テーマ:二次創作 / グリム童話、ジャックと豆の木、人魚姫、ピノッキオの冒険

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読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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【「ふわ」がひとつ多いよ。それよかグレーテさ、日本のお菓子メーカーとかパン工場に就職したらいいんじゃない?】
「それもいいかもしれない。今度真面目に考えてみなければ」
 グレーテは日常会話はもちろん、日本語の読み書きもほぼ完璧にこなす。ヒナの筆談が彼女の語学力をめきめき上げているのだから、なんとかの母の占いも一応誰かの役に立ってはいるのだ。
【ほらこことかさ……ヨーロッパにも支社があるみたいだし……】
 ヒナが有名な製菓会社のホームページを表示し、グレーテが口元を拭いながら熱心に覗きこむ。「シャアハウス」の無線ネット環境を整えてくれたのはヒナだ。四六時中タブレットが手放せない自分のためにというけれど、そのおかげでグレーテが母国とコンタクトをとるのも随分簡単になったし、おばあちゃんに複雑なネット設定は難しかっただろう。植物学を専攻する太郎さんは大学から野菜や果物、その他怪しげな新品種を調達してくれる。私は掃除と集金、家賃と光熱費の管理。グレーテは気が向いたときに台所で菓子パンを作る。
「そういえばべにこ。今夜、新しい住人が来るという話は、太郎から聞きましたか?」
「へ?」
 私はグレーテの青い目を見て固まった。初耳だったし、もうシャアハウスは満室だったからだ。

「ほらみんな、新しい住人だぞー」
 その夜、太郎さんが背中に抱えて持ってきたのは、人型のロボットだった。
「ゼペット教授のところで作ってる生体アンドロイドのプロトタイプなんだけどさ。研究室改装中で置き場がないっていうから引き取ってきた」
「また変なもの増やして……だいたいゼペット教授って専門は工学でしょ、あんたのゼミ担当じゃないじゃん」
 雪絵ちゃんが毒づく。
「悪ぃ、べにこには一応言っとこうと思いつつ忘れててさ。こいつの正式名称は『Personal Interface Nano-techOS Cybernetic High-Intelligence Organism』……研究室ではイニシャルをとってPINOCHIO、『ピノチオ』って呼んでいたよ」
 雪絵ちゃんをスルーして説明しながら、太郎さんは素早くアンドロイドの背中から延びるケーブルをそこかしこに繋いでいく。身長130cmぐらいのそれはホーローのような硬質の素材で大部分が構成されており、無機質ながらもどこかしら温かみを感じさせるビジュアルだった。まぶたまで備えた瞳には安物のつけまつげが付けられている。これは太郎さんの遊び心だろう。

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