テーマ:ご当地物語 / セイタカアワダチ村*架空の町

ここは セイタカアワダチむら

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空が一面暗くなって、黒紫色に渦巻き出した。空に巨大な顔が見えたり、どすの利いた声が聞こえてきたわけではなかったけれど、これはもうそういうことだろうとセイタカアワダチ村のみんなは合意した。魔王が復活したのだ。
景気づけにということで、宴会が開かれた。この村には酒場がなかったから、教会で宴会が行われた。みんな酔っ払いながら、おおまかな段取りを組んでいった。二回目だから気を抜いていた。
一度目に勇者さまがきたときにはみんなしどろもどろで緊張してしまっていた。台本の台詞をほとんど覚えられていなかった。今回も台本が制作された。吟遊詩人が作った。この村に芸術的な人は彼しかいなかったから、みんな彼が作るのが当然だと思った。吟遊詩人は渋々といった様子だったけど、内心ではけっこうよろこんでいることをみんな知っていた。吟遊詩人は口を動かしていないとにやけて仕方がないとでもいうように、ずっと薬草を噛んでいた。薬草はこの村の名物だから、腐るほどある。
合わせて棺桶も作らなければならなかった。この村はマップの序盤の方だけれど、それでも勇者さまやその仲間はいつ死ぬかわからない。前回の棺桶は思っていたより腐っていなかったから、それをそのまま使おうという方向に持っていきたかったが、仕様を変更した方ではいいのではないかという声が出た。ほら、みんな自分の衣裳を見渡してみぃ、と通行人Aがいった。通行人Aに指摘されるとはみんな思ってもみなかったけど、実際そうだった。私たちの衣裳は前よりも少し色味が増えていた。前は原色だけを組み合わせたような衣裳だったけれど、今回はもう少し淡い色も使われていた。もしかして、これがパステルカラーっていうやつですか? 確かに仕様が変わっていた。通行人Aの頭がよくなったのもそのせいかもしれない。けれど私たちは、勇者さまがいるあいだはバカにならなければならない。
一番忙しいのは焼き物屋じゃ、と今度は通行人Eがいった。確かにそうだ。このセイタカアワダチ村は薬草が全国的に有名で、薬草を売る人が一番多忙なように見えるけれど、それは表向きのことだ。本当は焼き物屋が一番忙しい。きっとあなたが住んでいるところもそうなんじゃないかと思う。勇者さまは勝手に人の家の壺を壊すのだ。しかも、勇者さまが一旦村を出て、また帰ってきたときには壺を壊れたままにしておいてはいけない。またすぐに壊せるように新しい壺を設置しておかないといけない。これは大変なことだ。不法侵入に加えて器物破損じゃないか! と前回勇者さまが魔王を倒したあと国に向けて有志が訴えた。けれど却下された。王都も同じ被害にあっていたらしかった。これは国王でもどうにもできない問題なのだ。

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