7月期
スクランブルス
「ねえ、『インダハウス』ってなに?」
「ほら、昨日クラブでMCフロッグマンが叫んでたでしょ。なんて言うか、意味はないっちゃないんだけど……」
雪絵ちゃんがヒナと私、ピノチオくんを見やりながら言葉を探している。アンドロイドは直立したまま彼女の言葉を待っていた。
「ヒップホップ界隈の人たちが使う言葉で、『俺たちはここにいるぜ!』とか、そんな感じかな?」
「なにそれ。そのまんまじゃん。わかったか、ピノチオ?」太郎さんがくっくと笑う。ピノチオくんからはかすかな作動音しか聞こえてこない。
「言い得て、妙かも」グレーテがピノチオくんに食パンを食べさせようとしながら呟いた。
インダハウス、イン・ダ・ハウス。私はMCフロッグマンのおかしなラップを思い出しながら口の中で唱えてみる。
私たちは一体なんだろう。隣人にしては近すぎるし、家族と呼ぶにはいささか希薄な繋がりだ。友人というほどべたべたもしない。でも私たちの間には、確かに同じ時間が流れている。
『いいおうちですねー』ぐるぐると両腕を回しながらピノチオくんが言った。
「べにこがいっつも掃除してくれてるからな……ってお前、ゼペットゼミの研究室と比べてるだろ。あそこ超汚いもんな」太郎さんが眉をしかめた。
「日本のパンはおいしいよ」
「ほらグレーテ、よしなさい。だいいちアンドロイドなんだから食べるわけないでしょ」
「あ、そいつパン食うんだよ」「食うの!?」
みんなの声が重なる。同じ空間、私たちの家。ささやかなイン・ダ・ハウス。ヒナと目が合い、私は少し笑った。
スクランブルス