テーマ:ご当地物語 / セイタカアワダチ村*架空の町

ここは セイタカアワダチむら

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

だから焼き物屋だけは宴会を早々に切り上げて、早くも壺作りをはじめなければいけなかった。壊された側から作っているのでは到底間に合わないし、勇者さまに焼き物屋があることを知られてはいけない。村には勇者さまにとって必要なお店しか存在してはいけないのだ。たとえば――武器屋、防具屋、薬草とかを売るところ(この村の場合はひとつの店がみっつを兼ねる)、教会、宿屋。
街といえるほどのところにはカジノがあったりする。そこでは魔物を虐げて賭けを行っているそうだ。ああおそろしい。
ああおそろしい、勇者がくるなんて、とみんな嘆きながらも、やっぱりうれしいのだ。肝心なことはまた後日決めようということになって、その日は教会でどんちゃん騒ぎが行われた。司祭さま、わしが急性アルコール中毒で死んだらなんぼで生き返らせてくれるかいね!
 まず、見張り台が設置された。天の声を聞いた存在だからといって、この時点での勇者さまはまだ徒歩でしか移動できないから、この任務は簡単かつ重要だった。なんの職業にも就いていない通行人たちが入れ替わりで見張った。けれど、一番大事な任務は吟遊詩人だ。なにせ、彼の作った台詞をヒントにして勇者さまは行動するのだから。勇者さまがこの村を出ていくまで、私たちはその台詞しか喋ることができない。もし勇者さまがあほだったりしたら、勇者さまはヒントがわからずにこの村に長くいることになる。すると私たちは永遠に同じことしかいえないのだ。だから吟遊詩人は簡単で、けれど村人みんなが勇者さまと話せるような、謎解きの要素が少しある台詞を考えないといけない。なんて重圧のかかる任務なんだろうか。吟遊詩人は下痢ぴーになって寝込んでしまった。下痢といえば不思議なことに、勇者さまがトイレにいくところを見たことがない。それとお風呂も入らない。宿屋に泊って、ベッドの上に寝そべって、そしたら急に一瞬だけ暗くなってまた次の日がはじまるのだ。勇者さまはわしらと住む世界がちがうけぇの、余計なこと考えん方がええぞ。
 きたよー! と通行人Bが叫んだ。
 最初の村を出よったで!
 戦士みたいなんといっしょじゃ!
しかも魔物つれてきよるぞあいつー!
こんな序盤から魔物を仲間にすることができるなんて、今回の勇者はひと味ちがうみたいだ。だから急がなければならない。そう吟遊詩人に急かしても、ひどい下痢だった。薬草を与えてもだめだった。
どうするん、なあどうするん。もうすぐあいつ着くで。まだ台詞できてへんねやろ? やばいやん。あーあ、怒られるわ。

ここは セイタカアワダチむら

ページ: 1 2 3 4 5 6

この作品を
みんなにシェア

6月期作品のトップへ