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隣人田中さん

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その後ゼミで会っても、お互いに会釈はするが、わざわざ近くへ行って話したりする程でもなく、つかず離れずな関係が続いた。お互いに仲良い友人がそれぞれいて、余り接点なく日々は過ぎていった。
そしてだんだん、私にとってTVは、よその家で観させてもらうものとなった。陰では「昭和の子供」と呼ばれている様だった。万年貧乏な事が広まり、余りものを貰う事が増えた。時々いらないものもあったが、リサイクルショップに売れるものは売っていた。
それが、田中さんの耳に、どう入ったのだろうか?

「 三角さん、大丈夫?」
ある日部屋から出た所を、声をかけられた。隣のドアを開け、私を見ている田中さんがいた。キョトンとしていると
「それさ、アイツ、自分で処分すればよくない?」
私は手に、昨日大学で貰った壁掛け時計を持っていた。景品で貰ったと言われた。受け取るところを、田中さんは見ていたのだろうか。そんなに値段はつかないと思う代物だった。捨てるには惜しいけど、使わないから私にくれたのだろう。
「うーん、水代位にはなるかな?と思って。」
近所のスーパーで、ミネラルウォーター2リットル¥58だ。
「それ、売るの?」
「そう。最近、地球を掃除している蟻さんの気持ち…。」
今度は、田中さんがキョトンとした。地に落ちたお花の蜜や、硬直した虫の幼虫の死体に群がる蟻の姿が目に浮かんで、言ってしまった。分解して運んで、何もなかった様にする。そして自身にエネルギーを蓄える。私は、運んで売って処分して、小銭を蓄える。
「三角さん、何か疲れてない?」
その通りだ。大きく、頷いた。
「今夜空いている?良かったら、家でご飯一緒に食べない?」
更に、大きく頷いた。意外な誘いにビックリだが最近、バイト先の賄いも無くなり、ろくなもの食べていなかった。
「是非。」
遠慮しない自分が、恥ずかしい。
「わかった。後で連絡するよ。」
田中さんはにこやかに手を挙げ、パタンッとドアを閉めた。
「あ、連絡先…。」
お互い、知らないのに。夕方以降、自宅待機かな?

壁掛け時計は¥40で売れた。コンビニで駄菓子のミニチョコ¥31買って、食べながら家までテクテク歩いた。この準チョコは、チョコ心を理解している。クラッシュされたココアクッキーは量増しかもしれないけど、歯応えとほろ苦さが絶妙に効いている。
よく、母とお茶飲みつつお菓子をつまみ、味の評価をオーバーに言って笑いあった。やり取りを色々と思い出したら、口元が緩んだ。が、ふと、足が止まった。

隣人田中さん

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