住宅ローン返済期間中に旦那が働けなくなったら残債はどうなる?対処法を徹底解説

そこで本記事では、夫が働けなくなった場合の住宅ローンの残債処理で、高度障害や病気・ケガ、さらには失業に至るまで、さまざまなケースに応じた対処法を解説します。また、労災保険や傷病手当金、障害年金などの公的なサポート制度や、民間保険の活用も取り上げています。本記事を読めば、突然の困難な状況でも冷静に対処するための知識を得られるでしょう。
記事の目次
住宅ローン返済中に旦那が働けなくなったら残債はどうなる?

不慮の事故、重い病気など、働けなくなってしまう原因はさまざまです。ではその時、住宅ローンの残債はどうなるのでしょうか。実は、住宅ローンの残債がなくなるかは、働けなくなった原因や契約者の状態により異なります。そこで本章では、働けなくなる原因別に、住宅ローンの残債がどうなるかを解説します。なお、本章で解説するものは一般的な団体信用生命保険(以降、団信)の内容なので、実際の取り扱いは、加入した団信の内容をよくご確認ください。
高度障害で働けなくなった場合
高度障害とは、身体機能や精神機能が大幅に制限され、日常生活や社会生活に著しい影響を与える状態をいいます。高度障害が原因で働けない場合は、団信により、債務弁済されるでしょう。例えば、住宅金融支援機構の団信を例にすると、高度障害の定義は以下です。
1 | 両眼の視力をまったく永久に失ったもの |
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2 | 言語またはそしゃくの機能をまったく永久に失ったもの(※1) |
3 | 中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの(※2) |
4 | 胸腹部臓器に著しい傷害を残し、終身常に介護を要するもの(※2) |
5 | 両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用をまったく永久に失ったもの |
6 | 両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用をまったく永久に失ったもの |
7 | 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用をまったく永久に失ったもの |
8 | 1上肢の用をまったく永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの |
(※1)「そしゃくの機能をまったく永久に失ったもの」とは、流動食以外のものは摂取できない状態で、その回復の見込みのない場合をいいます。
(※2)「常に介護を要するもの」とは、食物の摂取、排便・排尿・その後始末、および衣服着脱・起居・歩行・入浴のいずれもが自分ではできず、常に他人の介護を要する状態をいいます。
引用:住宅金融支援機構 債務弁済される場合、債務弁済されない場合<保障開始日以後の傷害または疾病により、次の1から8までのいずれかの高度障害状態になられたとき>
高度障害による債務弁済は、団信の基本保障になります。ただし、故意で高度障害になった場合や、戦争・その他の変乱で高度障害になった場合などでは、住宅ローンの返済は免除されません。団信を提供する保険会社によって、支払事由が異なる場合もあるため、最終的な高度障害の支払事由は、加入中の団信を確認するようにしましょう。
病気やケガで働けなくなった場合
病気やケガで働けなくなった場合では、その原因や状況により住宅ローンの返済が免除される可能性があります。病気やケガを保障する以下のような団信に加入して、支払事由に該当する場合は、住宅ローンの返済がなくなりますが、当てはまらない場合には保障されません。病気やケガによる就労不能を保障する団信は、以下の内容です。
債務弁済される3大疾病(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)の内容
- 保険期間中に、所定の悪性新生物(がん)に罹患したと医師によって診断確定された時。(上皮内がんや皮膚の悪性黒色腫以外の皮膚がんは含まない)
- 急性心筋梗塞を発病し、その急性心筋梗塞により初めて医師の診療を受けた日からその日を含めて60日以上、労働の制限が継続したと医師によって診断された時
- 急性心筋梗塞を発病し、その急性心筋梗塞の治療を直接の目的として、病院または診療所(※1)で手術(※2)を受けたとき(平成27年10月1日以後の手術が対象)
- 脳卒中を発病し、その脳卒中により初めて医師の診療を受けた日からその日を含めて60日以上、言語障害、運動失調、麻痺などの他覚的な神経学的後遺症が継続したと医師によって診断された時
- 脳卒中を発病し、その脳卒中の治療を直接の目的として、病院または診療所(※1)で手術(※2)を受けた時(平成27年10月1日以後の手術が対象)
(※1)病院または診療所とは、次の各号のいずれかに該当したものとします。
【1】医療法に定める日本国内にある病院または患者を入院させるための施設を有する診療所
なお、介護保険法に定める介護老人保健施設および介護老人福祉施設ならびに老人福祉法に定める老人福祉施設および有料老人ホームは含まれません。
【2】前号の場合と同等の日本国外にある医療施設
(※2)急性心筋梗塞および脳卒中について対象となる「手術」とは、治療を直接の目的として、器具を使い、生体に切断、摘除などの操作を加えるものであり、かつ、次の【1】から【4】までに該当するものを指します。吸引、穿刺などの処置および神経ブロックは除きます。
【1】開頭術 【2】開胸術 【3】ファイバースコープ手術 【4】血管・バスケットカテーテル手術
出典:住宅金融支援機構公式 債務弁済される場合、債務弁済されない場合 「【3大疾病付機構団信】にご加入の場合」(一部抜粋)
特定疾病や重度慢性疾患、もしくはそれら以外の障害や疾病で就業不能になった場合に債務弁済される団信の内容
上皮内がん、大腸の粘膜内がんなどは悪性新生物に含まない
まとめると、病気やケガで働けなくなった場合、それを保障する団信に加入していて保障を受けられる条件に該当していた場合、住宅ローンの返済がなくなるとわかります。しかし、保障を受けられる条件に該当していなかったり、団信に該当する保障がない場合は、住宅ローンの返済は免除されず、働けなくなっても返済はしなければなりません。
もし、働けなくなっても団信などの保障がない場合には、その可能性が生じた時点ですぐ金融機関に相談しましょう。すると、返済期間を延長して毎月の負担を減額したり、返済計画を変更してサポートしてもらえる可能性があります。いずれにしても、早めの相談が肝心です。
転職や失業で収入がなくなった場合
自己都合による転職で一時的に収入がなくなった場合の救済措置はありません。会社都合による失業でも同様です。いずれにせよ、収入がなくても、身体に問題がなく、働ける状態で収入だけがない状態なら、住宅ローンの返済は変わらず残ります。
もしこのような状態になったら、債務者はまず失業手当を申請するなどの対策を取りましょう。しかし、失業手当は一定期間のみの支給なので、早めに新たな職を探し、収入を回復させなければなりません。弁済措置はないにせよ、早めに金融機関に相談をして、返済計画を見直したり、猶予期間を検討するようにしましょう。
旦那が働けなくなった時に活用できる制度とは?

万が一働けなくなった場合に備えて、公的な支援制度がいくつか用意されています。また、公的支援に加え、民間の保険会社が提供する商品も有用です。本章ではこれらの制度を詳しく見ていきましょう。
労災保険
労災(労働災害)とは、業務中または通勤中に発生した事故や疾病で、労働者が負傷、死亡、または病気になった場合に適用される制度です。労災保険は、労働者が受ける経済的な損失を軽減するためのもので、医療費の支給や休業中の所得補償、障害が残った場合の年金など、さまざまな支援を受けることができます。
この制度を利用することで、働けなくなった場合の住宅ローンの負担や家計の支出を支える手段の一つとなるでしょう。労災保険を受けるためには、雇用契約を結んでいる企業に勤務していることが前提で、自営業者やフリーランスは対象外です。ただし、特定受託事業に従事するフリーランスは2024年11月から労災保険に特別加入が可能に。労災が発生した場合、まずは病院での診察を受け、必要な治療を受けましょう。診断書や治療内容の記録は、のちの手続きで必要になります。
労災保険を申請するには、まず勤務先の事業主に労災が発生したことを報告します。事業主は、労災の発生を労働基準監督署に届け出なければなりません。届け出の際には、事故の状況や発生日時、治療内容などを詳しく説明する必要があります。この時、事業主が適切に手続きをおこなわない場合もあるため、必ず確認しましょう。その後、労働基準監督署に提出される書類には、事故の内容を示す「労働者災害補償保険請求書」や、診断書の添付が必要です。申請書類を提出する際には、事故の詳細や治療内容が正確に記載されているかを確認し、不備がないように注意しましょう。提出後、労働基準監督署で審査がおこなわれ、認定が下りると、労災保険からの給付が開始されます。注意すべきなのは、労災の申請に期限がある点です。手続きは、事故発生からできるだけ間をあけず迅速におこないましょう。
傷病手当金
傷病手当金とは、病気やケガによって働けなくなった場合に、生活費を支えるために支給される公的な給付制度です。主に、健康保険に加入している方が対象で、病気やケガのために仕事を休む必要がある場合に、一定の条件を満たせば受け取ることができます。傷病手当金は、給与の約60%が支給されるため、収入が減少した際の大きな助けとなるでしょう。
傷病手当金を受けるためには、次の4つの条件を満たさなければなりません。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
傷病手当金を申請するためには、まず医師の診断を受け、必要な治療を開始します。その後、診断書を取得しますが、書面には病名や治療内容、そして、仕事を休む必要がある期間が明記されていなければなりません。申請に必要な書類は、傷病手当金支給申請書や診断書です。申請書が完成したら、健康保険組合に提出し、問題がなければ傷病手当金が支給されます。通常、健康保険組合に申請書が到着してから処理されるまでは2週間前後です。しかし、書類に不備があったり、審査の状況によってはさらに時間がかかる場合もあるため、申請は早めにおこないましょう。
注意すべきなのは、傷病手当金は病気やケガのために働けない間(支給開始日を起点として通算して1年6カ月)のみ支給されるため、労働可能と判断されると支給が停止される点です。
障害年金
障害年金とは、病気やケガによって一定の障害状態になった人に対して支給される公的な年金制度です。障害年金には、国民年金から支給される「障害基礎年金」と、厚生年金から支給される「障害厚生年金」からなります。それぞれ障害基礎年金は、国民年金に加入している方が対象で、障害厚生年金は、厚生年金に加入している方が対象となります。
障害年金の支給を受けるためにはまず、医療機関で診断を受け、障害の状態を確認します。次に、医師に「障害年金用診断書」を作成してもらいますが、この診断書には、障害の種類や程度、日常生活の制限状況などが詳しく記載されていなければなりません。診断書が完成したら、必要書類を用意して申請をおこないます。申請後は、提出された診断書や書類をもとに障害の程度が確認され、支給の可否が決定されます。
障害年金の請求は、障害認定日以降であればいつでも提出できますが、さかのぼって受け取れる年金は5年分が限度であるため、手続きは早めにおこないましょう。支給額は障害の程度や加入年数によって異なります。事前に十分な情報を確認しておくようにしましょう。正確な手続きや受給要件は、社会保険事務所や公的機関のWebサイトで確認してください。
民間保険会社の就業不能保険
就業不能保険とは、病気やケガなどの理由で働けなくなった場合に、一定期間、保険金が支給される保険です。この保険は、収入の途絶による生活費の負担軽減を目的とし、通常、保険契約者が働けなくなった場合に保障が受けられます。就業不能保険は、特に自営業者やフリーランス、またはリスクの高い職業に従事する方々には欠かせません。ただ、この保険は任意になるため、保障を受けるためには自主的に契約する必要があります。
就業不能保険の保障を受けるためには、いくつかの条件があります。まず、契約時に設定された保障内容に基づいて、保険会社が定めた基準を満たさなければなりません。多くの保険会社では、免責期間(就業不能が発生してから保険金が支給されるまでの期間)が設けられており、この期間を過ぎている必要があります。
受給を申請する際には、まず医療機関で診断を受けなければなりません。医療機関で受け取る診断書をもとに、保険会社は就業不能保険の受給を判断します。受給の申請をおこなう際は、保険証券や契約書、診断書を用意しておくとスムーズです。保険会社によっては、申請書類を公式サイトからダウンロードできる場合もあるため、適宜活用しましょう。書類提出後、保険会社による審査がおこなわれ、就業不能の状態が認められれば、保険金の支給が決定されます。支給金額や支給期間は、契約内容によって異なるのでよく確認しましょう。
民間保険会社の医療保険
医療保険とは、病気やケガによって入院や手術を受けた場合に、治療費や入院費用をカバーするための保険です。治療費をカバーするのが本来の目的で、住宅ローンの返済に充てることが目的ではありません。主に、入院日額5,000円から1万円、手術1回につき10万円から20万円のような給付が一般的ですが、なかには入院日数に関係なく、一時金として数十万円から100万円受け取れる内容の保険もあります。
そのような場合は、住宅ローンの返済に充てたり、足りなくなった収入や、追加で必要になる治療費の工面に活用できます。医療保険は、保険会社によって保障内容が異なるため、自身の生活スタイルや健康状態に応じて適切なプランを選びましょう。
旦那が働けなくなって住宅ローンが返済できない時の対処法と流れ

住宅ローン返済中に夫が働けなくなった場合の手順や流れ、注意点を説明していきます。
各種保険や保障を申請する
夫が働けなくなった場合、まず原因を確認し傷病手当金や労災保険、雇用保険の失業給付など、どの保険が適用されるかを特定しましょう。次に、必要書類(医師の診断書や報告書)を準備し、所定の機関で申請手続きをおこないます。申請後は結果を待ちますが、その間は生活費の見直しや支出削減などの短期的な対策も検討が必要です。また、申請期限は遵守し、書類に不備がないか確認するようにしましょう。
金融機関へ相談する
各種保険や補償を申請するのとあわせて、金融機関に相談しましょう。まず、夫の収入減少や現在の収入状況、支出、ローン残債などを整理し、金融機関に相談する準備を整えます。次に、住宅ローンを組んだ金融機関などへ電話で連絡し、相談の予約を取りましょう。相談時には、収入証明書やローン契約書、家計の収支表を持参し、返済猶予や減額、リスケジュールの提案を求めます。金融機関との相談の際には、誠実な説明が不可欠で、金融機関からの提案内容を十分理解したうえでの対応が重要です。
どうしても対処できない場合は任意売却を検討する
住宅ローン返済中に夫が働けなくなり、どうしても対処ができない場合は、任意売却の検討も視野に入れなければならないでしょう。任意売却は、金融機関の同意を得て自宅を市場価格で売却し、売却額でローン返済を進める方法です。まずは、住宅ローンの残債や住宅の市場価値、生活費などを整理し、任意売却が必要か判断します。その後、信頼できる不動産会社に相談し、物件の査定や売却活動を進めましょう。金融機関との交渉や、ローン残債が売却額に達しない場合の対応も必要です。
任意売却は信用情報に影響を与える可能性があり、売却後の返済計画や将来の生活設計も考慮する必要があります。専門家にアドバイスを受けながら慎重に進め、生活の再構築を目指しましょう。
住宅ローン返済中に旦那が働けなくなった時の残債についてよくある質問
住宅ローン返済中に夫が働けなくなったら残債がどうなるかに関するよくある質問をまとめました。
住宅ローン返済中に旦那が働けなくなったら残債はどうなる?
住宅ローン返済中に夫が働けなくなった場合、残債がどうなるかは、働けなくなった原因や状況によって異なります。高度障害の場合、団信によって残債が免除されるかもしれません。病気やケガによる就労不能も、団信に加入していて、団信の適用条件を満たせば債務が弁済される可能性があります。
しかし、すべての病気やケガが対象ではなく、保障内容により異なります。一方、転職や失業で収入が途絶えた場合は、弁済措置はありません。なお、いずれの場合も早めに金融機関に相談するようにしましょう。
旦那が働けなくなった時に活用できる制度とは?
夫が働けなくなった時に利用できる制度の一つは労災保険です。業務中や通勤中の事故や病気に対して、医療費や所得補償が提供されます。傷病手当金は、健康保険に加入している人が病気やケガで働けなくなった場合に、給与の約60%が支給される制度。さらに、障害年金は病気やケガで一定の障害が残った場合に支給されます。これらの公的制度に加え、民間の就業不能保険や医療保険も有用です。加入していると受給を受けられるケースがあり、いざという時の役に立つでしょう。
旦那が働けなくなって住宅ローンが返済できない時の対処法は?
夫が働けなくなり住宅ローンが返済できない場合、まずは各種保険や保障の申請をします。傷病手当金や労災保険、失業給付などを確認し、必要な書類を準備して申請しましょう。その後、金融機関へも相談し、収入減少にともなう返済猶予や減額、リスケジュールを提案してもらいます。その際、収入証明書やローン契約書を持参し、誠実な説明が大切です。
それでも対処できない場合は、任意売却も検討しましょう。任意売却は、金融機関の同意を得て自宅を売却する方法で、住宅ローンの残債や市場価値をもとに判断します。売却後の信用情報への影響や、将来の返済計画も考慮し、専門家のサポートを受けながら進めましょう。
まとめ
本記事では、夫が働けなくなった際に、住宅ローンの残債がどうなるかを原因別に整理しました。また、労災保険や傷病手当金、障害年金などの公的な補償制度に加え、民間保険も活用すると、収入減少時の経済的な負担を軽減できることを解説しました。住宅ローンを抱える子育て世代や中高年の家庭にとって有用となるので、よく理解して、夫が働けなくなった際に、住宅ローンの残債が残る時のリスク軽減に備えましょう。
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執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
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