7月期
テーマ:お隣さん
みどりの手紙
私は転げるようにして玄関から飛び出した。けれど、当たり前にもう彼女の姿はなく、さっきまで下の道路に停まっていた引っ越し業者のトラックも既にいなかった。
私は彼女からの手紙を握りしめながら、あの日彼女が頬に当ててくれたアイスクリームの冷たさと泣き出しそうだった彼女の顔を思い出していた。
彼女の、小さいけれどどこか強引な声と肩を掴む小さな手。それは確かにあのとき私の心の中にあったドロドロとした感情を、温かい涙に変えてくれた。
自分が守られるべき存在でいていいのだと教えてくれたのは、翠さんという男の人ではなかった。私はいつだって、私を守ってくれるのは男の人だと思っていた。だけど、本当に私を案じ守ろうとしてくれたのは、守られて当然というような可愛らしい見た目をした、私が勝手にそう思って勝手に劣等感を抱いてきた、小さな女の子だった。
「お礼を言いたいのは…こっちの方よ…」
呟いてドアの前にずるずると座り込むと、私はいつまでもその淡い緑色の封筒を胸に抱き続けていた。
みどりの手紙