テーマ:二次創作 / グリム童話、ジャックと豆の木、人魚姫、ピノッキオの冒険

スクランブルス

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 配線作業を終えた太郎さんが頭部のスイッチを押すと、ブーン、と低い音が室内に響き、まぶたがゆっくりと開かれる。瞳には電子の光が灯っている。
 私たちが息を潜めて見守っていると、ピノチオくんが頭をくいっと上げ、太郎さんの目をしっかりと捉えた。
「グッドモーニング、ピノチオ。今紹介してやるな、俺の隣にいるのがヒナキ。その隣がべにこ、グレーテ、雪絵だ」
『太郎さん、お久しぶりです。ヒナキさん、べにこさん、グレーテさん、雪絵さん。はじめまして』
 ピノチオくんは時計回りに首を動かしながら、私たちの目を見据えて一人ひとり名前を呼んでくれた。私たちは「おー」「喋った」「これがクールジャパンの技術力」などと言いながらピノチオくんを撫でてやる。アンドロイドと接するのは初めてだけど、多分こんな感じで間違ってないだろう。単語が示す正確な意味はわからないが、「生体アンドロイド」というだけあって、手に触れた頭部はかすかな湿度と温かみを湛えているような気がした。
『皆、さん、は』
 ピノチオくんはゆっくりと私たちを見回しながら言葉を紡いだ。まだ起動したてだからか、少し言葉がぎこちない。
『皆さんは、ゼペットゼミの人たちですか?』
「いや違うよ。ここは俺たちの家『シャアハウス』。電源切っている間にお前をここまで運んできたんだ。ここのみんなは、俺とルームシェアしてる住人さ」
『じゃあ、皆さんは、お友達ですか?』
 アンドロイドの予想外の問いに、私たち全員が一瞬言葉に詰まった。しばしの後、全員が天井の隅を見つめながら思案する。
「……友達じゃ、ないな……? あれ、友達なのかな?」
「そう言われればなんだろね。お隣さんみたいなもん?」雪絵ちゃんがうーんと首を傾げる。
「そんなこと考えたことなかったねえ」と私。
「……インダハウス、だよ」
 聞き覚えのない声がリビングに響き、私たちは大きく息をのんだ。
『インダハウス? 「……in the house」ですか? 少しジャマイカなまりが強いようですけれど』
 ひとりだけ事情を知らないピノチオくんが無邪気に問いかける。発言の主、ヒナに向かって。
「Echt!?」
「ヒナ、今喋ったのあんた!? なんか怪しい願掛けはもういいの!?」
「ほー、初めて聞いたけどそんな声してたんだ。なかなかカッコいいじゃん」
【このコは人間じゃないから話してもいいの】
 驚く3人に、無表情のヒナは素早くタブレットで返事をする。私は驚きを抑えつつ、尋ねた。

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