テーマ:お隣さん

隣人田中さん

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アレ?もしかしたらお母さん今…一人家で寂しい?

今まで全く、考えなかった。自分のやる事多すぎて、母の事考える隙がなかった。急に話したくなって、ソワソワしてきた。

「へぃへぃ。」
母に電話をした。久しぶりに聞いた第一声が、これか。
「何で、もしもし、じゃないの?」
「お母さん、着信音が今、ひょっこりひょうたん島なの。」
「ふーん?それ、知らない。」
「ググりなさい。」
「うん。わかった。」
何だか拍子抜けする位、いつも通りの会話だ。
「どう、一人暮らしは?慣れた?」
「うん。」
「やっぱり2階選んで良かったでしょ?女の子なんだから。」
部屋探しの時、母がどうしても譲らなかった条件だ。
「うん。」
何だか胸に、ちわ~と広がる何かを感じる。景色が、ボヤける。胸が詰まる。まずい。
「私も、電話しようと思っていたのよ。ん?聞いている?」
「…うん。」
どうしても、涙声になった。鼻水も垂れそうだ。
母も、暫く黙ってしまった。
「…何かあったの?」
特には無い。しかし、泣けてくる。
「何も無いけど…。」
涙を堪えようとすると、鼻の奥がツーンとする。
「…大丈夫よ。菜奈ちゃん。」
「…お母さん…。」
「菜奈ちゃんには、こんなにいいお母さんが、ついているのだから。」
「…。」
「頭大丈夫かな~?このお母さん、自分で言っちゃってねぇ。」
母は、朗らかに笑った。
「…涙乾くわ。」
「あはは~。」
会えずに寂しいのは、自分な事に気が付く。
「いつもは、結構元気だよ。」
「そう、良かった。あ、あのね、お母さん臨時収入あったから、菜奈ちゃんにもちょっと振り込みしといたからね。」
「本当?!」
朗報に、一気にテンションが高まる。
「えー、でも、平日に教えてくれればいいのにー。引き落とし手数料かかるじゃん。」
「そんなにお金無いの?家計簿つけている?」
ギクッとする。つけていない。
「大丈夫だよ。さっき、友達と夜ご飯行く約束したから。もっとお金おろしとけば良かったなぁと思っただけ。」
とっさに嘘をつく。本当は今、月曜日まで所持金500円で過ごす予定だ。
「…まあ、水でも飲んどきなさいよ。はは。菜奈ちゃん丈夫だから、大丈夫でしょ。」
「もうちょっと、心配してよ。」
他愛ない会話をして、電話を切った。母は、いつも通りの母だった。安心したら、ぐ~っとお腹が空いてきた。お菓子では、満たされなかった様だ。帰ったら何か食べよう。いそいそと、家路を急いだ。

素材の悪いものは、出来立て命だ。
小麦粉、粉末だし、水を混ぜて、フライパンで焼いた。薄いクレープもどきなものが、焼き上がった。天気が良いのでベランダに出て、窓サッシに腰掛けて熱々な内に、サクサク食べた。やや粉っぽい、湿気た魚チップスみたいな味がした。冷えたらきっと、最高に不味い代物だと思う。とりあえず、腹が満たされれば、いいのだ。

隣人田中さん

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