テーマ:ご当地物語 / セイタカアワダチ村*架空の町

ここは セイタカアワダチむら

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 そこからみんなは大急ぎで配置に着いた。なので当然、台詞を覚えていない人もいるし、通行人Hなんか台本を見ることすらできていない。でももうどうにもできない、勇者がきてしまったのだ。私たちは同じ台詞しかいうことができないし、決められた範囲しか歩くことができない。だから、トイレがないところを担当する人たちには同情します。
 私も配置に着いた。宿屋のカウンターのなかで体を固定した。
 宿屋のドアが開いて、勇者さまがやってきた。はじめは、戦士の方が勇者かと思った。勇者さまはというと、なんか、ぜんぜん勇者っぽくない。ターバンみたいなものを頭に巻いていたりしないし、黒目がでかでかとしていない。細い目で、前髪もちょっと長くて、ジレとか着てるし、そこらへんの大学デビューしたての人みたいだ。こんなのが勇者さまなんてとちょっとがっかりしたけど、でも、まあ、そういう時代なのかもしれない。真っ先に宿屋にやってきたということはまだぜんぜんレベルが高くないんだ。へぼい。こんな勇者さまなら、つけいる隙があるかもしれない。
勇者さまがつれている魔物は、魔物といういよりは虎の赤ちゃんみたいだ。いや、というよりただの猫だ。かわいい。
 このあたりに薬草を売っているところはありますか、と勇者が聞いてきた。
 いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります
 薬草がどうのこうのと、村人たちはそればかりいうんですが。
 いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります
ああ、ここの村人もこういうやつらしい、と戦士がいった。私はカチンときてこういった。いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります 勇者と戦士は少し話して、薬草を買うより先に泊まることにした。そしてすぐ目覚めた。よくおねむりになりましたか 勇者さまたちは外に出ていった。他のみんなは無事にやれるだろうかと心配になるけど、私はここを離れるわけにはいかない。
 夜になって、また勇者さまたちがやってきた。
 この村はいったいどうなってるんだ、と戦士がいった。いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります みんな、いうことがでたらめだ。いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります もしかしたら、魔物にやられているのかもしれない。いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります それか、みんな魔物なんじゃないか? いらっしゃい ひとばん 5ゴールドに なります。とりあえず今日は休もう、と勇者さまがいって、5ゴールドを払った。

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