に定められた日より施行されます。

税制改正までの大まかなスケジュールを知っておくと、ニュースや新聞などで取り上げられた時に興味深く内容を確認できるでしょう。

2023年(令和5年度)税制改正大綱の目的は?

2023年度税制改正大綱では

  • 家計資産を貯蓄から投資へ促し、資産所得倍増プランの実現
  • スタートアップ・エコシステムの抜本的な強化
  • 公平で中立的な税制の実現
  • グローバル・ミニマム課税への対応
  • 資産移転の時期の選択による中立的な税制の構築

などを目的としています。

このなかには、投資による資産形成の支援や贈与税・相続税の見直し、公平性のある税制の構築など、私たちの生活に大きく関わる内容もあるため、改正案の把握はとても重要です。

2023年どう変わる?気になる7項目をピックアップ

2023年度税制改正大綱では、「個人所得課税」「資産課税」「法人課税」「国際課税」「消費課税」「納税環境整備等」「関税」の7カテゴリ17項目が税制改正案として取り上げられています。

このなかには私たちの生活に関連する項目が複数含まれています。税制改正が施行されたら私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。今回は、とくに一般の人たちの暮らしにも直接影響を与える7項目をご紹介します。

NISAの抜本的拡充・恒久化

まずは個人の資産形成を支援する「NISA」、少額から分散投資を始められる「つみたてNISA」の改正内容を説明します。

背景

日本銀行の資金循環統計によると、家計の金融資産は2,000兆円を超えています。しかしその半数は預貯金で、株式投資など投資による資産形成をする人は一部に留まっています。そこで政府は投資環境を整備して資産所得倍増プランを実現するために、NISA制度の抜本的拡充と恒久化を実施しました。

施行時期

新しいNISAは2024年1月から施行されます。

改正内容(概要)

これまでNISAは5年間、つみたてNISAは20年間だった非課税保有期間が撤廃され、無期限化されます。

また名称が変わり、非課税投資枠も大幅にアップします。

  • NISA⇒「成長投資枠」:年間投資上限額は240万円
  • つみたてNISA⇒「つみたて投資枠」:年間投資上限額は120万円
  • 全体の非課税保有限度額が1,800万円(成長投資枠で1,200万円)
  • 成長投資枠とつみたて投資枠は併用が可能

NISA制度が改正されると、株式や債券などのまとまった資金の投資と積立投資が併用できるため、資産形成の幅が広がります。また非課税の恩恵を受けながら、自分のペースにあわせた投資ができるようになるでしょう。

インボイス制度対応の緩和措置

2023年10月1日から始まるインボイス制度は、新しい仕入税額控除の方式です。適格請求書発行業者が交付するインボイスがないと仕入税額控除を受けられなくなります。

今回の改正で、免税事業者から課税事業者になった場合の納税負担を軽減する措置が取られます。

背景

これまでは、売上高が1,000万円以下の小規模事業者は消費税の納税義務が免除されていました。しかし、取引先からインボイスの発行を求められれば、免税事業者でも課税事業者を選択する必要が出てきました。新たに消費税の納税や経理処理などが生じ、大きな負担となっています。

施行時期

負担軽減措置の実施は3年間で、2023年10月1日~2026年9月30日の属する課税期間が対象です。

また、1万円未満の少額取引に対する事務負担軽減策は6年間で、2023年10月1日~2029年9月30日までが対象です。

改正内容(概要)

今回の改正で、免税事業者が課税事業者となった場合、納税や事務処理の負担を軽減するために、消費税の納税額を売上税額の2割に軽減する措置が取られます。

また課税売上が1億円以下などの事業者は、仕入れが1万円以下の少額取引は帳簿の保存だけで仕入税額控除ができるようになります。

小規模に事業をおこなう免税事業者にとっては、インボイス制度はかなりの負担がある点が悩みどころでした。しかし、今回は思い切った負担軽減措置が取られるため、負担が減る個人事業主も多いのではないでしょうか。

所得に対する負担の適正化

所得税の負担を適正化するために、高所得者にかかる譲渡所得に上乗せの所得税が課せられるようになります。

背景

高所得者は財産を不動産や株式投資などの配当金で保有する場合が少なくありません。給与所得は累進課税のため所得が高くなれば所得税の税率が上がります。しかし不動産などの譲渡所得や株式などの配当所得は給与所得よりも税率が低いため、高所得者は所得税の負担率が下がる逆転現象が起きていました。

施行時期

この改正は2025年以降の所得税に適用されます。

改正内容(概要)

「基準所得金額-3億3,000万円×税率22.5%」で求める金額が基準所得税額を超える場合は、超えた金額に応じた所得税が課せられるようになります。

所得の種類によっては税率が変わり、富裕層ほど低税率で所得が多い現状がわかったのではないでしょうか。この機会に、さまざまな所得に課せられる税金の税率に興味を持つとよいかもしれません。

相続時精算課税制度の見直し(贈与税・相続税)

相続時精算課税制度とは、原則60歳以上の両親や祖父母から18歳以上の子や孫へ財産を贈与した時に選択できる制度です。受贈者(子や孫)は2,500万円までは贈与税を納めなくてもよく、贈与者(両親や祖父母)が亡くなった時は、贈与財産の贈与時の価額を相続財産の価額に加えて相続税を計算し、納税します。これがどのように見直されるのでしょうか。

背景

贈与税では、暦年課税制度を選択すると110万円の基礎控除を受けられます。しかし相続時精算課税制度を選択した場合は、暦年課税制度との併用はできないため、基礎控除の110万円を差し引けませんでした。

施行時期

2024年1月1日以降に発生する贈与財産とそれにかかる相続税から対象になります。

改正内容(概要)

今回の改正では、贈与財産から基礎控除として110万円を差し引けるようになります。また、贈与者が亡くなり相続税を計算する際は、贈与財産から基礎控除110万円を差し引いた価額を相続財産に含めることになります。つまり、110万円までは贈与税も相続税もかかりません。

親が高齢になると、ご家庭によっては相続や生前贈与のことを考える機会も出てくるでしょう。生前贈与を考える時は、相続時精算課税制度と暦年課税制度を比較して、メリットのあるほうの選択をおすすめします。

相続税の計算上加算する生前贈与の期間延長

暦年課税制度を利用して生前贈与を受けると、贈与者が亡くなった時、相続開始前3年以内の生前贈与分は相続財産に加算されることになっていました。この期間が今回の改正で延長となります。

背景

暦年課税制度では年間110万円までは非課税となりますが、国から見れば納税額が減ることになります。そこで一定期間の生前贈与を相続税の課税対象にするため、相続開始前3年以内の生前贈与を加算する規定が導入されています。この時、基礎控除として差し引いた110万円も加算されます。この3年間が今回の改正で延長されることになりました。

施行時期

2024年1月1日以降に発生する贈与財産にかかる相続税から対象になります。

改正内容(概要)

これまで贈与者が亡くなった時、相続財産に加算する期間は3年以内でしたが、今回の改正で7年以内に延長されます。

ただし、相続開始前4年~7年(延長された4年間)に受けた贈与は、100万円を相続財産から差し引いてもよいことになります。

コツコツと生前贈与をしても、贈与者が亡くなる7年前からの贈与分は基礎控除分も加えて相続財産に加算されます。贈与額によっては相続時精算課税制度を利用した方がよい場合もあるため、よく検討してから利用しましょう。

教育資金の一括贈与の非課税措置の見直し

教育費には多額の費用がかかるもの。祖父母から孫、親から子へ教育資金を繋ぎます

祖父母や両親から30歳未満の孫・子(受贈者)などに教育資金を一括贈与した時、受贈者1人あたり1,500万円までは贈与税が非課税になるのが、教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置です。今回の改正でどのように見直されるのでしょうか。

背景

教育費にはかなりのお金が必要で、進学先によっては費用の負担が家計を圧迫するかもしれません。進学にかかるお金に困った時、教育費の一部を祖父母からの援助を受けられたら、親の負担は軽減されるでしょう。こういった背景から創設されたのが、教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置です。この制度を相続税対策として利用する人も少なくないようです。

施行時期

今回の改正で3年延長となり、施行期間は2023年4月1日から2026年3月31日までとなります。

改正内容(概要)

この制度では金融機関と教育資金管理契約を交わしますが、孫・子が30歳に達した時に契約は終了します。その際、残額があれば贈与税が課せられます。

これまで、残額には控除額が大きい特例税率が採用されていました。しかし、今回の改正で残額に課せられるのが一般税率となるため、これまでよりも控除額が少なくなります。

もう1つ改正点があります。これまでは教育資金管理契約を契約中に贈与者が亡くなった時に残額があり、受贈者(孫など)が下記に該当する時は、相続税が課税されませんでした。

  • 受贈者が23歳未満
  • 学校に在学中
  • 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講中

しかし、今回の改正によって、上記3つに該当する場合でも、贈与者の相続財産が5億円を超える時は、残額も相続税の課税対象となります。

今回の改正で、残額が多いとかえって負担が増えることになるので、贈与するタイミングを考えた方がよいかもしれません。また、必要な金額の範囲内でおこなう都度贈与なら非課税のため、贈与方法の検討をおすすめします。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置の見直し

両親や祖父母から、18歳以上50歳未満の子・孫が結婚資金や子育て資金の一括贈与を受けた時、1,000万円までは贈与税が非課税になるのが、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置です。これがどのように見直されるのでしょうか。

背景

結婚して家庭を築くこと、子どもを産んで育てることにはお金がかかるため、将来に対して経済的不安を抱える若者層は、結婚や子育てを躊躇することもあるようです。そこで、結婚や子育てを支援するために非課税措置が設けられています。この制度を節税対策として利用する人も少なくありません。

施行時期

今回の改正で2年延長され、施行期間は2023年4月1日から2025年3月31日までとなります。

改正内容(概要)

この制度では金融機関と結婚・子育て資金管理契約を結びます。そして子・孫が50歳以上になった時点で結婚・子育て資金管理契約が解約となり、残額に贈与税が課せられます。これまで贈与税の税率は控除額が大きい特例税率でした。

しかし今回の改正で残額の税率は控除額が小さい一般税率となります。

この制度の対象となる結婚費用や出産費用、子育て費用などは、必要額だけを払う都度贈与であれば贈与税はかかりません。本当に節税になるのかどうかをよく考えてから利用するのがよいでしょう。

不動産に関する項目は?気になる2項目をピックアップ

2023年度税制改正大綱では不動産に関するものが2点盛り込まれました。具体的な内容をご紹介します。

大規模修繕工事をおこなったマンションに係る固定資産税の減額

マンションの大規模修繕工事のイメージ

築年数が古いなど一定の要件を満たすマンションで長寿化に向けた大規模修繕工事をおこなった場合、工事の翌年に課せられる建物部分の固定資産税が減額される特例措置が創設されます。

対象となるマンションの要件は以下のとおりです。

  • 築後20年以上が経過している10戸以上のマンション
  • 長寿命化工事を過去に1回以上適切に実施
  • 長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保

固定資産税の減額は以下のとおりです。

  • 減額対象:工事翌年度の各区分所有者の固定資産税(100平方メートル相当分まで)
  • 減額割合:1/6~1/2の範囲内(参酌基準は1/3)

施行期間は2年間、2023年4月1日~2025年3月31日となります。

これはマンションの管理組合で検討するものです。もし管理組合の理事などで関わることがあれば、検討事項のひとつとして議題に上げるとよいかもしれません。

空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の延長

親が亡くなり相続した実家が空き家になっている時、相続開始日から3年以内に

  • 空き家を耐震リフォームする(耐震基準を満たしている時は不要)
  • 空き家を取り壊し更地にする

上記2点を条件に家屋と土地を売却すると、譲渡所得から最大3,000万円の特別控除を受けられます。
ただし、実家の家屋・土地の相続人が3人以上の場合は、特別控除額が2,000万円になります。

今回の改正で4年延長となりました。
適用期間は2024年1月1日~2027年12月31日です。

今、空き家問題が深刻化しています。両親が亡くなったあと、実家に誰も住まなくても固定資産税の負担だけは残ります。親の亡きあとの実家をどうするか、できるだけ早めに親や兄弟姉妹と話し合う機会を持つことをおすすめします。

まとめ

今回ご紹介した税制改正大綱の内容は、2023年1月31日現在の情報です。これから税制改正の成立に向けて国会で審議がおこなわれますが、実際の改正内容は4月の施行まではわかりません。ただ大事なのは、私たちの生活に関連する税制改正の内容をきちんと把握しておくことです。実際に税制改正が実施された時に慌てないように、内容を把握するとともに、自分の場合に置き換えて考えてみるとよいでしょう。

前佛 朋子

執筆者

前佛 朋子

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者 家計コンサルティングZEN 代表

元々はライターだったが専門分野を持とうと考え、興味のあった金融知識を活かせるファイナンシャル・プランナーの資格を取得。Webコラムやメルマガなど金融関連記事を執筆するかたわら、安心とゆとりのある暮らしができる人を増やすために、家計見直しやライフプランなど相談業務をおこなう。ライフイベントに合わせて貯蓄や用途を分類するお金の整理を得意とする。保険や金融商品を売らないファイナンシャル・プランナーとして活動中。

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