このページの一番上へ

占有とは?所有との違い、自主占有と他主占有について詳しく解説

占有とは?所有との違い、自主占有と他主占有について詳しく解説
普段何気なく使っている「所有」や「所持」と、「占有」の違いをご存知でしょうか。日常的に使う際、明確に使い分けている人は少ないかもしれません。しかし、法的には明らかな違いがあります。
本記事では、占有の意味、理解が難しい占有と専有の違いや、所有・所持の違い。自主占有と他主占有の違いなどを詳細にまとめました。理解を深めるために、不動産の時効取得について例を挙げながら説明します。

占有(せんゆう)とは?

占有とはどのような意味でしょうか。この章で詳しく解説いたします
占有とはどのような意味でしょうか。この章で詳しく解説いたします
占有とは、自己のためにする意思を持ってものを所持(支配)する状態を指す言葉です。

(参照:民法180条│e-Gov法令検索

よりシンプルに説明すると、特定のものを事実上コントロールしうる状態のことです。ものをコントロールしうるか否かが重要で、たとえ所有権を持たずとも占有はできます。

また、「自己のためにする意思」とは、そのものを所持することで利益や影響を受ける立場にあることを指します。自分のためだけでなく、他人のために占有しても構いません。非常に広く捉えられている概念です。

例えば、友人B君から自転車を借りたA君は、自分のために自転車を借り、自転車を事実上コントロールしているため、占有している状態です。

占有は「所有の意思の有無」により以下のように分類されます。

所有の意思の有無で区別
自主占有 所有の意思を持って占有(自分のものにしようとする意思をもって占有)
他主占有 所有の意思を持たずに占有(借りる、預かるなど、自分のものにする意思がない占有)

先ほどの自転車を借りたA君は、自転車を「借りる」意思で支配しているため、自分のものにしようと占有しているわけではありません、つまり他主占有をしている状態です。

アパートなどの賃借人も、借りる意思で占有するため他主占有をしています。自主占有か、他主占有かの違いにより、時効取得が成立するか否かも決まります。

誰が占有しているかによる以下の区別もあります。

誰が占有しているかによる区別
自己占有 ものを自分で直接占有(マンションを購入し自分で住む場合)
代理占有 他人の占有を通して占有(購入したマンションを賃借人に貸している場合)

先の自転車を借りたA君は、自転車を借り、事実上支配しているため自己占有しています。

一方、自転車の所有者であるB君は、借主のA君を通して自転車を支配する地位にたつため、A君を通して占有をしている立場です。B君は借主A君を通じて代理占有をしています。

占有と専有の違いは?

占有と専有はどちらも「せんゆう」と読みますが、どのような違いがあるのでしょうか。占有は、他人のものであっても、自己のためにする意思を持って現実的に支配している状態です。

一方で、専有とは、マンションの区分所有法に使われる概念です。分譲マンションでは、各部屋が区分され、所有権の対象となっています。例えば101号室、102号室などの各部屋が、それぞれ個別の所有権の対象です。

専有の「専」には、ひとりじめする意味があることから、各部屋をひとり(または共有者と複数人で)で所有する意味として使われます。所有とは所有権を有する意味です。あわせて考えれば専有の意味は、自由に使用・収益・処分できる部屋を所有することです。

例えば、マンションの住居部分(天井・床・壁などで囲まれた内部空間)は専有部分と呼ばれ、自己の専有部分は自由に使用・収益・処分ができます。一方で、マンション管理人室や廊下、エレベーター、玄関ホールなどは通常、各専有部分の所有者が共有しており、皆で使う部分であることから廊下部分やエレベーターなどは「共用部分」と呼びます。

占有権とは?

占有権とは現にものを支配している状態を保護するための権利です。ものの所有権を有していなくても、ものから生じる利益を、自分のためにする意思をもって事実上支配していれば占有権を取得します。

ただし事実上の「状態」を保護する権利であるため、物権ではあるものの所有権のように登記されることはありません。

占有権の具体例として、賃貸物件の賃借人が挙げられます。賃借人は部屋の所有者ではありません。しかし実際に部屋に住み支配状態にあるため、占有権を取得します。

また、長年にわたり他人の不動産の占有を続けると、所有権を取得できる場合があり、これを「時効取得」と呼びます。所有権の時効取得には次の要件が必要です。

  • ① 平穏かつ公然と占有していること
  • ② 対象となる不動産を10年または20年間占有し続けること
  • ③ 所有する意思をもって占有していること(自主占有)

(参照:民法第162条│e-Gov法令検索

占有期間の要件は10年または20年の2パターンがあります。この違いは占有開始時に、自分に所有権があると信じ、そのように信じることに過失がない場合(善意無過失)は10年間、それ以外の場合は20年間と規定されるためです。

まれに「アパートの賃借人が20年間部屋を借りれば、時効取得できるのでは」と疑問にもたれる方もいますが、アパートの賃貸人はアパートの部屋を「借りる意思で占有している(他主占有)」ため、③の所有する意思を持った自主占有とみなされません。

たとえ20年部屋に住み続けても時効取得は成立しません。「相続した遠方の実家に、他人が住み付き20年以上が経過した」ような場合には、時効取得が成立する可能性もあります。ただし強盗が他人のものを奪い「自分のものにする」として20年占有しても時効取得は成立しません。なぜなら、①の平穏かつ公然と占有していることの要件を満たしていないためです。



占有・所有・所持はどう違う?

占有と似た言葉、「所有」と「所持」についてもしっかり理解しておきましょう
占有と似た言葉、「所有」と「所持」についてもしっかり理解しておきましょう

「占有」とよく似た言葉で「所有」「所持」があります。それぞれの違いを確認しましょう。

占有とは、自分が利益を受ける意思をもって、ものを所持(支配)する状態とお伝えしました。そして、この支配状態を保護するのが占有権です。

「所持」とは、ものを事実上支配していると認められる状態です。特に利益を受ける意思を持たずとも事実上、ものを支配していれば所持になります。占有するための要件もあります。所持は物権でもなければ、賃借権のような債権でもない事実状態です。

「所有」とは特定の財産の所有権を有することであり、所有権は法令の範囲内で「そのものを自由に使用・収益・処分できる強力な権利」です。

(参照:民法206条│e-Gov法令検索

占有権は、現にものを支配している状態自体を保護する権利であるのに対し、所有権はものに対する絶対的な権利になります。

ものの支配の観点からみると、人がものを事実上支配している状態を指す「所持」がもっとも広い意味で用いられます。所持のなかでも「自己のためにする意思をもってする所持」が占有です。

所持をしていても、占有をしていても、その支配するものを自由に使用・収益・処分する権利を持つとは限らないため、所有はもっとも狭い範囲で用いられます。具体例をみてみましょう。

【例】 泥棒がAさんのダイヤのネックレスを盗んだ場合
泥棒は盗んだダイヤを事実上支配しているため、「所持」している状態です。同時に、自分の利益のために所持しているので「占有」しています。しかし、そのダイヤはAさんが所有するため、泥棒はダイヤを「所持」し「占有」しているものの「所有」はしていません。



自主占有・他主占有とは?

自主占有、他主占有とはどう違うのでしょうか?
自主占有、他主占有とはどう違うのでしょうか?

占有とは「自己のためにする意思をもって所持すること」でしたが、その所持が所有の意思までともなう場合と、そうでない場合があることは先に解説した時効取得に関連します。それぞれ詳しく解説しましょう。

自主占有とは

自主占有とはどのようなものでしょうか
自主占有とはどのようなものでしょうか

自己のために所有する意思をもって所持するのが自主占有です。自分が「主(ぬし)」であることを意味する占有です。所有の意思をもって占有した場合、それが長期におよべば時効取得が成立する可能性もあります。

自主占有の例

自ら購入したマンションに住むことは自主占有です。売買契約が無効であった場合でも、自主占有は認められます。また、窃盗が盗品を所持する場合も自己の所有にしようと所持するのであれば自主占有とされます。

さらに、はじめは他主占有でも、途中で自主占有に変わることがあるかもしません。例えば借地に家を建て住んでいたAさんが亡くなり、相続人のBさんが、実家の土地を借地だと知らず、実家に住み続けていたようなパターンです。

Aさんは「借りる意思」で土地を借り、家を建てたので他主占有です。しかし、Bさんは「所有する意思」をもって土地を占有しています。このような場合、相続した時点で他主占有から自主占有に変わる可能性があります。

他主占有とは

他主占有とはどのようなものでしょうか
他主占有とはどのようなものでしょうか

所有の意思をともなわない占有が他主占有です。所有の意思を伴わないため、時効取得が成立することもありません。ものを預かる、借りることが他主占有の典型例です。

他主占有の例 

賃貸借契約に基づいて他人のアパートを借りて住むことは他主占有です。賃借人は他人から部屋を借りる意思で占有をするため、20年住み続けても時効取得は成立しません。

占有に関するおさらい

占有とはどういう意味?

占有とは、自己のために意思をもってものを所持(支配)することを指します。利益を得る意思により、ものをコントロール下におけば占有です。

ものを現実的に支配する状態を保護するために、占有する者は法的根拠がなくとも占有権を有することになります。

占有と所有と所持はどう違う?

所持とはものを現実的に支配する状態を指します。そこに「自己のためにする意思」がともなえば占有です。ただし「自己のためにする意思」は非常に広く適用されます。ものを現実的に支配する占有者は、占有権を取得します。所有とは、特定のものの所有権を持つことです。所有権とは、ものを法令内の範囲で自由に「使用・収益・処分」する権利で物権のなかでも強力な権利です。

自主占有・他主占有とは?

自主占有とは「自己の所有にする意思」をもつ占有です。購入したマイホームに住むことはもちろん自主占有です。しかし、長い間訪れていなかった別荘に、見知らぬ第三者が侵入し占有した場合はどうなるでしょうか。占有した第三者も「自分のものにしよう」と思って占有していれば、自主占有に該当します。時効取得が成立する可能性もあります。

一方の他主占有は「所有の意思」を伴わない占有です。例えば、賃貸アパートの賃貸借契約を結び居住するケースが挙げられます。賃貸アパートを「自分のものにしよう」として借りることはありません。他主占有は、何年占有しようとも時効取得は成立しません。

似たように思われている言葉も、法的にみると意味が明確に異なることがわかります。窃盗犯であっても、盗んだものに占有権があるのは少し不思議な感じがするのではないでしょうか。

窃盗されたものであっても、占有権がある以上、盗まれた側は自分の実力を持ってものを取り返す(自力救済)ことが禁じられています。つまり、権利を侵害された人(所有者など)は国家機関、司法手続きをもってものを取り返す必要があります。

このように、占有権を与えてまで事実上の支配を保護するのは、自力救済を禁止し、世の中の社会秩序が乱れぬようにしていると考えられます。

大﨑麻美

執筆者

大﨑麻美

司法書士 宅地建物取引士 FP技能士(2級)

日系エアラインのCAを経て33歳で司法書士資格を取得。2012年あさみ司法書士事務所を設立。不動産登記、商業登記、終活のサポート業務を行う。
2022年末より海外に移住。海外移住後は法律・不動産専門のライターとして活動。

関連する記事を見る
不動産お役立ち記事・ツールTOPへ戻る