不動産を5年以内に売却すると税金は不利?売るタイミングを判断する際の注意点も解説

結論をいえば、基本的には不利となりますが、例外的に不利にならないケースも存在します。
本記事では、不動産売却における税金の基礎知識から解説し、5年以内に売却しても税金で不利にならないケースを紹介します。また、不動産の売却タイミングを所有期間で判断する際の注意点もあわせて解説。売却をお考えの方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
記事の目次
不動産の売却における税金の基礎知識

「5年以内の売却が不利になる」といわれる理由を理解するためには、不動産売却における税金の基礎知識を理解する必要があるでしょう。なぜなら、5年という数字は税金の規則が根拠になっているからです。そのため、課税所得の求め方や税率の決定方法を解説します。
不動産の売却益は譲渡所得に分類される
不動産を売却して得た利益は、他の所得とは分離して課税される申告分離課税という方式で、所得は譲渡所得に分類されます。譲渡所得は以下の計算式で求められます。
● 譲渡所得 = 不動産の売却益 -(取得費 + 譲渡費用)
取得費は、購入代金など不動産を取得する際にかかった費用が含まれます。また、建物部分に関しては、購入代金から減価償却費相当額を差し引くことを忘れないようにしましょう。譲渡費用は、仲介手数料、測量費用、印紙代など売却に直接かかった費用が含まれます。
譲渡所得税・住民税は所有期間に応じて課税される
計算した譲渡所得に対して、譲渡所得税・住民税が課されます。申告分離課税であるため、給与などの本業の所得と合算せずに、独自の税率で課税されます。
税率は短期譲渡所得と長期譲渡所得の2種類があり、所有期間が5年以内であると短期譲渡所得、5年を超える場合は長期譲渡所得です。不利になるといわれる「5年以内」の基準は、申告分離課税の独自の税率から来ていることがわかります。
不動産を5年以内に売却すると税率は高くなる

短期譲渡所得と、長期譲渡所得の税率を比較しましょう。
短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | |
---|---|---|
所得税率 | 30% | 15% |
住民税率 | 9% | 5% |
復興特別所得税率 | 0.63% | 0.315% |
合計 | 39.63% | 20.315% |
5年以内に売却する場合の税率は、2037年まで適用される復興特別所得税を含めて39.63%ですが、長期譲渡所得の税率は20.315%となり税率の差は19.315%になります。
5年以内に売却する短期譲渡所得のほうが税率は高く、長期譲渡所得と比較して大きな差があります。不動産は所有して5年以上経ってから売却するほうが、低い税率で課税されるため、税制的に有利です。そのため、所有期間を考慮して売却タイミングを検討する場面もあるでしょう。
不動産を5年以内に売却しても税金で不利にならないケース

短期譲渡所得となる5年以内に不動産を売却すると、長期譲渡所得と比較して不利になります。しかし、不動産を5年以内に売却しても税金で不利にならないケースもあります。詳しく見ていきましょう。
譲渡損失が発生している
譲渡所得税・住民税が課税されるケースは、不動産売却で得た譲渡所得がある場合です。しかし、譲渡所得の計算結果がマイナス、またはゼロになった場合はこの限りではありません。譲渡損失が発生している状態では、課税所得が存在しないため、税金は課されないことになっています。
所有期間が5年以内であっても、5年を超えていても税金が課されないことに変わりはないため、不利になるとはいえないでしょう。ただし、不動産が居住用で長期譲渡所得に該当する場合のみ、給与所得などの他の所得と譲渡損失を損益通算できるため、例外的に短期譲渡所得であることが不利になるケースが存在します。
節税制度の利用により課税されない
節税制度を利用した結果、課税所得がなくなり、税金が課されないケースもあります。例えば、居住用財産の3,000万円特別控除は、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける節税制度です。
譲渡所得が3,000万円以下であれば、課税所得がゼロになり税負担が生じません。よって、課税対象が存在しないため、5年以内の売却であっても税金で不利になりません。
相続した不動産を売却する
相続した不動産の所有期間が5年以内であっても、売却時に長期譲渡所得が適用される場合があります。相続により取得した不動産は、被相続人の取得日を基準に所有期間を計算するからです。被相続人が5年を超えて不動産を保有していれば、相続人が売却した場合も長期譲渡所得が適用されます。
さらに、相続税の申告期限から3年以内に売却する場合は、取得費加算の特例の利用が可能。相続税評価額の一部を取得費に加算できるため、譲渡所得から差し引ける金額が増えて、税負担を軽減できます。
基本的に不動産は長期的に保有するほうが、税率は優遇されやすいです。しかし、早く売却することで税金において有利になることもあります。
不動産の売却タイミングを所有期間で判断するポイント

不動産は5年以内に売却すると、例外的に不利にならないケースも存在しますが、基本的には不利となります。しかし、不動産の売却タイミングを、他の要素を考慮せずに所有期間のみで判断することにも注意が必要になります。不動産の売却タイミングを所有期間で判断する際のポイントをまとめました。
税金以外の市場価格の動向を考慮する
不動産市場は、地域の需給バランスや景気動向・金利動向が価格に影響します。例えば、近隣で新規開発やインフラ整備が進む場合、将来的に需要増加が見込めることがあります。反対に、人口減少や商業施設の閉鎖などで需要が低下するリスクも。
不動産の所有期間が5年を超えるまで、売却価格がどのように推移するか予想を立てましょう。思うような価格で売却が難しく、今売却したほうがメリットが大きいことも考えられます。特に不動産の建物部分は、築年数が経過すれば価値が下がるため、早く売るほど売却価格は高くなる傾向にあります。そのため、税制優遇を重視して5年を超えて保有することが必ずしも正しいとは限りません。
土地価格が上昇するエリアなら長期所有が有利になりやすい
不動産の土地部分は建物部分とは異なり、長期的な時間経過によって地価上昇が期待できるエリアもあります。都心の人気エリアや、再開発によって需要が高まるエリアの土地は、将来的に価格が高騰することも。伸びしろのある土地を保有しているなら、5年を超えて所有するほうが値上がり益も期待できるため、売却益でも税金面でも有利になりやすいでしょう。
所有期間は5年超・10年超で税率に影響を及ぼす
不動産の所有期間は5年超・10年超の区切りで税率に影響を及ぼします。10年を超える場合は、居住用の不動産に限れば10年超所有軽減税率の特例を利用できるからです。譲渡所得6,000万円以下の部分について、譲渡所得税率を以下の値に抑えることが可能です。
6,000万円 以下の部分 |
6,000万円 を超える部分 |
|
---|---|---|
所得税率 | 10% | 15% |
住民税率 | 4% | 5% |
復興特別所得税率 | 0.21% | 0.315% |
合計 | 14.21% | 20.315% |
※39.63% - 14.21% = 25.42%
売却した年の1月1日時点が基準になる
譲渡所得の所有期間の判定は、売却した年の1月1日時点を基準にします。つまり、8月1日に売却した場合でも、1月1日に売却したものとして扱われます。そのため、単純に所有期間を計算すると問題が発生することも。
例えば、2020年4月に購入した不動産を2025年6月に売却したと仮定します。所有期間は5年を超えていますが、2025年1月1日に売却したことになるため、税法上では所有期間が5年未満になります。
よって、上記のケースでは5年以内の売却になり、短期譲渡所得の税率が適用されます。所有期間の計算に勘違いがあれば、意図せずに不利な税率で売却する可能性も。長期譲渡所得を適用するなら2025年に売却する場合は、2019年以前に物件を取得していなければなりません。
法人は所有期間が判断材料にならない場合がある
不動産の売却益にかかる税率が所有期間によって変動するケースは、個人の不動産売却に限った話です。法人が不動産を売却する場合は当てはまりません。法人の場合は、不動産売却益は法人税の課税対象となり、譲渡所得税は適用されないからです。
法人税率によっては、短期譲渡所得で不動産を売却した場合よりも税率が安くなることも。不動産を短期的に売買する場合は、個人よりも事業として売買する法人のほうが、所有期間にとらわれずに判断しやすいでしょう。
不動産の所有期間に応じた税金の計算シミュレーション

最後に、不動産の所有期間に応じて具体的な税金を計算します。以下の例を用いてそれぞれの税金を計算していきましょう。
売却価格:3,000万円
取得費:2,000万円
譲渡費用:100万円
5年以内(短期譲渡所得)
まずは、5年以内に売却した場合の税金を計算してみましょう。
譲渡所得 = 3,000万円 -(2,000万円 + 100万円)= 900万円
所得税 = 900万円 × 30% = 270万円
住民税 = 900万円 × 9% = 81万円
復興特別所得税 = 900万円 × 0.63% = 5万6,700円
合計税額 = 900万円 × 39.63% = 356万6,700円
所有期間が5年以内の短期譲渡所得は、高い税率で課税されます。税金を差し引いて手元に残る資金は543万3,300円です。
5年超(長期譲渡所得)
次に、所有期間が5年を超えた場合の税金を計算してみましょう。
譲渡所得 = 3,000万円 -(2,000万円 + 100万円)= 900万円
所得税 = 900万円 × 15% = 135万円
住民税 = 900万円 × 5% = 45万円
復興特別所得税 = 900万円 × 0.315% = 2万8,350円
合計税額 = 900万円 × 20.315% = 182万8,350円
所有期間が5年を超える長期譲渡所得は、短期譲渡所得と比較して、税額に173万8,350円の差がありました。譲渡所得から税金を差し引いても717万1,650円が手元に残る計算です。
10年超(10年超所有軽減税率の特例)
最後に、所有期間が10年を超える場合の税率を計算してみましょう。
譲渡所得 = 3,000万円 -(2,000万円 + 100万円)= 900万円
所得税 = 900万円 × 10% = 90万円
住民税 = 900万円 × 4% = 36万円
復興特別所得税 = 900万円 × 0.21% = 1万8,900円
合計税額 = 900万円 × 14.21% = 127万8,900円
6,000万円以下の譲渡所得であるため、全額を軽減税率で計算できます。税金を差し引いて手元に残る金額は772万1,100円です。
以上の結果から、短期譲渡所得と長期譲渡所得・軽減税率の特例では、税額に大きな差が生まれることがわかります。売却の結果、譲渡所得が発生する可能性が高く、できる限り税率を抑えるなら5年以内の売却は避けたほうがいいでしょう。
まとめ
不動産を取得後5年以内に売却すると、短期譲渡所得として約40%の高い税率が適用されるため、基本的には税負担が重くなることから、不利といえるでしょう。しかし、課税所得がない場合や、相続した不動産である場合はこの限りではありません。
また、所有期間の判定は、売却した年の1月1日が基準になるため、所有期間が5年前後の場合は計算方法に注意が必要です。不動産の適切な売却タイミングを考えるにあたって、節税は重要になりますが、必ずしも税金面だけにとらわれず、総合的に判断しましょう。
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執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
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