不動産売却時の3,000万円特別控除とは?控除を受けるための要件や必要な書類を解説

この記事では、不動産売却時に活用できる3,000万円特別控除について詳しく解説します。控除を受けるための要件やよく寄せられる質問も記載します。記事を読めば3,000万円特別控除を受けられるか把握できるため、ぜひご一読ください。
記事の目次
不動産売却時の3,000万円特別控除とは

3,000万円の特別控除とは、居住用住居を売却する際に受けられる控除のことです。居住用の建物や土地を売ると、売却金を得られます。しかし、売却金は「譲渡所得」といい、所得税と住民税の対象になるため、金額に応じて税金を納めなければなりません。
この税金の支払い負担を抑えるために活用できるのが「控除」です。一定の要件を満たしていれば、譲渡所得に控除が適用されます。
3,000万円の特別控除の有無によって納税額にどれほどの差が生じるのか、例を挙げてみましょう。
算出条件は下記のとおりです。
売却金:1億円
建物と土地の購入費用:5,000万円・譲渡費用100万円
所有期間:15年
特別控除がある場合は1億円-(5,000万円+100万円)-3,000万円=1,900万円が課税譲渡所得金額です。所有期間が15年の場合は長期譲渡所得にあたるため、所得税は15%、住民税は5%をかけます。
続いて、特別控除がない場合は1億円-(5,000万円+100万円)=4,900万円が課税譲渡所得金額です。特別控除がある場合と同様に、所得税15%、住民税5%をかけます。それぞれの納税額は以下のとおりです。
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
特別控除がある場合 | 285万円 | 95万円 |
特別控除がない場合 | 735万円 | 245万円 |
特別控除の有無に応じて大きく差が生じるため、不動産を売却する際は適用要件を満たしているかを確認しましょう。
3,000万円の特別控除を受けるための要件

不動産の売却にあたり、3,000万円の特別控除を受けるには一定要件を満たさなければなりません。要件をまとめたのでご覧ください。
- 居住用の建物、または土地を売却する
- 売却する年の前年、および前々年に3,000万円の特別控除とマイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例の適用を受けていない
- 売却する年の前年、および前々年にマイホーム買換え・交換の特例を受けていない
- 売却する建物と土地がほかの特例を受けていない
- 災害によって建物をなくした場合、住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却する
- 売却する相手が親や子どもなどの特別な関係ではない
現在は住んでいない建物や土地を売る場合は、住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却する必要があります。また、建物をすでに壊しており、土地のみを売る場合は以下の要件に該当するかを確認しましょう。
- 建物を壊してから1年以内に土地の譲渡契約を締結しており、住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却する
- 建物の取り壊しから譲渡契約の締結までの間に、ほかの用途で土地を使っていない
建物を壊してから3年以上放置している土地には、控除が適用されません。期間内であっても、譲渡契約の締結までの間に駐車場として土地を使っていた場合は適用外になります。
売却する相手が親や子どもでなくても、生計をともにする家族・内縁関係ある人・売却後に同居予定の親族などは特別な関係だと判断されます。何らかの関係がある人に売却する予定の方は注意が必要です。
適用要件をすべて満たさなければ、3,000万円の特別控除は適用されません。1つずつチェックしていき、該当するかを確認しましょう。
3,000万円特別控除を適用するには確定申告が必要

適用要件を満たして不動産を売却したからといって、自動的に控除が適用されるわけではありません。必要書類を用意して、確定申告をおこなう必要があるため、忘れずに手続きを済ませましょう。手続きに必要な書類と確定申告書の書き方を解説します。
3,000万円特別控除の必要書類
3,000万円の特別控除を受けるには、必要書類を用意して確定申告をおこなう必要があります。必要な書類と取得場所をまとめました。
書類名 | 取得場所 |
---|---|
確定申告書と譲渡所得の内訳書 | 国税庁のホームページ 確定申告用のソフト |
戸籍の附票 | 自治体 |
売却する建物と土地の全部事項証明書 | 申告する人が所有 |
建物や土地の売却時の書類のコピー | 申告する人が所有 |
建物や土地の取得時の書類のコピー | 申告する人が所有 |
住民票のコピー、 またはマイナンバーカード |
申告する人が用意 |
確定申告書や譲渡所得の内訳書は、国税庁のホームページから作成できます。書類の作成をしたことがない方は、税務署に足を運び相談しながら作成を進めることもおすすめです。今後確定申告の機会が多くなる方は、確定申告用のソフトを購入してもいいでしょう。
戸籍の附票は自治体で受け取ることができます。マイナンバーカードを取得していない方は、戸籍の附票とあわせて住民票をもらっておきましょう。
申告する際にすべての書類が必要になるため、確定申告が始まる前に用意することが大切です。
特別控除の確定申告の書き方
確定申告書は案内にしたがって入力していけば、手間なく作成できます。毎年1月ごろになると、国税庁のホームページ内にある「確定申告書作成コーナー」を利用できます。いくつかの質問事項に回答し、収入や経費などの必要項目を入力していけば書類は完成するため、一度アクセスしてみましょう。
ホームページ内で作成した書類は電子ファイルとして保存され、ダウンロードも可能です。税務署の窓口で提出する予定の方は、ダウンロードファイルを印刷して持っていきましょう。
確定申告書の作成が終わったら、次は譲渡所得の内訳書を作成します。譲渡所得の内訳書も確定申告書作成コーナーで作成できるため、国税庁のサイトからファイルをダウンロードし、印刷しましょう。書類は5枚あるため、手書きだと時間がかかります。余裕をもって作り始めることがおすすめです。
3,000万円特別控除の適用はいつまで?

3,000万円の特別控除は控除額が大きいため、多くの方が利用したいと考えるかと思います。しかし、特別控除は期限が定められているため、売却した時期によっては控除を受けられません。
3,000万円の特別控除の期限は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。この期限を過ぎてしまうと3,000万円の控除を受けることができず、多額の税金が発生することになるため、忘れずに申告することが大切です。
3,000万円特別控除でよく寄せられる質問

3,000万円の特別控除を受けたいけれど、自分でも受けられるのかがわからないとお悩みの方もいるでしょう。不動産の売却状況は人によって異なります。手続きを済ませたあとに控除適用外とわかれば、準備したものがすべて無駄になってしまうため、事前に確認することが大切です。特別控除でよく寄せられる質問を紹介します。
建物を壊してしまったけれど、控除は受けられる?
居住用の建物を壊してしまったとしても、控除は適用されます。建物がない場合は土地の売却に控除が適用されるため、以下の要件を満たしているかを確認しましょう。
- 建物を壊してから1年以内に土地の譲渡契約を締結しており、住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却する
- 建物の取り壊しから譲渡契約の締結までの間に、ほかの用途で土地を使っていない
建物を壊してから1年以内に譲渡契約を締結させる必要があります。1年を過ぎた場合は適用外となるため注意が必要です。また、譲渡契約の締結後は、住まなくなってから3年以内に売却しなければなりません。
建物を壊したあと、ほかの用途で土地を利用していないかも重要なポイントです。土地を第三者に貸し出していたり、月極駐車場として活用していた場合は控除適用外になります。控除を受けることを考えているなら、建物の取り壊し後、速やかに売却しましょう。
住宅ローン控除と3,000万円特別控除の併用は可能?
住宅ローン控除と3,000万円特別控除は併用できないため、メリットが大きいほうを選びましょう。住宅ローン控除は、入居時から最大13年間、所得税の控除を受けられる制度です。適用期間が長いため、長期にわたって恩恵を受けられます。
住宅ローン控除は、住宅ローンを組めば誰でも受けられるものではありません。適用要件を満たさなければ適用外になるため、適用されるかを確認したうえでローンを組むことが大切です。
3,000万円の特別控除は譲渡所得の特別控除に当てはまるため、住宅ローン控除の適用要件から外れます。2つの併用はできないと考えておきましょう。新築の家を建てるだけでなく、既存住宅を購入する・中古住宅を取得する場合も同様です。
住宅ローン控除と3,000万円特別控除のメリットを見てみましょう。
制度 | メリット |
---|---|
住宅ローン 控除 |
・最長13年間控除を受けられる
・性能のいい家を選べば借入限度額がアップする
・2025年まで利用できる
|
3,000万円 特別控除 |
・控除額が大きい
・控除を受けるための手続きがさほど難しくない
・譲渡所得税と住民税が非課税になるケースもある
|
住宅ローン控除は、取得する建物の性能に応じて控除期間が決まります。検討している住宅性能で合計控除額はどれくらいになるかを算出し、3,000万円の控除と比較してみましょう。
相続した建物や土地にも控除は適用される?
相続した建物や土地を売却する際には、被相続人の居住用財産を売った時の特例を利用できます。マイホームを売った時の特例と同じく、3,000万円の控除を受けられます。
両親や祖父母の家を相続する、または遺贈されたが、使い道がなく持て余していると悩む方もいるでしょう。特例を使って売却すれば、納税負担を抑えつつ、売却による利益を得られます。被相続人の居住用財産を売った時の特例の適用要件は以下のとおりです。
- 相続、または遺贈により被相続人が居住していた建物や土地を取得している
- 被相続人の居住用の建物・土地を売却する
- 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却する
- 売却金額が1億円以下である
- 売却する建物や土地が、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用などの特別控除を受けていない
- 同じ被相続人から相続、または遺贈により取得した居住用の建物や土地が被相続人の居住用財産を売った時の特例を受けていない
- 特別な関係の人に売却していない
売却用の建物が一定の耐震基準を満たしているか、建物を取り壊した場合は、売却までに事業用や貸付用として利用していないかも確認されます。適用要件すべてを満たしており、売却までに居住用以外の用途で使用していなければ控除が適用されるため、1つずつチェックしてみましょう。
控除で所得が0円になれば確定申告はしなくてもいい?
売却益が特別控除によって0円になっても、確定申告はしなければなりません。特別控除は、所得に対して自動的に適用されるものではなく、申告が必要です。無申告の状態だと控除が適用されず、譲渡所得に応じた所得税と住民税が発生します。
確定申告をしておけば、譲渡所得に控除を適用して非課税にできます。会社勤めの方は確定申告をする機会がなく、手続きを忘れがちです。売却した翌年の2月16日〜3月15日までに申告を済ませましょう。
駐車場として使っていた土地の売却にも控除は適用される?
建物を取り壊したあとに、駐車場として使っていた土地を売却する場合は控除の適用対象外です。居住用の建物を取り壊してしまっても、居住用の土地を売却できます。売却時には控除を適用できるため、所得税や住民税の負担を抑えられるでしょう。
しかし、売却までの間に居住以外の目的で土地を使った場合は、適用対象外になります。土地を売るつもりなら他の用途に使わず、早めに売却することがおすすめです。
まとめ
居住用の建物や土地を売却する際は、マイホームを売った時の特例として3,000万円の控除を受けられます。いくつかの適用要件が定められているものの、すべて満たしていれば高額の控除を受けて納税負担を抑えられるでしょう。
自身が居住していた建物や土地ではなく、両親や祖父母が居住していた建物や土地を相続した場合も3,000万円特別控除を受けられます。相続や遺贈で建物や土地を受け取ったものの、使い道がなく困っている場合は、売却を検討してはいかがでしょうか。
特別控除の利用で注意したいのが、住宅ローン控除との併用ができない点です。住宅ローン控除は最長13年間控除を受け続けられる大きなメリットを持ちます。どちらが適しているかは人によって異なるため、慎重に検討したうえで利用する控除を決めましょう。
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執筆者
長谷川賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
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