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「善管注意義務」って?違反するとどうなる?知っておきたい賃貸における事例を解説

善管注意義務とは

善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)とは、「取引をするときに一般的・客観的に求められる程度の注意をしなければならない」という注意義務のことをいいます。正確には「善良なる管理者の注意義務」を指し、民法第400条の条文に由来する言葉です。

なかなか耳慣れない言葉かもしれませんが、この記事では、善管注意義務について詳細を分かりやすくご紹介していきます。

どのような時に、誰に義務が発生する?

善管注意義務は民法第400条において、特定物(建物や美術品、中古車など、そのものの個性に注目して取引されるもの)の引渡し前に要求されると規定されています。善管注意義務を負う者は、特定物の引き渡しが完了するまで「善良なる管理者の注意義務」をもって保存しなければならないと定めています。
例えば、中古車の売買契約が成立した場合に、契約成立後から買主に車を引渡すまでの期間において、車の売主は一般的・客観的に求められる程度の注意義務をもって車を保管しておかなければならない、ということになります。

もしも特定物が引き渡しまでに破損等してしまった場合、善管注意義務においては「善良な管理者として注意義務を果たしていたか否か」が問題になります。管理者が適切な方法で保管し、注意義務を果たしていたのであれば、過失は発生しません。

ちなみに、会社と取締役の間にある委任関係においても、善管注意義務が発生します。取締役は会社から経営を任される立場として、従業員をはじめ株主など利害関係者のために、善良な管理者の注意をもって業務を遂行しなくてはなりません。

違反するとどうなる?

管理者が引き渡しまでに善管注意義務を怠り、特定物を破損等してしまった場合は、損害賠償責任を負う可能性があります。
また、会社の経営に関しては、取締役が善管注意義務を怠ったことで会社に損害を与えた場合、会社や株主に対して損害賠償責任を負うことになります。

善管注意義務より軽い注意義務もある

民法においては、善管注意義務より軽い注意義務とされるケースもあります。たとえば、報酬を受け取らずに物の管理を引き受けた場合は、「自己の財産におけるのと同一の注意をなす義務」という善管注意義務よりも軽い注意義務を負います。この場合、管理者に重大な過失がある時に限って損害賠償責任が発生し、軽い不注意であれば損害賠償責任を負いません。

賃貸借契約時にも「善管注意義務」を確認しよう

お部屋を借りる場合にも、善管注意義務は発生します。賃貸借契約では、引き渡しの義務を負う者は借主(部屋を借りている人)のことをさします。賃貸借契約書にも出てくる用語ですので、チェックしておきましょう。

善管注意義務の範囲はどこまで?

借りている室内の床・壁・天井・窓ガラス・風呂・トイレ・キッチン・玄関・廊下など、部屋の専有部はすべて、善管注意義務の範囲となります。
また、アパート・マンションなど集合住宅の場合は、バルコニーや駐車場など専有使用権のある共用部、一戸建ての場合は専用庭などの共用部も善管注意義務の対象となります。そのため適切に使用・清掃し、破損や不具合に気付いたらすぐに貸主や管理会社などへ連絡することが必要です。

善管注意義務はいつまで守ればいいの?

賃貸物件における善管注意義務は、基本的に契約から解約・引き渡しまでの間遵守する必要があります。具体的には、賃貸借契約書に記載された契約日から善管注意義務が発生し、退去通知を出して引き渡しをおこない、鍵を返却した時点で終了となります。
退去通知を出したあとはつい気が緩みがちですが、引き渡しまで善管注意義務があるため、引越し時の荷物の搬出入などで部屋を破損しないよう注意しましょう。

あわせて確認!「原状回復義務」と「用法遵守義務」

善管注意義務に似たような言葉として、原状回復義務と用法遵守義務があります。それぞれの用語について詳しく説明します。

原状回復義務とは

原状回復義務とは、借主が退去する際に入居時と同じ状態に戻したうえで貸主に返す義務です。どこまで借主負担で原状回復しなければならないかは、契約書に書かれている内容によって変化します。住居の場合、通常の使用によって生じた損耗や、経年劣化による汚れなどは貸主の負担で修繕する必要があるため、借主が原状回復する必要はありません。
より具体的なケースは以下の記事をご参照ください。

用法遵守義務とは

用法順守義務とは、賃貸借契約等で定められた用法にしたがって、建物を利用しなくてはならない義務を指します。具体的には、契約時にペットの飼育や増改築を禁じられていた場合、それを守らなくてはなりません。また、住宅として借りているのに店舗として使用するなど、別の目的で利用した場合は用法遵守義務違反となり、賃貸借契約解除の対象となる場合があります。

賃貸で善管注意義務に違反するとどうなる?違反しないためには?

借主が「善良なる管理者の注意義務」を怠り、管理が十分でなく室内の損耗が拡大した場合、修理費用などの損害賠償請求を受ける場合があります。賃貸借契約における善管注意義務違反の多くは、退去時に発覚します。賃貸物件を解約するとき、引渡し日に貸主または管理会社立ち会いのもと、室内の状況を確認します。その際、入居時に作成したチェックシートや写真と見比べながら現在の状態と貸した当時の状態を比較していきます。傷や汚れがあった場合、経年劣化なのか過失によってつけられた傷なのか、さらに想定される域を超えてカビやシミが広がっていないかを注意して確認します。そこで善管注意義務違反と判断されると、借主に対して修繕費の請求などが発生します。

違反しないためには、壁や床を傷めるような使い方をしない、窓に結露防止のフィルムを貼る、水漏れやエアコンの故障はすぐに貸主か管理会社に報告することなどが大切です。損耗が生じても即時に連絡すれば、善管注意義務違反と見なされにくくなります。また、賃貸借契約書・重要事項説明書にきちんと目を通して、責任の範囲を確認しておくことも重要です。

もし違反してしまったら

善管注意義務違反と見なされた場合、原状回復費用として請求される場合と、損害賠償請求される場合の二通りのパターンがあります。たばこのヤニ汚れなど自室内のみの被害であれば、敷金から差し引かれるかクリーニング代の請求などで済みます。しかし洗濯機やトイレからの水漏れなどで階下の部屋に大きな被害を与えてしまった場合、貸主から損害賠償請求されるケースがあります。

原状回復の対象となる具体例

原状回復費用が発生する原因の1つが「結露」です。冬の寒い時期にエアコンなどを利用すると、室内と外気の気温差で結露が発生します。もしも建物の構造上発生した結露でカビが生えてしまった場合、借主の責任にならず、原状回復の対象とはなりません。
しかし、結露やカビの発生を知りつつも放置し、窓枠のシミやカビ、木材の腐食の原因となった場合、善管注意義務違反と見なされます。また、引越し時に生じた壁へのひっかき傷やたばこのヤニ汚れなどは、原状回復費用として敷金から差し引かれる場合があります。

損害賠償の対象となる具体例

風呂の水を出しっぱなしにしたり、洗濯機の排水ホースが外れていたことに気付かず放水し続けたりすると、水漏れによって階下に大きな被害が出てしまうことがあります。水漏れしたにも関わらず貸主に通知しなかった場合、損害賠償請求されることがあります。また、借主が自殺した場合や殺人事件を起こした場合なども、損害賠償の対象となります。

善管注意義務違反にならないために

善管注意義務違反とならないためのポイントをご紹介します。

入居前に部屋をチェックしておく

壁や床の傷について入居中に付いたのか、元々付いていたかを判断できるようにしておくことが大切です。入居する前に不動産会社や管理会社とともにチェックし、傷や汚れを写真に残しておくとよいでしょう。

部屋を大切に扱う

部屋を借りて住みはじめると、自分の所有物のように感じてしまい、つい使い方が荒くなってしまうこともあるでしょう。賃貸物件は借り物であることをきちんと理解し、他人のものである以上大切に扱う必要があります。意識して大切に使うことによって、普段の生活においてもまめに掃除したり片付けたりして、気持ちよく過ごせるかもしれません。

汚れや不具合を放置しない

汚れや不具合を発見した場合、自ら傷つけた場合はもちろんのこと、自分のせいかどうかわからなくてもすぐに貸主や管理会社に通知することが大切です。自分の責任ではない汚れ等であっても、放置したことによって広がったシミやカビは、善管注意義務に違反したと見なされます。
トラブルが起きたときの具体的な対処法は、以下の記事をご参照ください。

まとめ

部屋を借りたとき、借主には善管注意義務が発生します。借りた部屋に対して管理者としての注意を怠ると、原状回復費用や損害賠償請求が発生する可能性があります。賃貸借契約書をよく読んで適切な方法で部屋を利用し、傷や汚れ・不具合などが生じた場合は速やかに貸主や管理会社に連絡しなくてはいけません。賃貸物件は借り物であり自分のもの以上に大切に扱うという意識のもと、利用することが大切です。

また、原状回復費用を決めるにあたって、入居時と退去時の立会いによる確認は非常に重要です。管理会社に任せきりにせず自分でも良く確認し、請求が不当でないか必ず確認しましょう。疑問点があれば必ず質問し、納得したうえで退去できるようにしましょう。

尾嵜 豪

執筆者

尾嵜 豪

株式会社ウィンドゲート 代表取締役

2008年10月に渋谷で株式会社ウィンドゲートを起業し、宅建業者として不動産の売買、賃貸、仲介、管理に携わる。前職より建物の設計~建設~管理に至るまでのプロセスを含め、さまざまな不動産にまつわる業務をこなし豊富な実務経験を持つ。不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、ビル経営管理士、2級FP技能士として、多数のコラムに執筆、セミナーなども開催。特に不動産相続のプロとしての評価が高く、多くの相談を受け問題を解決している。

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