テーマ:一人暮らし

クリエイト・ルーム

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「笹塚さーん。お届けものです」
「ちょっと待ってください」
 いつもの癖で返事をしたが、何か頼んだかなと首を傾ける。記憶の糸を辿るが、最近ネットで注文した覚えがない。まぁ、お袋が何か送ってきたのだろう。
 玄関のドアを開けると、いつもの配達員のお兄さんではなく、小柄でスーツ姿の男性がいた。
「笹塚ヒロキ様ですね」
 営業スマイルが板についているらしい。笑顔のまま話している。
「このたびは、クリエイト・ルームをダウンロードして頂き、ありがとうございます。私、株式会社ヘルプメイカーの田上と申します」
 クリエイトルーム? あぁ、カズキに勧められたゲームか。そういえば、十日くらい前にダウンロードしたっけ。熱心に勧められたから始めてみたが、部屋をアイテムで着飾るだけのゲームに面白みを感じられず、今ではログインボーナスをもらうだけで遊ばなくなったのだが。
「えっと……その会社が俺に何の用ですか?」
「笹塚様は、初心者ガチャにおいてスーパーレアを入手いたしましたよね?」
「ソファだったかな」
「はい。イタリアの高級ブランド、カッシーナのソファでございます。今日は、それをお持ちしました」
 ガチャで獲得した後に表示される家具の詳細画面で、そんな名前を見たことがある。他にも細かいことが書かれていたが、覚えていない。一つだけ、百万近くする金額に驚いた記憶がある。
 お願いします、と田上の一言に、二人の男性が後ろからやってきた。ソファの両端をそれぞれ持ちながら、俺の部屋に入っていく。
「では、我々も中に入りましょう」
 俺の返事も待たずに、田上が入っていく。その後を追うように俺も入る。
「どこにソファを置きましょうか?」
「じゃぁ、そこに」
 田上の質問に、とっさに答えてしまう。ソファに座ってテレビが見えるように配置してもらってから、違和感に気づいた。配置が、ではない。どう考えても、貧乏な大学生の一人暮らしに高級家具が似合わないのだ。この部屋で一番高い家具はテレビだが、それでも、天と地ほどの差がある。このソファ一つで、テレビが十台は買えるだろう。
「では、我々はこれで失礼します」
「ちょっと、待ってくれ」
 帰ろうとしていた足を止めて田上が振り返る。
「どういうことか。説明してくれ」
 俺の意図が読み取れないのか。笑顔のまま首を傾ける田上。
「どうして、高級ソファが俺の家にくるんだ?」
「ゲームで獲得したスーパーレア以上の景品は、実際に家まで届く。ゲーム上に記載されている通りですが、もしかして景品が間違っていましたか?」

クリエイト・ルーム

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