テーマ:ご当地物語 / セイタカアワダチ村*架空の町

ここは セイタカアワダチむら

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 勇者さまたちはどうやら、セイタカアワダチ村の辺りでレベルをたくさんあげておきたいらしく、何日も滞在した。だから、私たちは苛々し出した。いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります 私は何十回もそういった。早く、吟遊詩人の看病をしにいきたかった。黙っていたけれど、彼は私の恋人なのだ。
 ある日、勇者さまたちが村を出ているときに、私は宿屋を抜け出して、吟遊詩人がいる村の端っこまでいった。勇者さまたちに見つかったら大変なことになる。私を見て村人たちは口をぱくぱくさせた。ほら、薬草よ、食べて、と私は吟遊詩人にいった。ありがとう、と吟遊詩人はいって、薬草を食べた。すると、うっ、といって、近くの家のなかに駆けこんだ。
 薬草が傷んでいるのだと、気づいたときにはもう遅かった。新しい薬草も、めずらしい薬草も、みんなやられている。勇者さまたちはすでに薬草を大量に摂取していて、彼らのお腹のなかに溜まった腐った薬草は一斉に、急激に彼らを苦しめた。
 勇者さまたちは宿屋のトイレに近い部屋にほぼ寝たきりのようになった。勇者さまたちのことはどうでもいいけれど、猫の看病をしてあげたかった。けれど、私は勇者さまの前では動けない。
 本当にそうなの?
 突然、頭のなかで声がした。私はノイローゼになってしまったのかもしれないと思った。けれど、声はつづいた。勇者さまの前で自由に動いちゃいけないなんて、だれが決めたの? そういえば、だれが決めたんだろう。でも、そういうきまりだよね。通行人は動けるけど、私は宿屋の娘だから、ずっとカウンターのなかにいなくちゃいけない。つまんないの、と声がいった。もしかして、これって神の啓示なんじゃないか、と私は思った。勇者が天の声を聞いたときと、同じやつなんじゃないのかな。ちがうかな。どうかな。そういうことに、してしまっていいかな。いいよ、と私は自分にいった。カウンターを出て、堂々と歩きはじめた。まず、猫を看病しないといけない。たくさんの水を飲ませて、悪いものをぜんぶ出しきらせた。それからついでに、勇者さまと戦士の看病をしてあげた。新しくて珍しい、入手困難な薬草をたくさんあげた。熱にうなされる勇者さまが、私に向かって、姫さま、といった。あ、そうなんだ。私ってお姫さまなんだ。だから、天の声が聞こえたんだ、ということにした。私はお姫さまなので、吟遊詩人の彼とは別れた。世の中には身分のちがいというものがあるのだ。つらいけど。村を回って、みんなもう役割なんて演じなくていいのだといって、村人たちを解放していった。

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