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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 俺の話を聞いたカズキが腹を抱えて笑った。
「無理だって。スーパーレアなんて、そうそう当たるもんじゃない。確か、二倍でも五%に満たないはずだ」
「そんなに低いのか?」
「そりゃそうだろ。だって、現物が家に届くんだぞ」
 言われてみれば、そうかもしれない。スーパーレアは、どれも百万円近くするものだ。そんなものが、ばんばん当たっていたら会社の負担が大きすぎる。とっくの昔に破綻しているだろう。
「まぁ、課金したい気持ちも分かる。なんて言っても、月々百数万のマンションに引っ越せるんだしなぁ」
「は?」
「あれ? 知らないのか? ランキング一位になったら、豪華マンションに引っ越すことができるんだぞ。しかも、家賃はタダ」
 ランキング? そんなシステムがあったのか。ゲームを起動してランキング画面を探してみる。ホーム画面の右端にランキングと小さく書かれてあった。そこをタップしてランキング画面を表示させる。そこには、プレイヤー名と実際の部屋の写真が張られてある。その横には、数字が記載されていた。
「この数字が高評価された数。部屋の写真を載せることで、高評価をもらえて、その評価が高い人が上位になるってシステム。まぁ、本来は部屋を自慢するために作られたものらしいけど、今じゃあ、課金自慢の温床になってるぞ」
 なるほど。よく写真を見てみれば、上位になるにつれて高級家具を配置している部屋が多い。一位の人のコメントなんて、『ゲームに課金したら、こうなりました』だもんな。
「一位の人なんて、月々数十万円、課金しているって話だ」
「数十万。たったそれだけで豪華マンションか」
 ぽつりと呟いた言葉にカズキが反応する。
「おい。悪いことは言わない。止めといたほうがいいぞ」
 そんなカズキの言葉など、俺には届いていない。数十万か。大学生にしてみれば、確かに手の届かない金額だ。だが、豪華なマンションに高級家具。これだけそろえば、もうダサいなんて言われない。もしかしたら、彼女もよりを戻してくれるかもしれないし。
「おい。ヒロキ」
「家に帰るわ」
 すぐにでも実行しなければ。そう思い、食べかけのランチをテーブルに残したまま、俺はアパートへと走っていく。後ろで俺を呼び止めるカズキの声を聞きながら。

 あれから、二ヶ月。
 今、俺は東京の夜景を見下ろして、赤ワインを飲んでいる。
 無数に蠢く光が地表を覆い、まるで星空が水面に反映しているようだ。それぞれの光が意思を持ち、光度を変化させて移動している様子を眺めることができるのは俺が勝者だからだ。

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