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留置権とは?具体例とポイントをわかりやすく解説

留置権とは?具体例とポイントをわかりやすく解説
「留置権」とはどういった権利でしょうか。例えば、雨の日にコンビニエンスストアから出て、偶然似た傘をさしてきた二人が傘を取り違えたケースを挙げます。相手が傘を返してくれるまで、自分も取り違えた傘を返さないと主張できる権利、これこそが留置権です。

留置権と聞くと複雑に思えるかもしれませんが、公平性の原則に立った当然の権利です。本記事では、留置権の基礎知識をわかりやすく解説します。不動産の留置権の例や留置権の性質、消滅するパターンを具体的に説明します。

留置権とは?

留置権とはどのような権利でしょうか?
留置権とはどのような権利でしょうか?

留置権とは、ものから生じた債権をもつ債権者が、債務者から弁済があるまでは、ものを自分の支配下における(留置できる)権利です。

ものを返して欲しいと望む債務者に対し、債権者は物を留置することで心理的プレッシャーを与え、債務者の弁済の履行を促せる権利が留置権です。

留置権には、「民事留置権」と「商事留置権」の2種類があります。

● 民事留置権
留置権は、民法により定められています。民事留置権は、留置するものと債権に牽連性、つながりがあることが要件の一つとなっています。留置するものは、債務者以外の所有物でも構いません。この点が商事留置権とは異なります。なお、民事留置権は債務者が破産すると消滅します。

参照:e-GOV民法第295条
   e-GOV破産法66条

● 商事留置権
商事留置権は、当事者双方が商人である場合に適用される留置権です。民事留置権と異なり、債務者所有の有価証券またはものに対してのみ認められます。留置されるものと債権の牽連(けんれん)性は不要です。さらに商事留置権は債務者が破産しても、特別の先取特権に形を変え存続する点も民事留置権との違いです。

参照:e-GOV商法第521条 
   e-GOV破産法66条

一般の方がおこなう不動産取引で生じる可能性があるのは、民事留置権です。そのため、本記事では民事留置権を解説します。

担保物権の種類
図:筆者作成


留置権の具体例

留置権の具体例とは?
留置権の具体例とは?

例えば、携帯電話の修理会社であるBが、依頼者Aから携帯電話を預かった場合、携帯電話の修理費を被担保債権として、Aから修理費が支払われるまでは、Aの携帯電話を留置できます。典型的な留置権のケースです。
携帯電話から修理費が債権として生じているため、ものと債権に牽連性があります。

一方、修理会社Bは、携帯電話の代わりとしてAの時計を留置することできません。なぜなら修理費債権は時計から生じたわけではなく、留置権の成立要件であるものと債権の牽連性がないためです。

不動産における留置権

不動産における留置権とは?
不動産における留置権とは?

留置権は動産だけでなく不動産にも生じます。ただし不動産を留置することは可能ですが、留置権の登記はできません。

不動産の留置権の代表的なものは、賃貸不動産に対し支出した必要費返還債権を被担保債権とした留置権です。

賃借人が賃貸している家屋の必要費(修理費・修繕費)を支出した場合、ただちに大家へ費用の償還を請求できます。

償還がされるまでは、留置権を主張して家屋の明渡しを拒絶することが可能です。ただし、このルールは任意規定のため、当事者が合意すれば、必要費償還請求を認めないとする特約も有効です。

留置権の要件

留置権の要件について解説します
留置権の要件について解説します

留置権が成立するためには以下の要件を満たしていることが必要です。

1) ものと債権の牽連性がある
留置するものと債権につながりがあることが、ひとつめの要件です。

【牽連性ありの例】

  • アパートの賃借人が備付けエアコンの修理費を払った場合・・必要費の償還請求権(債権)が弁済されるまで、アパートの部屋を留置(占有)すること
  • 時計の修理費用が支払われるまで、修理人が時計を留置すること

【牽連性なしの例】

  • 時計の修理費用が支払われるまで、相手の持っている指輪を留置すること
  • アパートの部屋の賃借人が、部屋に取付けたエアコンや畳などの造作を大家さんに買い取らせる権利(造作買取請求権)を債権として、部屋を留置すること(部屋と造作物は別物)

2) 他人のものを占有していること
他人のものを占有することが留置権の発生する要件かつ継続要件です。

他人の物の占有を失えば留置権は消滅します。なお、他人のものとは債務者所有のものに限られず、第三者のものでも留置権は発生します。

3) 債権の弁済期が到来していること
債権の弁済期が到来しているからこそ、債権の回収を目的として留置権が成立します。まだ弁済する時期にない債権のために、ものを留置しても留置権は成立しません。

4) 不法行為による占有ではないこと
不法行為による占有の場合には留置権は成立しません。

例えば車泥棒のAが、盗んだ車に入れたガソリン代の費用償還請求権を理由に、留置権を主張できません。公平の原則に基づく制度が留置権のため、当然の要件と考えられます。

留置権の性質

留置権の性質について解説します
留置権の性質について解説します

ここからは留置権の法的な性質を解説します。

付従性(ふじゅうせい)

留置権を含む担保権は原則として付従性があります。付従性とは、債権がなければ留置権(担保権)も存在しない性質です。

留置権は、債権の弁済を促すための権利のため、債権が存在して初めて留置権は成立し、債権が消滅すれば留置権も同時に消滅します。

【具体例】

  • 時計の修理代金(被担保債権)を有している
    →時計に対する留置権(担保権)が成立する
  • 修理代金が支払われ被担保債権が消滅
    →留置権(担保権)も消滅する

随伴性(ずいはんせい)

留置権が生じる発端となった債権を第三者に譲渡した場合、留置権(担保権)も第三者に移転します。ただし、留置しているものの占有も第三者に移転させることが必要です。

【具体例】

  • 時計の修理代金債権を有し、時計を留置しているAが修理代金債権をBに譲渡した場合、同時に時計の占有をBに移転すれば留置権の随伴性として留置権はBに移転する。
  • 一方、代金債権をBに譲渡したものの、時計の占有をBにさせなかった場合、留置権は消滅する。

不可分性(ふかぶんせい)

被担保債権の金額に関わらず、債権の全部の弁済を受けるまでは留置物全部の留置権を行使できます。これを不可分性といいます。

債権の80%の支払いがされても、留置物全部を留め置くことが可能です。

【具体例】

  • 自動車の修理代金が50万円の場合、相手方が半分の25万円を支払っても留置権の不可分性により、車全部を留置できる。

登記できない

冒頭の図で示したように、担保権には抵当権、留置権をはじめさまざまな担保権が存在します。この担保権には登記できる権利とできない権利があり、留置権は登記ができません。

留置権の成立要件は、もの(不動産)を継続した占有であり、この占有継続をもって第三者に留置権を対抗(主張)できますが、留置権の登記はできません。

一方、抵当権や質権は登記することが、第三者に対する対抗要件です。

留置権に関するよくある質問

留置権に関するよくある質問を紹介します。
留置権に関するよくある質問を紹介します。

最後に留置権に関し、理解を深めるための質問に回答します。

留置権の管理義務とは?

ものを留置する人(留置権者)は善良な管理義務者としての注意義務があります。これを「善管注意義務」とよび、社会通念上、当然要求される注意を払う義務を指します。

自己の財産の注意義務よりさらに慎重な注意が必要です。留置権者が善管注意義務に違反すると、債務者は留置権の消滅請求が可能となります。

留置権者が持つ権利とは?

留置権者はものを手元に留め置く権利があるため、債務者に対し間接的に弁済を促すことが可能です。さらに留置物から生じる果実※があれば果実を拾取し、他の債権者に先立ち自分の債権の弁済に充当できます。

※物から利益が出る場合のその利益

例として、病気になったニワトリを動物病院が治療したものの、飼主が治療費を払わないケースを挙げます。

動物病院はニワトリを留置し、その間にニワトリがタマゴを生んだ場合、動物病院がタマゴを取得できます。さらに、それを治療費に充当することが可能です。

また後述する留置物の留置に要した費用にも留置権を行使きます。上記の例で、留置しているニワトリに与えた餌代は飼主に請求ができ、支払われない場合は餌代を被担保債権としてニワトリを留置できます。

参照:e-GOV民法第297条 果実収取権

留置権の法的効力は?

留置権者には抵当権者に認められる優先弁済権はありません。

しかし、競売にかけられている不動産に留置権が成立していた場合、留置(占有)を続ける限り、留置権者は競売不動産の買受人に対しても留置権を対抗できます。

つまり債務の弁済があるまでは、留置権者は引渡しを拒否できることを意味します。以前は、競売不動産の買受人が債務の弁済をするものとされてきました。

しかし2008年、買受人は、被担保債権の支払い義務は負わない判決が横浜地裁でなされました。

ただし、留置権者は不動産の引渡しを拒否できるため、実質的には債務者や買受人が債務の弁済をすることなく、不動産の引渡しを受けることは難しいでしょう。

このように留置権は登記ができず、優先弁済権がなくても、弁済を促す強力な法的効力があります。

留置の際に留置物に要した費用は?

すでに留置したもののために必要費用を支出した場合、その必要費の償還請求権のためにも留置権を行使できます(最判昭33.1.17)。

結論として留置物のために要した必要費は所有者に求め、支払いがあるまではものを留置できるとされています。

留置権を消滅させるには?

留置権は、下記のいずれかで消滅します。

● 債務の弁済
債務が弁済されれば、目的を達成し留置権は消滅します。債権がなければ留置権も成立しません。これを留置権の付従性と呼びます。

● 債権の消滅時効
留置権の成立要件である債権が消滅時効により消滅することになった場合、留置権の性質である付従性により留置権は消滅します。

なお、留置権を行使し単にものを留置するだけでは、債権の消滅時効の進行が止まるわけではない(民法第300条)ことに注意が必要です。

目的物の引渡請求訴訟で、債権者が留置権の抗弁を提出しものの引渡しを拒絶した場合には、訴訟継続中は債権の消滅時効は中断するものとし、訴訟終結後6カ月以内に他の強力な中断事由に訴えることで、債権の時効中断の効力は維持される判例が存在します。

● 代担保の提供
留置されているものにと同等の価値を持つほかの物の提供を受けることで留置権は消滅します。

これは、留置権が成立要件を満たせば法律上当然に生じる権利であることや、留置権の不可分により、被担保債権額と留置物が釣り合わないことがあるためです。

そのような事態を想定し、代担保を提供することにより留置権の消滅請求が可能な制度となっています。

参照:e-GOV民法第301条

● 占有の喪失
留置物の占有を失うと留置権は消滅します。ただし、債務者の承諾を得て留置物を賃貸した場合や質権の目的とした場合、留置権は消滅しません。

● 留置物の保管義務違反
先に述べたとおり留置権者には善管注意義務があります。債務者の承諾なしに留置物を使用(保存に必要な使用を除く)、賃貸、担保に供することはできません。これに違反した場合、債務者は留置権の消滅請求が可能です。

留置権に関するおさらい

留置権とはどういう意味?

留置の意味は留め置くことです。債権者がものを留置することで、ものを返して欲しいと望む債務者に対し心理的プレッシャーをかけ弁済を促せる権利です。

留置権の要件は?

留置権の成立要件は次のとおりです。

  1. ものと債権の牽連性
  2. 他人のものの占有
  3. 債権が弁済期にあること
  4. 不法行為による占有ではないこと

留置権の性質は?

留置権には他の担保権と同様に、付従性、随伴性、不可分性がある一方、抵当権のような登記はできません。

留置権は「お金を払うまではものを人質にとりますよ、だからちゃんと払ってね」と弁済を促せる法定担保物権です。特に合意がなくとも成立します。日常生活で留置権が生じるケースもめずらしくありません。

自分が留置権者の立場の際は、相手方に悪いと思い留置物を先に返してしまえば、留置権は消滅するため注意が必要です。本記事で留置権を正しく知り、無用なトラブルを回避しましょう。

大﨑麻美

執筆者

大﨑麻美

元司法書士 FP技能士2級 宅地建物取引主任者 シニアライフマネージャー

日系エアラインのCAを経て30代で司法書士資格を取得。2012年あさみ司法書士事務所を設立。実需・収益不動産・商業に関する登記実務、終活のサポート業務を行う。2022年末より海外に移住。海外移住後は法律・不動産専門のライターとして活動。

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