テーマ:お隣さん

隣人田中さん

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驚いた。缶珈琲とは違う。当たり前か。
「田中さんはさ、何の為に勉強しているの?」
ふと、気になった。
「う~ん。将来退屈したくないからかなぁ。人生に。」
「…何すか、それ。」
意味が、解らない。
「あとは色々、責任かなぁ。」
ニュアンスの欠片も、伝わらない。
「ごめん、私には意味がわからない。」
いつか解るのか、ずっと同意できないままか、どっちだろう?
「ふーん。そういえば私、高校の時のアダ名『仙人』だったよ。」
「それは、わかる気がする。」
私は大きく頷いた。
「全然関係無いけど、これ、バターちょっとだけ落とすと某珈琲店の味。」
田中さんが、ニヤリと笑う。
「え!何てお店⁉」
思わず前のめりになった。
「やっぱり、リアクションでかいよね~。」
田中さんが笑うと、笑われていても何故か嬉しい。2人で笑いこけていると、時間を忘れる。不思議な縁のお隣さん。卒業までお隣さんだといいなぁと、ぼんやり思った。

田中さんと隣人同士3年目、互いにタナカ、ミスミと呼びあう程の仲にはなったが、特にプライベートな話は深くはしなかった。しかも私はどうしても一目置いていた為、心の中では「田中さん」と呼んでいた。

だから今日、サクッと明日引っ越しする事を告げられ、妊娠により休学する事、相手があの准教授と知り、たまげた。
家の玄関口で、立ち話となった。
「す、す、すすすすす、好きなの?」
驚き過ぎて、噛んでしまう。
「…。んー…。んー…。」
煮え切らない答えだが、既に子供がお腹にいるのだ。
「とりあえず、落ち着いたら連絡するね。ミスミ、元気でね。」
せわしなく、軍手した手を振り出て行った。
「…わ、わかったー…。」
私も手を振り、玄関のドアを閉め、呆然としたまま部屋に戻った。

「お母さん、聞いていた?」
今日は、母が来ていた。部屋の真中の折り畳みテーブルに両肘のせ、床に座っている
「噂の田中さんね。」
片手で珈琲飲みながら、母が答えた。
「あの准教授と暮らすのかな。」
名前が、出てこない。さっき田中さんが言った筈だが、衝撃が強くふっとんでしまった。
「田中さんに、よく絡んで、田中さんも、嫌がって…。」
思い返すと、嫌とは、言ってはいなかったか。
「前、菜奈ちゃんから聞いたね。学歴云々って話。」
「そそそ、それ!わりと何か、田中さんは、冷静にさー…。分析していたというか、ちょっと見下す感じで。」
やっぱり、あの二人と恋愛関係が、繋がらない。
「まぁ、男と女だと、ちょっとの掛け違いで関係が変化したりもするものね。」

隣人田中さん

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