6月期
夢のあと
「おかーさん、ここにおうちたてるの?」
女の子にトレーナーのすそを引っぱられて我に返ったななこは、
「そうよ。お母さんが、子供の頃住んでたところ」
と答えました。私の胸(おそらく、支柱のあたりです)は踊りました。「家を建てる」?
「でも、ほかにおうちないよ」
と女の子がほっぺたをふくらませます。ななこは、
「分譲住宅だから、これからどんどん建つって。うちが、記念すべき一軒目」
と、方目をつぶってみせました。
ファミリーカーの運転席から、男の人の声が呼びました。
「おーい、この野っぱらの向こうに、モデルハウスと事務所があるみたいだ」
ななこと女の子は同じような返事をし、私の下から這い出ました。
「おかーさん、『かばニュータウン』って、おかしな名前だねぇ」
女の子が言うと、ななこがトートバックから、すっかりさびついた「わ」を取り出し、
「帰りに、これを戻しにいかなくちゃね」
と、ひとりごとのようにつぶやきました。ななこが振り返って私に手を振り、私もおなかのりぼんをひらひら振り返しました。
私はもう、ひとりぼっちではありません。
夢のあと